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113.親の背中が小さく見えたら親孝行すべき時期
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「あら仁!? もう帰って来たの?」
帰って来ちゃいけねえのかよ……と、言い返したくなるような顔で、俺を出迎えてくれた母さん。
まぁ、まだ昼にもなってない時間に会社員が帰宅したら、驚くのは当然だけど。
「会社で吐いて、強制早退」
「やだ、大丈夫? この間も胃腸炎で倒れたって唯が言ってたわよ? ストレスかしらね? また無理してるんじゃないの?」
随分と優しくなったもんだ。
昔、俺に胃のうんちくを聞かせた後に……
『でも、あなたも飛鳥一族の一員なら、ストレスに胃腸をやられるような軟弱者にはならないでちょうだいね?』
と、圧をかけてきたのと同一人物とは思えない。
この人も……唯と出会って変わったんだよな。
「いや、朝、餅みたいなお粥食わされたせいだと思う」
「ちょっと。唯の為に作ったのに、あなたが勝手につまみ食いしたんでしょう?」
自分の部屋に向かう俺に、不服そうな顔でついてくる。
「ねえ、お母さん、今日は泊まろうか? 仁が帰ってきたら、会社に顔出そうと思ってたんだけど……あなたも体調が悪いなら……」
「俺は大丈夫。出したらすっきりして元気になる系のゲロだったから」
「もう、汚い言葉遣いね……っ。じゃあ一旦、いい? 唯、さっき寝た所なの。今の所重症化の兆しはないけど……慎重に見守ってあげて」
「わかった。……悪い、母さんも忙しいのに」
手早く荷物をまとめ、コートを羽織って、玄関に向かう母。
「いいわよ。こんな事でもない限り、あなたも唯も頼ってくれないでしょう。……私達の反対を押し切って結婚したせいもあるんでしょうけど」
俺に背を向けたまま、ため息を吐く。
その背中は、子供の頃に見ていたよりも、一回り以上小さく感じて。
「それでも……反対はしても、最後は俺達の意志を尊重してくれた。……感謝してるよ」
「……俺達、ね。まぁいいんじゃない? あなたたち、本当の夫婦らしくなったもの。唯の、夫を庇う妻の健気な顔……見せてあげたかったわ」
首だけで振り返り、にっと笑う母。
「俺を庇う? なんだよそれ」
「ふふ。優しい唯のお陰で、あなたは今晩タワシを食べなくて済んだって事よ」
タワシ? 意味がわからん。
「晩御飯、冷蔵庫に入れといたから。あ、安心しなさい。家政婦さんに作って貰ったものよ。時間も無かったしね」
「だったら、唯のお粥も頼めばよかったのに」
「うるさいわねー。愛する我が子に、手料理を振舞いたい母の気持ちを理解しなさいよ。それじゃね。何かあったらすぐ電話して」
あれは、手料理とは言えない。
そんなツッコミを飲み込みつつ……。母を見送った俺は、唯の部屋に向かった。
静かに扉を開けると聞こえて来た、かすかな寝息。
白い頬はまだ紅潮したまま。高熱が続いているのだと、わかる。
額の冷えピ〇は、もう四隅がカピカピ。剥がしてみると、案の定ぬるい。
「新しいの、どこだ……?」
唯の室内に、視線を巡らせる。
すると、ベッドの上……唯の向こう側に、開封済の箱が転がっているのを見つけた。
自力で貼り換えられるよう、そばに置いておいたんだろうな。
大変な状態なのに、母さんにまで遠慮をしている唯を、らしいな、なんて苦笑いしながら。寝ている唯を体で跨ぐような体勢で、箱に手を伸ばす。
その直後だった。
目を覚ました唯が、大きな悲鳴を上げたのは。
帰って来ちゃいけねえのかよ……と、言い返したくなるような顔で、俺を出迎えてくれた母さん。
まぁ、まだ昼にもなってない時間に会社員が帰宅したら、驚くのは当然だけど。
「会社で吐いて、強制早退」
「やだ、大丈夫? この間も胃腸炎で倒れたって唯が言ってたわよ? ストレスかしらね? また無理してるんじゃないの?」
随分と優しくなったもんだ。
昔、俺に胃のうんちくを聞かせた後に……
『でも、あなたも飛鳥一族の一員なら、ストレスに胃腸をやられるような軟弱者にはならないでちょうだいね?』
と、圧をかけてきたのと同一人物とは思えない。
この人も……唯と出会って変わったんだよな。
「いや、朝、餅みたいなお粥食わされたせいだと思う」
「ちょっと。唯の為に作ったのに、あなたが勝手につまみ食いしたんでしょう?」
自分の部屋に向かう俺に、不服そうな顔でついてくる。
「ねえ、お母さん、今日は泊まろうか? 仁が帰ってきたら、会社に顔出そうと思ってたんだけど……あなたも体調が悪いなら……」
「俺は大丈夫。出したらすっきりして元気になる系のゲロだったから」
「もう、汚い言葉遣いね……っ。じゃあ一旦、いい? 唯、さっき寝た所なの。今の所重症化の兆しはないけど……慎重に見守ってあげて」
「わかった。……悪い、母さんも忙しいのに」
手早く荷物をまとめ、コートを羽織って、玄関に向かう母。
「いいわよ。こんな事でもない限り、あなたも唯も頼ってくれないでしょう。……私達の反対を押し切って結婚したせいもあるんでしょうけど」
俺に背を向けたまま、ため息を吐く。
その背中は、子供の頃に見ていたよりも、一回り以上小さく感じて。
「それでも……反対はしても、最後は俺達の意志を尊重してくれた。……感謝してるよ」
「……俺達、ね。まぁいいんじゃない? あなたたち、本当の夫婦らしくなったもの。唯の、夫を庇う妻の健気な顔……見せてあげたかったわ」
首だけで振り返り、にっと笑う母。
「俺を庇う? なんだよそれ」
「ふふ。優しい唯のお陰で、あなたは今晩タワシを食べなくて済んだって事よ」
タワシ? 意味がわからん。
「晩御飯、冷蔵庫に入れといたから。あ、安心しなさい。家政婦さんに作って貰ったものよ。時間も無かったしね」
「だったら、唯のお粥も頼めばよかったのに」
「うるさいわねー。愛する我が子に、手料理を振舞いたい母の気持ちを理解しなさいよ。それじゃね。何かあったらすぐ電話して」
あれは、手料理とは言えない。
そんなツッコミを飲み込みつつ……。母を見送った俺は、唯の部屋に向かった。
静かに扉を開けると聞こえて来た、かすかな寝息。
白い頬はまだ紅潮したまま。高熱が続いているのだと、わかる。
額の冷えピ〇は、もう四隅がカピカピ。剥がしてみると、案の定ぬるい。
「新しいの、どこだ……?」
唯の室内に、視線を巡らせる。
すると、ベッドの上……唯の向こう側に、開封済の箱が転がっているのを見つけた。
自力で貼り換えられるよう、そばに置いておいたんだろうな。
大変な状態なのに、母さんにまで遠慮をしている唯を、らしいな、なんて苦笑いしながら。寝ている唯を体で跨ぐような体勢で、箱に手を伸ばす。
その直後だった。
目を覚ました唯が、大きな悲鳴を上げたのは。
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