女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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自分で守らなければ奪われるそれが権利

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 「で、殿下、申し訳ありま……私、何かお気に障る事を……あ、あの、私のような者の戯言はどうかお気になさらず……っ」

 愛する人と同じ顔をした女性の涙に、慌てふためく俺。
 しかしソレリ王女は、俺が差し出したハンカチで涙を拭いながら首を横に振った。

 「いいえ、違うの。ごめんなさい……そんな風に言って頂けるなんて、嬉しくて」

 「え?」

 「子供を産めない私には、人を愛する権利も、愛される資格も無いと……ずっと思っていたから」

 男物の大判ハンカチに、小さな顔をうずめて嗚咽するソレリ様。
 そのご様子を見て、直感した。

 俺はてっきり、生ける女性ホイホイである俺に、彼女の心が捕らえられてしまったのだと思っていたが。
 子供云々のお尋ねも、この縁を無かった事にする為の手段だったわけで。

 この方には、きっと……

 「あなたには……誰か、愛する人がいるのですね?」

 「……ダメなんです。後継ぎを産めない私では……あの方に当たり前の幸せを与えて差し上げられない」

 そうか。
 この方が、才色兼備であるにも関わらず未だ未婚でいらっしゃる理由がわかった。

 今までの縁談相手の中には、子を産めなくても構わないと言う男もいたかもしれない。
 だがそんな彼らを突き放したのは、きっと王女ご自身だ。
 ご自分の不妊を理由に、相手を不幸にしない為に――。

 「あなたは……ご自分の幸せよりも、相手の幸福を求めるお方なのですね。そんな海よりも深いおもいやりを持つお方に、私如きが進言するのは畏れ多い事ですが……申し上げます」

 赤くなった瞳で、じっと俺を見る殿下。
 この人はどんな慰めをくれるのだろう。そんな期待を、少なからず感じる。

 「そんな理由で身を引くのは、極めて自分本位で、身勝手だと言わざるを得ません」

 「……へ?」

 予想通りのキョトン顔。そりゃあそうだろう。

 王女にとって俺の言葉は、予想通りのものでは、決してなかっただろうから。

 「何が幸せなのかは、本人しかわかりません。あなたが勝手に“幸せ”だと考えているのは本当に……相手の方が、あなたを失ってまで手に入れたいものなのでしょうか? その方はただ、あなたの傍にいて、あなたの笑顔を見る事だけを望んでいるのではないのでしょうか? 少なくとも……私はそうです……!」

 この俺の物言いこそ、自分本位で勝手なものだけれど。
 もう止められない。
 ソレリ王女のお相手と、自分の立場をどうしても重ねてしまうから。

 「私はただ、これからも共に生きて行きたいだけなのです! その為に一時は同性愛に身を投じる覚悟までしたのに……理由もわからず拒絶されて! 
 そりゃあ、実際にお傍にいたら、あれこれしたくなるとは思いますが! あのさくらんぼの様な唇に吸い付いたり、滑らかなうなじに鼻を押し当てて、甘い香りを全心肺能力をかけて吸い込んだり、しなやかなお体から少々強引にお召し物を剥ぎ取っ」

 「レオナルド様、それ以上は……っ」

 ソレリ様に遮られ、我に返った。

 「し、失礼致しました……つい、取り乱してしまって」

 「いいえ……少し驚きましたけれど……あなたがお姉様をどれ程愛していらっしゃるか、よくわかりました。
 本当に姉様のおっしゃってた通りのお方……危なかしいほどに真っ直ぐで……少し天然でいらっしゃる」

 「天然?」

 眉間にシワを寄せる俺に、優しく微笑むソレリ王女。

 「ありがとうございます、レオナルド様。私の愛する人も、あなたのように望んでくれるのなら……私も、それに応えなければいけませんね。……今度、きちんとお話してみようと思います」

 そう、少し照れながらおっしゃった殿下に、喜びが沸いてくる。
 良かった。俺が一番言いたかった事は、きちんと伝わっていたようだ。

 「聡明なソレリ王女殿下。私はあなた様とのご縁に感謝申し上げます。殿下の未来が、愛するお方との幸せに満ち満ちたものでありますよう……」

 結びのご挨拶をと跪く俺に、慈愛に満ちた笑みを向けるソレリ様。

 「ありがとう。私もお祈り申し上げます。あなたと親愛なるローラ女王陛下の行く道に、幸多からん事を」

 それでは、門までお送り致しますと……俺が部屋のドアノブに手を掛けた時――。
 ソレリ王女はその手を取り、すがるような表情で俺を見上げた。

 「どんな困難が待ち受けていようと、諦めないで下さい。あなたならきっと……お姉様を救って差し上げられる」
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