障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第135障『名目と野望』

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【4月2日、19:30、永久氷地にて…】

白鳥組は神殿を目指し、歩を進めていた。
隊のうちの一人、『Zoo』の殺し屋カフが陽道に話しかける。

「参謀は裏切り、幹部は散り散り。こりゃ白鳥組も終わりだな。そこんトコ理解できてんのか?」
「あぁ。別に構わねぇよ。俺さえ魔王の元に辿り着ければ、白鳥組なんてどーでもいい。」
「ふぇー。じゃつまり、アタシらは使い捨ての道具ってワケか。」
「そうだ。不満か?」

挑発に近い陽道の言葉。しかし、カフは笑って返した。

「いや別に。アタシは金さえ払ってくれりゃ何だってするぜ。」
「だろうな。」

陽道は背後の部下達をチラ見する。

「コイツら全員そうだ。名目とは別の目的で動く。人間なんてどいつもこいつも同じだ。全員で目標立てて協力しても、結局は自分の野望の為。自分勝手じゃない生き物なんか居ねえんだよ。」
「だったら、彼女はヤバいんじゃねーかぁ?」

カフはそう言い、秀頼を見た。

「きっと彼女も、名目とは別の野望で動いてるぜ。心底テメェを憎んでる風だしよ。」

陽道もカフと同じよう秀頼の顔を見た。

「奴は大丈夫だ。」
「何故にそう言い切る?」
「恐怖だ。」
「恐怖、なぁ…」

カフは再び秀頼の顔を見る。

「(まぁ、陽道には逆らわねぇだろうな。陽道には。)」

秀頼は陽道に支配されていた。恐怖という名の鎖で。ガイ達を裏切ったのも、それが理由だ。彼女は決して陽道に逆らえない。しかし、それはあくまで陽道にのみ。カフはいずれ彼女が自身の障害となる事に、この時既に気づいていた。

「PSI…」

神殿まであと数十メートルの所で、陽道は前方からPSIを感知し、足を止めた。前方は吹雪でよく見えない為、陽道は魔物化している部下三人に命令し、様子を見に行かせた。

「(石川から聞いた話によると、神殿には守護者とやらが居る。だがそいつが居るのは神殿内部。いくら神殿に近づいたとはいえ、俺のPSI感知範囲からはまだ距離がある。つまりは敵。障坂ガイ…それともその仲間…いや、石川の可能性も…)」

陽道は考える事をやめた。

「らしくねぇな、考えるなんて。」

すると、陽道は先に行かせた部下三人の方へ歩き始めた。

「お前らはそこで待ってろ。」

その陽道の命令に、カフはこう言った。

「それも名目かぁ?」
「まぁな。」

そんな二人の会話を聞いていた部下達は、その意味がわからずポカンとしていた。陽道は部下達をその場に留め、先へと進む。

「(着いてくるなって言えばいいのによ。)」

陽道は一人で神殿内部に入るつもりだ。つまり、残りの部下達は用済み。ココで追っ手を引きつけてさえいれば良いと。

「来るぞ。」

カフがそう言った。瞬間、雪の中から猫人化したヤブ助が姿を現した。ヤブ助はPSIの波長を抑える技術を身につけ、雪の中に隠れていたのだ。しかし、カフは気配で既に気づいていた。

「ヤブ助…」

気づいていたのは秀頼も同じだ。しかし、他の魔物化した白鳥組の男達は、ヤブ助の奇襲に対応できていない。

「(まずい…まさか陽道自ら調査に行くなんて…早く氷室に加勢しなければ…)」

ヤブ助は、陽道は部下に様子を見に行かせ、自らはココに留まるものと思っていた。そう思っていたからこそ、ヤブ助は陽道に奇襲をかけるべく、雪の下に隠れていたのだ。つまり、今、神殿の前にいるのは氷室ともょもと。あの二人に陽道の相手は厳しすぎる。

「(二人が殺されるッ…‼︎)」

ヤブ助は目にも止まらぬ速さで魔物化した男達を次々と倒していく。しかしその時、ヤブ助の拳はとある人物に止められた。

「お前ッ…⁈」

それは魔物化した秀頼だった。

「くッ…‼︎」

ヤブ助は秀頼から離れ、他の魔物化した男達を一掃した。それを見たカフはヤブ助を称賛した。

「見事じゃねぇか。さすがは秀頼テメェの弟子だな。」

残るは魔物化した秀頼と、人間の姿のカフのみ。このままの勢いで攻め続けるヤブ助。かと思いきや、ヤブ助は攻撃をやめた。いや、やめてしまったのだ。この二人には勝てない。そう思ってしまったから。
その時、秀頼が口を開いた。

「何故、来てしまったんだ。ヤブ助。」
「貴様に話す事は無い。この裏切り者が。」

ヤブ助は構えを緩める事なく、二人から距離を保ち、様子を見る。

「(隙が無い…秀頼アイツがアレなのは知っているが、問題は横の女だ。見たところ『Zoo』の殺し屋だろうが…)」

カフから放たれる異様なオーラに気圧されるヤブ助。この感覚は武の強者にしかわからないもの。それがわかるだけでもヤブ助は相当な強さだ。しかし、強いからこそわかってしまう。あの女の凄さに。それはきっと、秀頼よりも遥か格上。通常の人間では見る事もできない頂に女は立っている。

「(氷室すまない…そっちに行けそうにない…)」

陽道さえ殺せれば終わる、そう思い実行した奇襲作戦。それが失敗した今、ヤブ助達に正々堂々で勝つ術は無かった。

【永久氷地、神殿前にて…】

氷室は『現代のオーパーツバイオクラフト』で肉を見に纏い、装甲している。

「パワー!!!」

氷室は陽道が先に送り出した三人の魔物化した男達を倒した。

「ひょー!さっすが氷室きゅん!ナイスバルク!」

もょもとは陰からそれを応援していた。

「ニャンコの奴も、上手くやったかな…?あの陽道って奴、一回会った事あるけどヤバいぞ?てかアイツらヤバい。」
「えぇ。知ってます。でも俺らにできるのはもうコレしかない。ヤブ助さんを信じましょう。
「そだな。」

氷室ともょもとは白鳥組と鉢合わせしないように、遠回りをして歩き始めた。

「そういえば、もょもと君はどうして俺らの仲間に?」
「あー、俺、勇者になりたくてさ。今、魔王いないじゃん?だから成りたくても成れねーつーか?だから魔王復活させて、そんで倒して勇者になる!勇者になったら将来安泰だぜー!」
「バカみたいな理由ですね。」
「バカとはなんだ!バカ!じゃあ氷室きゅんは何で魔王復活なんか企んでんだよ?」

すると、氷室は少し神妙な面持ちで話し始めた。

「家族を生き返らせる為です。」
「えっ…」
「俺の家族は白鳥組に捕まり、無理やり人体実験をさせられ死んだ。家族だけじゃない。友達も先生も、村の人全員。でも、魔王を復活させたら、願いを何でも一つ叶えてくれるって。」
「なんでもぉ⁈」

もょもとは目を輝かせた。一方、氷室は話を続けた。

「俺が縋りたいだけですよ。実際、それが本当かどうかは知らないし。」
「あ、そか…」

もょもとは肩を落とした。

「それに、白鳥組を放っておくわけにはいかない。放っておけば、またきっと犠牲者が出る。」

もょもとは氷室のその話を聞き、コールの村での事を思い出した。関係の無い村人を拷問・強姦する白鳥組の男達を。

「例え、願いが叶わなくとも、俺は最後まで奴らと戦う。ゴルデンを出た時、そう決めたんです。」

この時、もょもとは思った。カッコいいと。自分は白鳥組の横暴を止めるどころか、ただ見て見ぬフリをしていただけ。年下の少年の意志にもょもとは魅了された。

「氷室きゅん!!!」

もょもとは氷室の両手を掴んだ。

「うわん⁈なな何ですか⁈」
「僕ッ!もっと精進しますッ!」
「え…うん…そ、そうですか。頑張って下さい。」
「なんか冷たくない?」
「氷点下ですから。」
「いや、そういうんじゃなくて…」

瞬間、もょもとの首が切断された。

「え………」

そして、氷室の胸にもナイフが突き刺さっていた。倒れゆく際、氷室が見たもの。

「陽……道…⁈」

二人の目の前には、居るはずのない陽道が立っていた。
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