障王

泉出康一

文字の大きさ
200 / 211
第2章『ガイ-過去編-』

第136障『自分の為に生きられない人たち』

しおりを挟む
【4月2日、19:10、リズの家にて…】

ガイはソファの上で目を覚ました。

「寒っ…」

ガイは目を覚ますなり、身震いをした。

「まだ壁直せていないので。」

ガイが起きた事に気づいたリズは、部屋が寒い理由を言った。

「ごめん。俺のせいだ。俺が居るから、アンタに迷惑を…」

ガイは本田らと戦っていた事を思い出した。

「本田…いや、敵は⁈もょもとは何処に…⁈」

すると、リズは慌てるガイにほうきを手渡した。

「全部解決しましたよ。もょもとさんはちょっと出かけてます。」

ガイは困惑しながらもほうきを受け取る。

「それより、お掃除お願いします♡」
「え、でも俺…急いでるし……」
「さっき貴方が言ったじゃないですか。自分のせいだって。責任とってお掃除お願いします♡」
「んゎ…わかりました…」

ガイは渋々掃了承した。

「(俺、今、目ぇ見えないから掃除できないんだけど…)」
「私と同じですね。頑張りましょう。」
「勝手に心読まないで…」

ガイはリズの発言でとある事に気づいた。

「同じって、アンタも…?」
「はい。私は生まれつきですけど。」
「へぇ。」

ガイはソファから立ち上がり、ほうきを持って掃除を始めた。

「アンタどうやって生活してんの?一人でしょ?しかもこんな辺境地で。」
「昔は母と住んでいたんですが、数年前に病で…でも、コールの村に父が住んでいて。母が死んでからは食糧などは父から貰っています。」

コールの村は白鳥組に潰された。誰一人生きていないだろう。しかし、目の見えないリズには、あの惨状は分からなかった。一方のガイも、この時はまだ、あの村が『コールの村』だとは知らない。

「何で村に住まないの?」

素朴な疑問。それを投げかけた時、リズは少し躊躇うように答えた。

「私が魔女だからです。」
「魔女?」

突如出てきた聞き慣れぬ言葉に首を傾げるガイ。リズはその理由を話し始めた。

「フリージア王国周辺では、タレントは悪しき呪法とされているんです。国の方じゃ差別は比較的マシなんですが、村は昔の風習を重んじている為、結構酷くて…私は村から追い出されちゃいました。」

フリージアは昔、武力反乱を恐れた王政が『タレントは悪しき呪法』として世間に知らしめ、ハンディーキャッパーを迫害した。俗に言う魔女狩りである。この魔女狩りが行われた国はフリージアとチハーヤ。故に、この二国だけはタレントの知名度が低く、兵士などにもハンディーキャッパーの採用が皆無なのだ。

「私、目がコレですから、フリージアで仕事を探す事もできなくて。それでココに住んでるんです。」

リズがココに住んでいる経緯は理解できた。しかし、ガイは一つの疑問を抱いていた。それは『母が死んでからは父に食糧を貰っている』という所だ。話を聞くに、リズの父親は自分の妻と娘を捨て、村に残った。そんな男が何故、今になってリズの面倒を見るようになったのか。
答えは簡単。リズは父親から食料をもらう為に、体を売っていたのだ。仕事ができない体のリズが物資を手に入れる為にはそうするしかない。

「悪用すればいい。」
「えっ…?」

ガイが言い放った言葉にリズは首を傾げる。

「アンタのそのタレント、いくらでも悪用できるだろ。例えば、誰かの弱みを握って、一生ゆすり続けるとか。」
「そんな事しませんよ。」
「なんで?」
「母との約束ですから。」

リズは笑顔でそう答えた。『視る』事を禁止されていたガイだが、この時は彼女の表情が何となく予想できた。

「そうか。」

ガイはリズと初めて話した時の事を思い出した。

〈私のタレントを人殺しの道具にするのは、やめて欲しいです。〉

ガイはその理由が今、わかった気がした。彼女こそ、本当の『良い人』なのだ。

「(きっとこの人は1も9も救う人なんだ。自分がボロボロになるまで。ずっと。)」

助けたい。ガイはそう思った。しかし、今のガイにそんな余裕など無い。
その時、ガイはほうきを手放し、こう言った。

「時間稼ぎはこのぐらいでいいだろ。」
「えっ…?」
「もょもととアンタだけじゃ、本田は倒せない。ヤブ助達が来たんだろ?俺が気絶してるのをいい事に、アイツらは俺を置いて先へ進んだ。俺がそうしたように…」

ガイは全て気づいていた。ヤブ助達の加入。そして、彼らの意思を。

「まったく嫌になる。ヤブ助もアンタも…俺も…自分勝手に生きれたら、どれだけ楽だったか…」

ガイは手探りで玄関へと向かう。

「PSI…?」

その時、ガイは外からPSIを感知した。しかし、今回はいつもと何か違う。ガイは知っていたのだ。このPSIの持ち主を。それは、幼い頃からずっと感じてきた。

「…」

ガイは玄関のドアを開けた。

【リズの家前にて…】

ガイが外に出ると、そこには石川が居た。

「やはり雷世の支配から逃れたか、ガイ。」

石川は誰かを背負っている。老人だ。髪は白く、皮膚はしわくちゃになっている。

「親父…」

そう。老人の正体はガイの父親、障坂巌だ。ガイはそれをPSIから理解した。きっと目が見えていたら、彼の正体には気づけていなかっただろう。しかし、何故こんなにも急激に老化したのだろうか。

「時間がない。早くこの男の『雷世ライセ』を保存しろ。お前の『理解アスタ』なら出来るはずだ。」

そう言うと、石川は背負っていた障坂巌を雪の上に降ろした。

「『雷世ライセ』が無ければ、魔王の封印を解く事は出来ない。お前には叶えるべき願いがあるだろ。」

しかし、ガイは首を横に振る。それを見た石川は話を続けた。

「佐藤武夫のタレントか?確かに、奴のタレントなら魔王の封印を解く事は可能だろう。しかし、その後はどうする?封印は解けても、再度封印する事はできない。リアムを自由にさせるつもりか?それこそ、この世界にとっての最悪なんだぞ。」

しかし、ガイは頑なに首を横に振る。

「後の事は、後で考える。」
「ダメだ。リアムを舐めるな。奴には2万5000年分のアドバンテージがあるんだぞ。それに対抗できるのは、同じく2万5000年の間、障坂として生き続けてきた雷世しかいない。」

ガイは黙った。しかし、石川はすぐさま話を、いや、説得を始めた。時間が無いからだ。

「仲間を助けたいんだろ?だったら諦めろ。お前は雷世になるんだ。」

数秒の沈黙。すると、ガイが口を開いた。

「嫌なものは嫌だ。」

ガイは思考でなく、感情で石川に返答した。これはもはや、石川の専門外だ。説得など不可能。

「そうか。」

石川は肩を落とす。ガイはそんな石川に背を向け、神殿の方へと向かう。

「それでいい…」

巌が呟いた。

「…」

それを耳にしたガイは足を止める。
そう。障坂巌コレこそ、ガイを説得する為の最後の手段。石川の秘策だったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

処理中です...