障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第134障『恐ろしい勘の良さ』

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【4月2日、18:00、リズの家にて…】

ガイは『Zoo』の技を模倣し過ぎた影響で、意識を失った。その時、右の顔上半分を切断された館林が起き上がり、ガイに近いた。

「(気絶シている…?)」

館林はガイが急に気を失った事に困惑している。

「大地、コレはどういっタ理由か存ジテるかい?」

館林は自身の中に居る本田にその理由を尋ねてみた。もしかしたら、彼は知っているかもしれないと。実際、本田は知らないのだが。
しかし、本田は答えるどころか無反応だ。

「大地…?」

次の瞬間、館林と本田が壁に空けた穴から、ものすごいスピードで何かが飛んできた。

「『樂剉らくざ』!!!」

それは半猫化したヤブ助だった。ヤブ助はその勢いのまま手刀で右の顔、館林の首を殴った。

「ゲァッ…‼︎」

すると、館林の第三頚椎が首の皮膚を突き破り、体外へ放出された。

「やった…!」

その時、ヤブ助の肩に乗っていた猫化した氷室が勝利を確信した。

「いいや、まだだ!魔物化したコイツらの生命力は侮れない!」

ヤブ助は両掌で館林の胸を圧迫した。

「『地天拍動ちてんはくどう』!!!」

次の瞬間、館林の心臓と全身の血管が破裂し、体の至る所から血が吹き出した。

「ッ………」

館林は死亡した。

「呆気なかったな。」

ヤブ助がそう呟くのも無理はない。館林は研究者。戦いに関してはド素人だ。拷問に等しい修行を終えたヤブ助の敵ではない。
しかし、この時のヤブ助はまだ気づいていなかった。一人、逃げ仰たやつが居る事に。

【リズの家、上空にて…】

「(ケッ。充のやつ、油断しやがって。)」

本田はガイに頭部を切断される寸前、『魂移住計画ゴーンボーン』で館林の体から脱出していたのだ。
本田は幽体の状態で、上からヤブ助達を見ている。

「(さて。次は誰に乗り移ってやろうか…)」

その時、本田は思った。

「(ん…?待てよ…障坂が居るって事は、俺のタレントをコピー出来るって事。つまりは俺を追い出す事も可能。奴の仲間に乗り移ったとて、主導権は体の持ち主優先。リスクの方がデケェじゃねぇかよおい。)」

本田は今、ガイが『模倣コピル』ができない事を知らない。故に、『魂移住計画ゴーンボーン』のコピーを恐れているのだ。

「(強制退去だけならまだしも、前みてぇに殺されかねない。)」

本田は悩んだ末、結論を出した。

「(まぁいいや。俺ぁまたゴルデンに戻って好き勝手やるだけだ。障坂を殺せねぇのは惜しいがな。)」

本田は死んだ館林を眺めながら、リズの家から出ていった。

「(充。テメェが一番残酷でクレイジーだったぜぇ。地獄での刑罰が楽しみだな、相棒。)」

本田は幽体のまま、ゴルデンを目指した。

【リズの家にて…】

半猫化したヤブ助と猫化した氷室は、気絶したガイに近づき、症状を見た。

「右腕が破裂している。おそらく、『Zoo』の模倣による影響だろう。奴らの技は神経系に支障をきたすからな。」
「とりあえず、治療しますね。」

氷室は『現代のオーパーツバイオクラフト』でガイの治療を始めた。一方、ヤブ助は近くに倒れていたリズともょもとに事情を伺う。

「お前らは何だ?」

それに対して、もょもとが返答する。

「お、俺はもょもと。旅の途中にアイツ…ガイに助けられて…そんで、ガイが怪我したから、ココに…リズさんの家でお世話になってて…」

もょもとは半猫化したヤブ助に戸惑いつつも、事のあらすじを説明した。

「そうか。」

すると、ヤブ助は二人に頭を下げた。

「ガイが世話になった。礼を言う。」
「あ、ども。」
「こちらこそ、助けていただきありがとうございます。」

ヤブ助に続け、もょもととリズもヤブ助にお辞儀をする。その際に、もょもとは小声でリズに話しかけた。

「コイツ、ホントにガイの仲間ですか?」
「はい。嘘はついてないですよ。どうしてですか?」
「いや、だって…明らかに人間じゃ…」

リズはもょもとのセリフに首を傾げる。それを見て、もょもとは思い出した。

「(あ、そうか…この人、目が見えないんだった。)」

もょもとは再び、ヤブ助の風貌を見る。

「ま、リズさんがそう言うんなら間違い無いか。」

リズは心が読める。故に、ヤブ助が嘘をついていない事もわかる。リズの言葉により、もょもとはヤブ助を疑う事をやめた。

「治療終わりました!ヤブ助さん!」
「そうか。わかった。」

ヤブ助はガイを抱え、そのままソファの上に寝かせた。そして、ヤブ助は言った。

「悪いが、もう少しコイツの世話役になってくれないか…?」

「え…?」

リズは首を傾げる。

「置いていくのですか?」
「あぁ…」

ヤブ助はガイの寝顔を見て、眉を顰める。

「ガイにはもう、誰も殺して欲しくない…」

「「「………」」」
皆、問わなくとも理由は理解できた。故に、リズも断らなかった。

「はい。いいですよ、勿論。」
「ありがとう。できれば、ガイが起きたら引き留めて欲しい。まぁ、できる範囲で構わないが。」
「わかりました。」
「…すまない。」

ヤブ助は深々とリズに頭を下げた。そして、氷室を肩に乗せ、やってきた穴から外へと出た。

「あ!待って!俺も!」

もょもとはヤブ助達についていった。

「…」

リズは部屋を見渡す。館林達との戦いで部屋は荒れ放題。壁に穴は空き、床には館林の死体。

「わかる範囲で掃除しよ。」

【19:00、リズの家よりさらに北、永久氷地にて…】

ココは世界の最北端、永久氷地と呼ばれる。『地』と表記にあるが、その正体は一年中凍ったままの海である。気温は-100℃を下回り、草や木は勿論、一切の生命活動を許さない『死の領域』だ。そして、魔王が封印されし神殿はこの凍った海の上にある。おそらく、2万5000年前のリアムの使徒達が、誰も近づけぬようにこのような極地に封印場所を設けたのであろう。
そんな死の領域に集団で歩を進める影があった。白鳥組だ。彼らは魔物化し、この極寒の地に対応していたのだ。そんな中で数、人間のままの姿で活動している者がいた。その中の一人、ホールド達の師『Zoo』の殺し屋カフだ。

「ヨく動ク事ガできルな、貴様。」

彼女に話しかけたのは秀頼だ。彼女も他同様に魔物化しており、全身の皮膚が鋼のように硬質化していた。

「『Zoo』の殺し屋は寒さ程度じゃ死なねぇのさ。」
「化ケ物が。」
「へっ。鏡見て言えや、そのセリフ。」

彼女達が話していたのは集団の後方。一方、集団の先頭では、人間の姿の陽道と石川が話をしていた。彼らはPSIの纏いにより、寒さを防いでいるのだ。

「館林らの身勝手さはボスも承知していたはずです。」

館林と本田はガイが生きている事を知って、単独行動に出た。勿論、その旨は誰にも伝えていない為、彼らの離脱理由も、ガイが記憶としてまだこの世に存在するという事も知らない。タレントで全てを見る事ができる石川以外は。

「その責任を指揮能力の無い参謀の俺に背負わせるのは、いささか腑に落ちない所があると思いますが。」
「責任とかどうでもいい。奴は何故居なくなったかを聞いてんだ。」
「どうせ取るに足らない理由ですよ。調べる必要なんてありません。」

石川は知っていた。ガイがまだこの世に在住している事。それを知り、本田と館林がガイの元へ向かった事を。

「いや、調べろ。」
「何故です?」
「勘だ。」

陽道は頑なに譲ろうとしない。きっと、石川がどう誤魔化そうとしても無駄なのだろう。

「(恐ろしい勘の良さ、か…)」

しかし、石川も事実を言う事はできない。何故なら、彼はリアムの使徒だから。

「この寒さ、スマホは動きません。俺のタレントで調べる事は不可能です。」

その時、陽道は足を止めた。すると、彼の後ろに続く白鳥組の手下達も一斉に足を止める。

「嘘だな。」
「…何故です?」

すると、陽道はポケットからナイフを取り出した。

「勘だ。」
「勘…か…」

石川は魔物化した白鳥組の男達に囲まれた。そして、目の前にはナイフを見せつける陽道。

「俺のタレントは知ってるはずだ。使えば、お前は死を自覚する前に死ぬ。身動き一つするな。ただ答えろ。」

この時、石川は確信した。答えようが答えまいが、陽道は自分を殺すつもりだと。そして、次に発する言葉、それが自分の最後の言葉であると。

「(言葉を言い終えた瞬間、それが陽道の求めていた答えであろうが無かろうが、俺は殺される。言い訳・説得は無駄。それなら…)」

石川は口を開いた。

「約束を遂行するぞ、雷世。」

瞬間、陽道の持っていたナイフが腐食した。同時に、石川の姿が消えた。

「(このタレント…)」

陽道は自身の腐食したナイフを見た後、白鳥組の面々を見る。そして、そこに居るはずの人間が一人、石川と同時に消えていた事を確認し、笑った。

「思い通りにならねぇなぁ、障坂って奴はよぉ。」

居なくなった人物、それはガイの父親、障坂巌。石川を逃したのは彼だ。そして、陽道は確信した。ガイが生きている事に。

「ぶっ殺すッ‼︎」

【永久氷地、白鳥組から少し離れた場所にて…】

逃走に成功した石川と障坂巌がそこにいた。しかし、何やら険悪な雰囲気だ。

「約束を果たすのなら、俺はあそこで死ぬべきだった。雷世ならきっと、俺を助けなかった。そうだな…前々から思ってはいたが…」

石川は巌に言い放った。

「お前、雷世じゃないだろ。」
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