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168.夏のスキンシップには勇気が必要
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線香花火は、不思議だ。
小さくて、安くて、派手さや華やかさなんてまるで無いのに。ムード演出力は群を抜いて高い。
静かで儚い美しさが、耐え忍ぶを良しとする日本人の価値観にマッチしているのだろうか。
まぁそんな事はいい。
とにかく、今回の告白は奴のポテンシャルにかかっている。
一番良いタイミングで控えめな火花を散らし、一番良いタイミングで落ちてほしい。
理想を言えば前説的な想い出話をしている最中にパチパチしてもらって。ピークを過ぎたあたりで『ずっと好きだったんだ』……からの『……え?』を合図に、火の玉が落ちて欲しい。
火花を長持ちさせる方法もネットで調査済だし。何度か風呂場で練習もした。
準備は万端。あとは、軽井沢最終日の夜に、実行すれば――
なんて、計画をしていたのに。
「ええと……仁ちゃん……? 今のは、どういう……」
ああああああああーーーーっ。
目が点状態の唯に、心の中で絶叫する。
今じゃない。こんなはずじゃなかった。蓮さんの挑発に乗り、売り言葉に買い言葉みたいなノリで伝えてしまったら、ムードもへったくれもないじゃないか。
でも、逃げちゃだめだ。
ここで誤魔化したら、俺は永遠に告白のチャンスを失うかもしれない。
「ゆ、唯、ちょっと……こんな場で、こんなタイミングで伝えるつもりじゃなかったんだけど。本当なんだ。俺はずっとずっと、本気で唯が好きだった」
「ええ!?」
声を上げて驚く唯と、真顔で俺をガン見したままの蓮さん。
なんだこれ。なんだこの状況。
「だからもし唯が良ければ……付き合ってほしい。あ、いや、もう結婚してるのに変だけど。これからはちゃんとした、本物の夫婦になってくれないか」
「そん……だって……私、亜種だよ?」
「そんなの、仁は気にしてないって事だよ」
戸惑う唯の背中を、蓮さんがそっと押す。
「二人共……明らかにお互い好き合ってるのに、政略結婚だって言い張るから。もう、もどかしくて」
少し困ったような笑顔を浮かべ、俺達を交互に見る蓮さん。
え。じゃあ何? 蓮さんが今まで俺や唯にちょっかい出して来たのは……俺達をくっつける為?
俺にあれやこれや言ってきたのも、こうして焚きつける為だったのか?
「蓮ちゃん……じゃあ……」
「うん。この前言った事は、唯に自分の気持ちに気付いて貰う為の、嘘だよ。……あ。兄妹じゃないって話は、本当だけど」
「え!? 兄妹じゃないんですか!?」
まさかのタイミングで晒された新情報にびびる俺に、蓮さんは『やっぱりそう思ってたんだ』と笑った。
「まぁそういうわけで。俺と唯は兄妹じゃないけど、俺は本当の家族以上に大切に想ってる。だから……二人には幸せになってもらわないと、な」
そんな台詞とキラースマイルを残して、蓮さんは家の中に入って行った。
残された俺と唯の間に、ホワホワした気まずい空気が流れる。
「あ……えっと……今の蓮さんの話……お互い好き合ってるって? 唯もその、俺と同じ気持ちだったって、解釈してもいいか?」
「う、うん、それで大丈夫、その解釈でお願いしますっ」
「え、え、大丈夫? 俺は家族愛じゃ無くて男女の愛なんだけど?」
「だ、大丈夫っ! 私も男女の方っ! 仁ちゃんを困らせたくなくて……伝えるつもりなんてなかったんだけど」
「困ったりしねぇよ……。あ、でも、俺も今まで言えなかったの、同じ理由だけど……」
「わ、私だって困ったりしないよっ。むしろ……すごく、嬉しいよ……」
少し頬を紅く染めて、なぜか泣き出しそうな顔でそう言う唯が、可愛くて。もう可愛すぎて。
俺は唯を抱きしめた。
唯も、俺を抱きしめてくれた。
避暑地とはいえ、真っ昼間は中々に暑い軽井沢だけれど。
汗もべたつきも……まるで気にならなかった。エ〇トフォーしといてよかった。心からそう思った。
小さくて、安くて、派手さや華やかさなんてまるで無いのに。ムード演出力は群を抜いて高い。
静かで儚い美しさが、耐え忍ぶを良しとする日本人の価値観にマッチしているのだろうか。
まぁそんな事はいい。
とにかく、今回の告白は奴のポテンシャルにかかっている。
一番良いタイミングで控えめな火花を散らし、一番良いタイミングで落ちてほしい。
理想を言えば前説的な想い出話をしている最中にパチパチしてもらって。ピークを過ぎたあたりで『ずっと好きだったんだ』……からの『……え?』を合図に、火の玉が落ちて欲しい。
火花を長持ちさせる方法もネットで調査済だし。何度か風呂場で練習もした。
準備は万端。あとは、軽井沢最終日の夜に、実行すれば――
なんて、計画をしていたのに。
「ええと……仁ちゃん……? 今のは、どういう……」
ああああああああーーーーっ。
目が点状態の唯に、心の中で絶叫する。
今じゃない。こんなはずじゃなかった。蓮さんの挑発に乗り、売り言葉に買い言葉みたいなノリで伝えてしまったら、ムードもへったくれもないじゃないか。
でも、逃げちゃだめだ。
ここで誤魔化したら、俺は永遠に告白のチャンスを失うかもしれない。
「ゆ、唯、ちょっと……こんな場で、こんなタイミングで伝えるつもりじゃなかったんだけど。本当なんだ。俺はずっとずっと、本気で唯が好きだった」
「ええ!?」
声を上げて驚く唯と、真顔で俺をガン見したままの蓮さん。
なんだこれ。なんだこの状況。
「だからもし唯が良ければ……付き合ってほしい。あ、いや、もう結婚してるのに変だけど。これからはちゃんとした、本物の夫婦になってくれないか」
「そん……だって……私、亜種だよ?」
「そんなの、仁は気にしてないって事だよ」
戸惑う唯の背中を、蓮さんがそっと押す。
「二人共……明らかにお互い好き合ってるのに、政略結婚だって言い張るから。もう、もどかしくて」
少し困ったような笑顔を浮かべ、俺達を交互に見る蓮さん。
え。じゃあ何? 蓮さんが今まで俺や唯にちょっかい出して来たのは……俺達をくっつける為?
俺にあれやこれや言ってきたのも、こうして焚きつける為だったのか?
「蓮ちゃん……じゃあ……」
「うん。この前言った事は、唯に自分の気持ちに気付いて貰う為の、嘘だよ。……あ。兄妹じゃないって話は、本当だけど」
「え!? 兄妹じゃないんですか!?」
まさかのタイミングで晒された新情報にびびる俺に、蓮さんは『やっぱりそう思ってたんだ』と笑った。
「まぁそういうわけで。俺と唯は兄妹じゃないけど、俺は本当の家族以上に大切に想ってる。だから……二人には幸せになってもらわないと、な」
そんな台詞とキラースマイルを残して、蓮さんは家の中に入って行った。
残された俺と唯の間に、ホワホワした気まずい空気が流れる。
「あ……えっと……今の蓮さんの話……お互い好き合ってるって? 唯もその、俺と同じ気持ちだったって、解釈してもいいか?」
「う、うん、それで大丈夫、その解釈でお願いしますっ」
「え、え、大丈夫? 俺は家族愛じゃ無くて男女の愛なんだけど?」
「だ、大丈夫っ! 私も男女の方っ! 仁ちゃんを困らせたくなくて……伝えるつもりなんてなかったんだけど」
「困ったりしねぇよ……。あ、でも、俺も今まで言えなかったの、同じ理由だけど……」
「わ、私だって困ったりしないよっ。むしろ……すごく、嬉しいよ……」
少し頬を紅く染めて、なぜか泣き出しそうな顔でそう言う唯が、可愛くて。もう可愛すぎて。
俺は唯を抱きしめた。
唯も、俺を抱きしめてくれた。
避暑地とはいえ、真っ昼間は中々に暑い軽井沢だけれど。
汗もべたつきも……まるで気にならなかった。エ〇トフォーしといてよかった。心からそう思った。
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