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第33話 「光明」
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「カイリ、おかえり。待ってたよ」
俺はアリシアに会いに来ていた。アリシアは憔悴してしまっていた。
「ごめん、外で色々あったんだ。今飯をやるからな」
「そんなのいらないのに……だって私、カイリに会えただけでこんなに幸せなんだもん」
「……っ!」
アリシアのその笑顔に、嘘はない。
アリシアは本気で俺のことを好きだし、さっきの言葉だって本音なんだ。
俺を好きでいてくれる人を閉じ込める罪悪感と、野放しにするわけにいかないという正義感がせめぎ合って……俺の心はぐちゃぐちゃだった。
「ずっと、会いたかったよ」
「……俺は飯を届けに来ただけだから。すぐに戻るぞ」
「寂しかった……カイリに会えなくて、カイリの声を聞けなくて、カイリに触れられなくて……寂しかった。辛かった。悲しかった。胸が痛かった。あぁ……すっごく……気持ちよかったなぁ……」
「今のアリシアと話していると気が狂いそうだ」
恍惚とした表情をしたアリシアを見てると、思わず苦い顔をしてしまう。
外に出たら俺が死ぬところ考えて興奮して、閉じ込めたら閉じ込めたで会えない辛さで興奮するとか、俺はもうどうしたらいいんだ。
「もう行っちゃうの?」
「飯を届けに来ただけだって言っただろ。のんびり話に来たわけじゃないんだ。それに、時間もないしな」
「そういえば、外で色々あったって言ってたね」
「ああ、ギルドが本格的に『厄災』討伐に乗り出したんだ。それに参加するから、準備しておかないと……」
「厄災を倒せばナナちゃんを王にすることもできそうだよね。目標まであとちょっとだ。カイリ、頑張ってね。欲を言えば、厄災を倒すなんて最高にかっこいいカイリの姿を直接見たかったところだけど」
「どうせ厄災と戦ってる最中に俺が死ぬように誘導するんだろ。……って、だから話しをしに来たんじゃないんだって」
完全にアリシアのペースに乗せられていた。
このままだとなんだかんだ長居してしまうところだった。危ない。
「もうちょっとカイリと一緒にいたいと思ったけど、駄目だったかぁ」
「前のアリシアから言われたら、喜べたんだけどな」
普通を装っていた頃なら、寧ろ俺の方から一緒にいたいと思えた。
「ねえ……カイリ」
「なんだよ」
「また、来てくれるよね」
俺がアリシアを見捨てないことは、アリシア自身も知っていると思う。
だから、俺が飯を渡しにまた来ることは知っているはずなんだ。
それなのに、また来るかどうかを聞いてくれている。
その真意はきっと――
「――厄災は絶対に倒すよ」
俺が厄災に殺される可能性を考えての発言だ。
アリシアとしては、直接死を見られない心配と、俺の死で悲しめるという期待が両方あると思う。
俺の答えに、少し複雑そうな表情をしたアリシアは、
「うん、待ってる」
たった一言だけ。それだけだった。
◇
厄災と戦うにあたって、武器や防具を新調しておきたいというシャルの言葉に賛同し、俺たちは買い物に行くことにした。
流石に今日とか明日で戦いに行くわけじゃない。
数日は準備期間があるらしい。
「じゃあみんなで買い物に――」
と、俺がそこまで言ったところで、脳内に声が響く。
『カイリ、今いいかい?』
「どうしたんだよ、神様。いっつも急に話しかけてくるな」
『カイリに警告しておかないといけないことがあってね。しばらくはカイリの旅を見守ってるだけで良いと思ってたんだけど、こうして口を挟ませてもらった』
「警告って、なんのことだ……?」
『カイリは厄災を討伐に行くんだろう? 悪いことは言わない。やめておくんだ』
「なんだよ、俺は神の使徒なんだろ? どんな魔物相手でも勝てるって神様が言ってたんだ、なんでやめなきゃ駄目なんだよ」
『……今のキミじゃ、どう頑張っても厄災には勝てない。断言できる』
「神様より強いのか? 厄災ってやつは」
『いや、間違いなく弱いよ。ボクの力を百パーセント引き出せるなら勝つことは可能だ。余裕でね』
「じゃあ……」
『百パーセントって言っただろう? 今のカイリはボクの力の半分も引き出せてない。その力でも持て余してるのに、どうやって勝つつもりだい?』
俺はまだ力を使いこなせてない。その言葉が深く突き刺さる。
「……なぁ、神様」
『うん? どうしたのかな?』
「それでも、俺は戦いたいよ。ナナを王にするためって理由もあるけど……街が魔物に壊されるのを見た。人が傷つけられるところを見た。あんなの……もう二度と見たくない」
ナナがいたから良かったものの、いなければ死人だって出てただろう。
――そんなのを見過ごすなんて、絶対に嫌だ。
「厄災が魔物を生み出す元凶ってんなら、俺は一刻も早く厄災を倒したいんだ」
『カイリならそう言うと思ってたよ!』
「え?」
『そういうことならボクに良い考えがある。『魂喰い』を手に入れるんだ』
「魂喰い……? なんだその物騒な単語」
ルビは「ソウルイーター」とでも付けたくなるな。
って、そんな厨二的なもんじゃないだろうけど。
『生きとし生けるものの魂を攻撃できる武器だ。どれほど強固に守られた生き物でも、魂そのものを傷つけられればどうしようもない』
「そんな武器があるのかよ……」
『それを手に入れるんだ。そうすれば……ようやく、目的を果たせる』
「確かに、厄災を倒してナナを王座につけるってのは達成できるな。神様ありがとう。じゃあそれを手に入れてくるよ」
『うん、任せたよ』
神様から応援されたし、やるしかないだろ。
神様が言うんだから、きっとその「魂喰い」とやらを使えば厄災も倒せるんだろう。
とはいえ、魂喰いがどこにあるのかなんて知らない。どうやって探したものか。
「ナナならなんか知ってるかな」
ナナは王になるべく勉強してたって言ってたし、武器にも詳しいかもしれない。
俺はアリシアに会いに来ていた。アリシアは憔悴してしまっていた。
「ごめん、外で色々あったんだ。今飯をやるからな」
「そんなのいらないのに……だって私、カイリに会えただけでこんなに幸せなんだもん」
「……っ!」
アリシアのその笑顔に、嘘はない。
アリシアは本気で俺のことを好きだし、さっきの言葉だって本音なんだ。
俺を好きでいてくれる人を閉じ込める罪悪感と、野放しにするわけにいかないという正義感がせめぎ合って……俺の心はぐちゃぐちゃだった。
「ずっと、会いたかったよ」
「……俺は飯を届けに来ただけだから。すぐに戻るぞ」
「寂しかった……カイリに会えなくて、カイリの声を聞けなくて、カイリに触れられなくて……寂しかった。辛かった。悲しかった。胸が痛かった。あぁ……すっごく……気持ちよかったなぁ……」
「今のアリシアと話していると気が狂いそうだ」
恍惚とした表情をしたアリシアを見てると、思わず苦い顔をしてしまう。
外に出たら俺が死ぬところ考えて興奮して、閉じ込めたら閉じ込めたで会えない辛さで興奮するとか、俺はもうどうしたらいいんだ。
「もう行っちゃうの?」
「飯を届けに来ただけだって言っただろ。のんびり話に来たわけじゃないんだ。それに、時間もないしな」
「そういえば、外で色々あったって言ってたね」
「ああ、ギルドが本格的に『厄災』討伐に乗り出したんだ。それに参加するから、準備しておかないと……」
「厄災を倒せばナナちゃんを王にすることもできそうだよね。目標まであとちょっとだ。カイリ、頑張ってね。欲を言えば、厄災を倒すなんて最高にかっこいいカイリの姿を直接見たかったところだけど」
「どうせ厄災と戦ってる最中に俺が死ぬように誘導するんだろ。……って、だから話しをしに来たんじゃないんだって」
完全にアリシアのペースに乗せられていた。
このままだとなんだかんだ長居してしまうところだった。危ない。
「もうちょっとカイリと一緒にいたいと思ったけど、駄目だったかぁ」
「前のアリシアから言われたら、喜べたんだけどな」
普通を装っていた頃なら、寧ろ俺の方から一緒にいたいと思えた。
「ねえ……カイリ」
「なんだよ」
「また、来てくれるよね」
俺がアリシアを見捨てないことは、アリシア自身も知っていると思う。
だから、俺が飯を渡しにまた来ることは知っているはずなんだ。
それなのに、また来るかどうかを聞いてくれている。
その真意はきっと――
「――厄災は絶対に倒すよ」
俺が厄災に殺される可能性を考えての発言だ。
アリシアとしては、直接死を見られない心配と、俺の死で悲しめるという期待が両方あると思う。
俺の答えに、少し複雑そうな表情をしたアリシアは、
「うん、待ってる」
たった一言だけ。それだけだった。
◇
厄災と戦うにあたって、武器や防具を新調しておきたいというシャルの言葉に賛同し、俺たちは買い物に行くことにした。
流石に今日とか明日で戦いに行くわけじゃない。
数日は準備期間があるらしい。
「じゃあみんなで買い物に――」
と、俺がそこまで言ったところで、脳内に声が響く。
『カイリ、今いいかい?』
「どうしたんだよ、神様。いっつも急に話しかけてくるな」
『カイリに警告しておかないといけないことがあってね。しばらくはカイリの旅を見守ってるだけで良いと思ってたんだけど、こうして口を挟ませてもらった』
「警告って、なんのことだ……?」
『カイリは厄災を討伐に行くんだろう? 悪いことは言わない。やめておくんだ』
「なんだよ、俺は神の使徒なんだろ? どんな魔物相手でも勝てるって神様が言ってたんだ、なんでやめなきゃ駄目なんだよ」
『……今のキミじゃ、どう頑張っても厄災には勝てない。断言できる』
「神様より強いのか? 厄災ってやつは」
『いや、間違いなく弱いよ。ボクの力を百パーセント引き出せるなら勝つことは可能だ。余裕でね』
「じゃあ……」
『百パーセントって言っただろう? 今のカイリはボクの力の半分も引き出せてない。その力でも持て余してるのに、どうやって勝つつもりだい?』
俺はまだ力を使いこなせてない。その言葉が深く突き刺さる。
「……なぁ、神様」
『うん? どうしたのかな?』
「それでも、俺は戦いたいよ。ナナを王にするためって理由もあるけど……街が魔物に壊されるのを見た。人が傷つけられるところを見た。あんなの……もう二度と見たくない」
ナナがいたから良かったものの、いなければ死人だって出てただろう。
――そんなのを見過ごすなんて、絶対に嫌だ。
「厄災が魔物を生み出す元凶ってんなら、俺は一刻も早く厄災を倒したいんだ」
『カイリならそう言うと思ってたよ!』
「え?」
『そういうことならボクに良い考えがある。『魂喰い』を手に入れるんだ』
「魂喰い……? なんだその物騒な単語」
ルビは「ソウルイーター」とでも付けたくなるな。
って、そんな厨二的なもんじゃないだろうけど。
『生きとし生けるものの魂を攻撃できる武器だ。どれほど強固に守られた生き物でも、魂そのものを傷つけられればどうしようもない』
「そんな武器があるのかよ……」
『それを手に入れるんだ。そうすれば……ようやく、目的を果たせる』
「確かに、厄災を倒してナナを王座につけるってのは達成できるな。神様ありがとう。じゃあそれを手に入れてくるよ」
『うん、任せたよ』
神様から応援されたし、やるしかないだろ。
神様が言うんだから、きっとその「魂喰い」とやらを使えば厄災も倒せるんだろう。
とはいえ、魂喰いがどこにあるのかなんて知らない。どうやって探したものか。
「ナナならなんか知ってるかな」
ナナは王になるべく勉強してたって言ってたし、武器にも詳しいかもしれない。
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