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第30話 「防衛戦」

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 俺たちが相手をしていたのは陽動だった。戦力がそっちに向かうことを敵も予測していたのか。

「知性のある魔物……それが厄災か……。厄介にも程があんだろ……」

 魔物は本能で人間を襲うから、それ以外の知能はないに等しい。

 だから、まるで人間みたいな作戦を立てられる魔物がいるとは思わなかった。

「ナナ! 俺についてこい!」

「はい!」

 俺が今からなにをするか伝えてないのにナナは即答してくれる。全面的に信頼してくれるのは嬉しい。

「他は避難できてない人がいないか確認してくれ!」

 俺はイオリ達にそれを言い残して、ナナを抱えて走り出す。屋根の上に飛び乗って、街を見渡しながら怪我人を探す。

「カイリ様、わたしを連れてきたってことは、わたしの力がお役に立てるんですよね」

 俺がウロボロスのダンジョンで感じたこと。なにかを倒すより、誰かを助ける方が難しい。

 もし、敵が知能を持って攻めてきてるなら――

「――恐らく街にいる魔物は人間を殺すより、怪我人を増やすことを優先するはずだ」

「だからそれをわたしが治すんですね。了解しました!」

「……いた、まずあそこだ」

 兵士が血を流して魔物と戦っている。だけど、疲れ切っているのか防戦一方。

「頑張って戦ってくださってありがとうございます。今すぐわたしが治します!」

「君は……?」

 ナナが兵士を治す。

「ありがとう。これでもっと戦える」

 兵士を治したのを見届けて、俺たちはまた移動する。

 街のあちこちにいる怪我人を治して回って、一番戦闘が激しい広場に着く。

 俺がハルトと決闘をしていた場所だ。

「みんな、怪我してる人は集まって下さい! わたしが治します!」

 広場に集まった多くの兵士と冒険者に、ナナは大きな声で主張する。

「ごめんなさい、この人を助けてあげてくれませんか」

「お安い御用です!」

 ナナのスキルで治していく。傷ついては戦い、戦いでまた傷ついてはまたナナが治す。

 激戦区をナナの力で支え、俺も増援として参戦する。

「あぁ……あなたが女神に見える……」

「こんなに優しい子がいたなんて……」

「聖女様だ……天から舞い降りた聖女様だ……」

「えっ、わたしは聖女様なんかじゃない……ですよ。ですよね?」

 なんか、ナナの信者が増えていっているような気がする。

「ナナさんのために命をかけて戦うぞ!」

「「「「「うおおおおおお!!!!」」」」」

「ちょっ……わたしの為じゃなくて皆さんの為に戦ってくださーい!」

 異様な雰囲気にナナが慌てふためいている。

 ナナのおかげで状況も好転し、盛り上がる広場。
 そんな広場に、空から降ってくる人影があった。

「――聖女、とは聞き捨てならんな」

 空から降ってきたのは、女性だった。真紅のドレスに身を包んだ、金髪で高身長な女性。

「ふむ、そなた……妾の配下にならぬか?」

 女性は、ナナを見下ろすと、そう言った。
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