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ミジンコの名の由来は案の定「微塵」らしい
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「あは……あはは! ご、ごめんなさい! お姉様のおっしゃっていた通りだと思って! 時々あっけにとられる位、真っ直ぐなお方だと……! 安心なさって。私はあなたに無理に迫ったりはしませんから」
由緒ある王室の姫君にしては、少々大きめに開いた口に手をあて、涙を浮かべて笑うソレリ様。
予想の斜め上……から更にホップステップジャンプしたような反応に、固まってしまう。
「あ……あの、お怒りにならないのですか?」
「怒り? なぜ? あなたは心からお姉様を愛していると、私に打ち明けて下さっただけじゃない。大丈夫です。私は初めからこうなると思っていたわ。私にお姉様の代わりが務まるはずないもの」
ハッとした。そうか。彼女は全てを知っていて……。
「殿下、何もかもご存知であったのなら、今の質問は何の為に……?」
「私は子供が出来ない体なのです。ですからそれを伝えれば、あなたも断り易いかと思って。ご自分から紹介してほしいと言った手前、やはりお姉様が忘れられないとは言い難いでしょう? けれど、そんな配慮は不要でしたね」
細い指先で目尻を拭う殿下に、首をかしげてしまう。
「子供が出来ない事と、私が交際を断る事と、どう関係があるのです?」
「え? だって……後継ぎを産めない女なんて、殿方は望まないでしょう? 名のあるお家の方ならば尚更」
ああ成程、そういう意味か。
確かに大多数の貴族にとって、後継ぎを設ける事は結婚の大きな目的の一つだろう。
「お恥ずかしい話ですけれど……実際にそれが原因で何度か破談になった事があるのです。もう18になるのに、未だに縁談の一つもまとまらない。ですからこのお話をすれば、レオナルド様も迷わずお姉様の元へ戻れるのではと……」
「破談!?」
信じ難い単語の登場に、思わず声を上げてしまう。
「信じられません……!子供など、養子を貰うなり何なりすれば、どうとでもなるでしょうに。そのお相手方は、随分と見る目の無い……ミジンコの様に小さな野郎ですね」
「は……みじんこ……?」
アクアマリンのように煌めく瞳を、丸くする殿下。
「家族とはそもそも、夫婦……血縁の無い赤の他人から始まるのです。親子を繋ぐのは愛情であり、血筋では無いでしょう?」
「そ、それはそうかもしれませんが……赤の他人の子よりも血を分けた我が子を望むのは、ごく自然な感情では? ですから、私ではなく健康なお嬢さんをお選びになるのも……水中プランクトン呼ばわりされる程、罪深い事だとは思えませんが……」
「その希望自体を批判する気はありません。私が申し上げたいのは……実子を授かる為にあなたを妻にしなかった男達は、途方もなく愚かだという事です」
ミジンコ=水中プランクトンだとご存知であった王女殿下の博識ぶりに称賛を送りたい気持ちは山々だが……今はそれよりも、この方との縁談を断った馬鹿共への怒りが込み上げてきて。
「殿下はお美しく、おもいやりに溢れる素晴らしい女性です。出会って間もない私ですら、そうわかる程に。お体の事を打ち明けてまで、私を愛する人の元へと向かわせようとして下さった。
あなたの言う“健康なお嬢さん”の殆どは、絶対にそんな事はしない。貴族のご令嬢の大半は、プライドの権化ですから」
驚いたような表情のまま、俺の怒りの弁を傾聴して下さる殿下。
「あなたは出産出来ないかもしれません。ですが多くの女性は、あなた程朗らかなお心で、愛する人を支える事は出来ないでしょう。そんな事もわからないミジンコの元へ嫁がずに済んで、幸いでした」
「そ……う、で……しょうか……」
目の前の美しい人は、思い出したかのように瞬きを再開し、途切れ途切れに言葉を零された。
しかし次第にその表情は崩れ始め……
「ソ、ソレリ様!?」
気が付けば、陛下と同じ海よりも深い碧眼から、大粒の涙が溢れ出ていた。
由緒ある王室の姫君にしては、少々大きめに開いた口に手をあて、涙を浮かべて笑うソレリ様。
予想の斜め上……から更にホップステップジャンプしたような反応に、固まってしまう。
「あ……あの、お怒りにならないのですか?」
「怒り? なぜ? あなたは心からお姉様を愛していると、私に打ち明けて下さっただけじゃない。大丈夫です。私は初めからこうなると思っていたわ。私にお姉様の代わりが務まるはずないもの」
ハッとした。そうか。彼女は全てを知っていて……。
「殿下、何もかもご存知であったのなら、今の質問は何の為に……?」
「私は子供が出来ない体なのです。ですからそれを伝えれば、あなたも断り易いかと思って。ご自分から紹介してほしいと言った手前、やはりお姉様が忘れられないとは言い難いでしょう? けれど、そんな配慮は不要でしたね」
細い指先で目尻を拭う殿下に、首をかしげてしまう。
「子供が出来ない事と、私が交際を断る事と、どう関係があるのです?」
「え? だって……後継ぎを産めない女なんて、殿方は望まないでしょう? 名のあるお家の方ならば尚更」
ああ成程、そういう意味か。
確かに大多数の貴族にとって、後継ぎを設ける事は結婚の大きな目的の一つだろう。
「お恥ずかしい話ですけれど……実際にそれが原因で何度か破談になった事があるのです。もう18になるのに、未だに縁談の一つもまとまらない。ですからこのお話をすれば、レオナルド様も迷わずお姉様の元へ戻れるのではと……」
「破談!?」
信じ難い単語の登場に、思わず声を上げてしまう。
「信じられません……!子供など、養子を貰うなり何なりすれば、どうとでもなるでしょうに。そのお相手方は、随分と見る目の無い……ミジンコの様に小さな野郎ですね」
「は……みじんこ……?」
アクアマリンのように煌めく瞳を、丸くする殿下。
「家族とはそもそも、夫婦……血縁の無い赤の他人から始まるのです。親子を繋ぐのは愛情であり、血筋では無いでしょう?」
「そ、それはそうかもしれませんが……赤の他人の子よりも血を分けた我が子を望むのは、ごく自然な感情では? ですから、私ではなく健康なお嬢さんをお選びになるのも……水中プランクトン呼ばわりされる程、罪深い事だとは思えませんが……」
「その希望自体を批判する気はありません。私が申し上げたいのは……実子を授かる為にあなたを妻にしなかった男達は、途方もなく愚かだという事です」
ミジンコ=水中プランクトンだとご存知であった王女殿下の博識ぶりに称賛を送りたい気持ちは山々だが……今はそれよりも、この方との縁談を断った馬鹿共への怒りが込み上げてきて。
「殿下はお美しく、おもいやりに溢れる素晴らしい女性です。出会って間もない私ですら、そうわかる程に。お体の事を打ち明けてまで、私を愛する人の元へと向かわせようとして下さった。
あなたの言う“健康なお嬢さん”の殆どは、絶対にそんな事はしない。貴族のご令嬢の大半は、プライドの権化ですから」
驚いたような表情のまま、俺の怒りの弁を傾聴して下さる殿下。
「あなたは出産出来ないかもしれません。ですが多くの女性は、あなた程朗らかなお心で、愛する人を支える事は出来ないでしょう。そんな事もわからないミジンコの元へ嫁がずに済んで、幸いでした」
「そ……う、で……しょうか……」
目の前の美しい人は、思い出したかのように瞬きを再開し、途切れ途切れに言葉を零された。
しかし次第にその表情は崩れ始め……
「ソ、ソレリ様!?」
気が付けば、陛下と同じ海よりも深い碧眼から、大粒の涙が溢れ出ていた。
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