障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第124障『ずっと俺のターン』

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【4月1日、19:50、フリージア王国、城下町にて…】

前田は自身のPSIで変わった形のハンドコールベルを創造した。

「んじゃマぁ、こっカら先は、ズット俺のターンって事デ。」

ヤブ助は地面に膝をついたまま動かない。

「ヤブ助さん‼︎」

ヤブ助の危機を感じ、裏日戸の治療を中断してヤブ助に加勢に行こうとした氷室。
すると次の瞬間、前田の操るフリージア市民たちが瀕死の裏日戸に向けて一斉に矢を放った。

「『現代のオーパーツバイオクラフト』!!!」

氷室は踵を返し、裏日戸の正面に肉壁を作って矢を防いだ。

「くそッ…‼︎」

その隙に、前田はヤブ助に攻撃を仕掛ける。

「とりあエず、完全ニ発症させるっスよ。」

すると、前田は自身のPSIで作ったハンドコールベルをヤブ助に向け、その音がハッキリ聞こえるように鳴らした。

「『トロイアの鐘パンデモニカ』!!!」

説明しよう!
前田のタレント『トロイアの鐘パンデモニカ』は他者を操作・洗脳し、さらにそれを周りに伝染させる能力である!
先ず、操作したい相手に鐘の音を十秒間聴かせ続け、その後に命令をする。命令後の操作はオートだが、直接鐘の音を聴かされ操作された者に限り、例え被操作者が鐘の音が聞こえない位置にいたとしても、命令の変更は可能。
また、この操作は他者に伝染する。直接鐘の音を聴かされた被操作者が非操作者に触れる、もしくは被操作者が触れていた物に非操作者が触れる事で、非操作者は感染する。その際の操作命令は伝染をさせた被操作者に依存する。
ちなみに、前田からの直接的な操作命令を受けなかった伝染被操作者の場合は、先の陣野のように、ある程度の痛みや衝撃で操作を解除する事はできるが、伝染を解くことはできない。その為、前田が直接的に操作した者への命令変更時に鐘を鳴らした場合、その命令変更を受けた被操作者の伝染被操作者の操作が再発する。
タイプ:操作型

今、ヤブ助は伝染被操作者。つまり、ある程度は自我を保つ事ができる。前田はそんなヤブ助の自我を完全に断つ為、直接的な操作を試みたのだ。

「十秒経ッタかな。」

前田はヤブ助に十秒間、鐘の音を聴かせ続けた。コレで命令を言えば、ヤブ助は完全に前田の操り人形となってしまう。

「俺もさ、出る杭ハ打つ派ナんすよね。障坂ガイの事はまぁ、そこノ奴カラ聞く事にするわ。」

そこの奴ら、つまり、氷室達の事。前田はヤブ助を危険人物として、今この場で殺すつもりだ。

「ダカラ命令っす。」

前田はヤブ助にハンドコールベルを向け、命令を言った。勿論、命令の内容は桜田と同じ、あの言葉。脳機能のシャットダウン。あっさりと終わってしまった。

「死ネ。」
「断る。」

次の瞬間、ヤブ助は地面から立ち上がり、高速で前田に詰め寄った。

「『毀甲きこう』ッ‼︎」

ヤブ助は手刀で前田の両肩を突いた。ヤブ助の突きは前田の肩の関節を外し、さらに靭帯を切り裂いた。

「ナグッ…‼︎」

前田は激痛を感じると共に、何故ヤブ助が動けたのか理解した。

「(コイツ…解イてヤがった…‼︎)」

そう。ヤブ助は前田が直接操作を試みようと鐘を鳴らしている間に、舌を噛んで伝染操作を解除していたのだ。

【ヤブ助の回想…】

潜水艦の中、桜田は皆に他者操作型のタレントの攻略法を言っていた。

「大体の洗脳や操作は、ある程度の痛みや衝撃で解除できるんだ。僕の『誤謬通信ブラックコネクター』みたいにあまり強くない操作に限りだけど。でも体の自由が効かなくなる場合が多いから、舌噛むのがオススメかな。かなり痛いけど。」

その後、桜田は洗脳の強弱の度合いや性能、『死ね』がどれだけ強いか、などの説明をしていた。それが今、ヤブ助の役に立ったのだ。

【現在…】

完全に前田の隙を突けたヤブ助。しかし、前田は確かにヤブ助に十秒間、鐘の音を聴かせ続けた。その際、ヤブ助は耳を塞ぐなどの対処をしてはいない。にも関わらず、何故ヤブ助を操作できていないのか。

「(でも何デ…⁈何デ操作デキてないンだ…⁈)」

実は前田があの鐘を鳴らし続けていた時、ヤブ助は手を使わず、耳抜きの要領で鼓膜を破っていたのだ。だから鐘の音を最後まで聴く事なく、操作を免れたのだ。
ちなみに、前田の『死ね』に『断る』と反応したのは、そう言うと思ったから。きっと前田は自身にそう命令すると読んでいたのだ。

「お前さっき『ずっと俺のターン』だとか抜かしてたよな?ふん、図に乗るな。」

ヤブ助は殺意の籠った視線で言い放った。

「お前にターンは無い!!!」

ヤブ助の威圧、それは白鳥組幹部である前田ですらも圧倒された。

「クソッ‼︎」

『死ね』にヤブ助が反応した事で、前田はヤブ助の鼓膜が破れているなど想像もつかない。きっと前田は『ヤブ助コイツには直接操作が効かない!』と思っているのであろう。そんな前田の焦りは半端なく、彼を逃走へ掻き立てるのに十分過ぎた。
本気の逃走を試みる前田。時速80kmは出ているだろう。速い。しかし、それは常人にとっての感覚。

「遅いッ‼︎」

ヤブ助は猫化し、PSIを纏って姿勢を丸めた。そして次の瞬間、ヤブ助は一気に飛び出す。時速はロイと戦った時以上、時速200km。

「ほふぇあぁあぁッ!!?!」

あまりの速さに素っ頓狂な声が出る前田。ヤブ助は一瞬に前田に追いつき、前田に激突する寸前で人間化した。

「『射痙しゃけい』ッ‼︎」

ヤブ助はその勢いのまま、前田の両太腿の筋繊維を断裂させた。当然、前田は地面に倒れ込む。
しかし、地面に倒れ込む隙すらヤブ助は与えない。ヤブ助は前田の眼球を再び潰し、全身の筋繊維や靭帯を断裂させ、関節を外す。

「ウギヤァああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!?!?!?!!」

かつてない激痛に悶える前田。しかし、ヤブ助の攻撃は止まらない。脳を揺らし、鼓膜を破り、横隔膜を痙攣させ、内臓を破壊し、睾丸を潰す。

「(モウッ‼︎ヤメテッ‼︎クレッ‼︎)」

きっとコレは八つ当たりだ。ガイに置いていかれた事による、ただの八つ当たり。

「そろそろ終わらせるぞッ‼︎」

ヤブ助は構えた。今までの構えとは違う。前田にトドメを刺すつもりだ。

「禁手ッ…周防封魂ッ…‼︎」

ヤブ助は前田の胸に両手の平を押し当てた。

「『地天拍動ちてんはくどう』ッ‼︎」

すると、前田の体内の血液が逆流した。

「ッ……!!?!ッ……!!!?!!?!」

次の瞬間、前田の心臓と全身の血管が破裂し、体の至る所から血が吹き出した。きっと凄まじい痛みのはず。しかし、叫ぶ為の声帯すらも前田にはもう無い。

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」

ヤブ助は前田に勝利した。

「ガイのバカ野郎……」

にも関わらず、ヤブ助は不機嫌だった。
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