障王

泉出康一

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第2章『ガイ-過去編-』

第144障『詰まない未来』

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【永久氷地、神殿付近にて…】

秀頼が放つ電流の領域。敵であるインフォイーターの動きを感知し、秀頼は距離を詰める。

「『射痙』ッ‼︎」

秀頼は最も容易くインフォイーターの胸に肘を入れた。

「かはッ…‼︎」

インフォイーターの肺は痙攣、うまく呼吸ができない。その隙にインフォイーターの首を蹴りで落とそうとした。

「『握殺』ッ‼︎」

しかし、落とされたのは秀頼の右足首。

「俺は詰まないッ‼︎」

インフォイーターは『Zoo』の殺し屋の技を使ったのだ。
呼吸の出来ない肺はブレスの技で背中を肺に形成。そしてホールドの技で右足首を握り、切断した。

「くッ…‼︎」

しかし、彼らの技は神経系へのダメージが大きい。何度も使えはしない。

「『握殺』ッ‼︎」

いや、インフォイーターは使った。被ダメージなど考えている場合ではなかったのだ。
使わなければならない。使わなければ死ぬ。彼は今、人生で初めて死の恐怖を実感していた。

「ぬがッ…‼︎」

インフォイーターは秀頼の頭部を潰そうとした。しかし、彼の動きは電流で秀頼に先読みされている。故に反撃を喰らったのだ。

「右足ハ油断シた。だが次ハ無イ。」

またもや拳をインフォイーターの顔面に直撃させた。

「お前ニ勝チの道ハ無イッ‼︎」

そこからは一方的だ。秀頼の猛攻。インフォイーターの体が地に伏せるまで、そう時間はかからなかった。

「クタばレッ…‼︎」

地面に倒れ、動かなくなったインフォイーターにトドメを刺す。秀頼の拳は、インフォイーターの頭部を一撃で弾けさせたのだ。

「……」

インフォイーターは完全に動かない。心臓も動いていない。秀頼はそれを確認すると、ヤブ助の方を振り返る。一応、警戒は怠らず、電流の結界を張ったままに。

「ヤブ助…!」

ヤブ助は腹を喰い千切られ、内臓が外に出てしまっている。PSIも弱い。このままでは、この極寒により凍死するのは確実。
秀頼はヤブ助の元へ走り出した。

「な…ニ……ッ…⁈」

瞬間、秀頼の心臓は貫かれた。貫いたのは勿論、死んだはずのインフォイーターだ。

「ハァ…‼︎ハァ…‼︎ハァ…‼︎」

秀頼が倒したインフォイーターは抜け殻。肉の塊だ。
インフォイーターはトドメを刺される直前、背中から肉を突出させ、地中に新たな自分を形成し、潜ませたのだ。地中なら電流による感知はできないと踏んで。

「お腹…空いてきたわぁ……‼︎」

インフォイーターの体が細い。どうやら、体内のストックをだいぶ消費してしまったようだ。

「がぶッ。」

次の瞬間、インフォイーターは秀頼の右側頭部を喰った。

「ア"…ァ"ァ"……」

秀頼は地面に倒れる。一方のインフォイーターは秀頼の骨の装甲を一生懸命に噛み砕いていた。

「くそッ…硬いし不味いし最悪だ……ゔッ‼︎」

その時、インフォイーターは嘔吐した。不味すぎた。いや、違う。体調不良だ。理由は一つ。

「使い過ぎた…か……‼︎」

『Zoo』の技を使い過ぎた影響。インフォイーターは満身創痍だ。今のインフォイーターなら、人間だった頃の秀頼一人でも楽に倒せるだろう。
しかし、こちらも満身創痍。ヤブ助は腹を食い破られ、秀頼に至っては心臓と脳を抉られている。誰も戦えない。

「回復しないとな……」

そう言うと、インフォイーターは地面に倒れた秀頼に覆い被さり、大きく口を広げた。食べるつもりだ。

「いただきま……」

瞬間、インフォイーターの首にナイフが突き刺さった。

「がはッ‼︎」

疲弊し、完全に油断し切った状況での攻撃。動脈が裂け、一瞬だがインフォイーターの意識が飛びかけた。

「(アイツ…‼︎)」

なんと、ナイフを投げたのはもょもとだった。

「じぁ"あ"ま"ずるな"あ"あ"あ"ァァァァ!!!!!」

回復の邪魔をされ、怒り心頭。インフォイーターは立ち上がり、首に刺さったナイフを抜いて投げ返す。ナイフはもょもとの首に命中した。

「がぶあッ…‼︎」

もょもとは地面に倒れた。

「雑魚があ"ぁ"ぁ"…‼︎舐め"だマ"ネ"しやがっ……」

インフォイーターが首の傷を塞ごうとしたその時、秀頼がインフォイーターの体を背後から押さえた。

「な"…な"ん"の"つもり"だ…⁈」

秀頼は虚な目をしている。反撃はおろか、言葉を返す気力も残っていない。それでも尚、秀頼はインフォイーターの体を強く抱きしめていた。身動きが取れぬように、その身に電流を纏わせて。

「無駄な"ごどしね"え"えでさっざど……」

その時、インフォイーターは気づいた。彼女の、この行動の意味を。

「嘘…だろ"……⁈」

なんと、目の前には瀕死のヤブ助が立っていたのだ。ヤブ助は腹から腸を垂れさせながら、必死の形相でインフォイーターに向かって歩く。

「は…離ぜぇえ"え"え"!!!!!」

インフォイーターは拘束を解こうとする。しかし、今の痩せ細ったインフォイーターでは、それは叶わない。ただでさえ、電流で動きが制限されていると言うのに。

「(ヤバいッ‼︎)」

ヤブ助とインフォイーターの距離がどんどん縮まっていく。あと数歩。あと数秒。それまでに拘束を解かなければ。

「う"る"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!!」

体に残った僅かな肉を右腕に集め、ホールドの握殺を使用。

「ゔぐッ‼︎」

しかし、それは不可能だった。使い過ぎたのだ。明らかに、もう一度すらも彼ら『Zoo』の技は使えない。

「え"っ……」

その時、インフォイーターは気づいた。もう目の前に、ヤブ助がいる事を。

「ゔわ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!来"る"な"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!!」

ヤブ助は構えた。

「嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎ 嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎ 嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎ 嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎ 嫌だ‼︎嫌だ‼︎嫌だ‼︎死"に"た"く"な"い"い"い"ッ‼︎」

ヤブ助はこう吐き捨てた。

「プレイヤーチェンジ…だろ……ッ…‼︎」
「ッ…‼︎」

ヤブ助は両掌をインフォイーターの胸に押し当てた。

「『地天拍動』ッ‼︎」

瞬間、インフォイーターの心臓と全身の血管が破裂した。

「生まれ変わって出直しな…」
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