女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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掟というとなんだか秘密めいて古臭いイメージ

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 『掟』とは――

 守るべきものとして定められている事柄。
 その社会の定め。決まり。
 組織やグループごとの規律。法律。



 「……まるで見当がつかないな……」

 デスクいっぱいに広げた本とにらみ合う夜が、もう何日続いているだろう。

 来月陛下にお会い出来ると知った日から、『掟』と関わりがありそうな本を、図書室から手当たり次第に借りてきたものの――。

 わからない。ソレリ様がおっしゃる『掟』とは何なのか。

 「なんだか最近わからない事ばかりで……ストレスが溜まるな……」

 ため息を吐きながら、首元で揺れるルビーに手をやる。

 騎士になった祝いにと、陛下がくださったネックレス。
 今まで大切にしまっておいたけれど……ノースリーフに来た日から、身に着ける事にした。そうすれば、遠く離れている愛しい人を、近くに感じられる気がして。

 「いつまで起きてるつもり? 」

 眉間に皺を寄せる俺に、ジェニーが声をかけてきたのは、深夜1時頃の事。

 「悪い。眠れないか? デスクのライトだけなら睡眠の妨げにはならないかと……」

 「いや、あたしはいつでもどこでも寝れるタチだけどさ。ここんとこ毎晩夜更かししてるようだから気になって。何か調べ物?」

 結局、俺とジェニーはルームメイトとして、この部屋を共有する事になった。

 互いのベッドを壁際に寄せ、ワードローブとデスクを部屋の中央に並べて、各々のエリアを仕切る形で。

 『同じ部屋でも、あんたなんかと間違いが起こる筈が無いって、証明してやる』
 という、ジェニーの希望に沿った結果だった。

 「あぁまぁ、そんな所だ」

 はっきりしない返事を返す俺の背後から、『ふーん』と口を尖らせたジェニーが、デスク上の本を覗き込む。

 「なになに? “ノースリーフ騎士団の規律と記録”、“王室の歴史”、“国家の司法”……一体何を調べてんのよ」

 何の『掟』が俺と陛下の恋路を邪魔しているのか、を調べている。なんて、彼女には言えない。

 「ここの騎士団の事を、改めて勉強しておこうと思ってな」

 「ふーん。あんた訓練学校時代、首席だったんだって? やっぱそういう奴って日頃からちゃんとやってんのよね~。剣も腕もすんごいって、訓練でやりあった騎士が言ってたわ。これで性格に難が無ければ、ホントに完璧な男……あ、これ懐かしい!」

 自ら話の方向を急転換し『騎士団の規律と記録』の1ページを指さすジェニ―。
 そこにあったのは、農作業にあたる騎士達の姿……を描いた挿絵。

 「ノースリーフを農業の町にしよう! みたいな動きが始まった頃さ、王都の騎士団が視察に来たんだよね。で、実際に畑作業したりして。都会から偉い騎士様が来る~って、町中皆が大騒ぎだったなあ~」

 「父だ」

 「は?」

 そこには、敬愛する父の姿があった。

 腕をまくり、騎士服の襟のボタンを外したラフな姿のリナルド・レノックス騎士団長が、鍬を抱えて笑っている。
 父はかつて、この地に来たのだ。

 騎士団長だった父の日々は、いつだって多忙を極めていて……息子として寂しい想いをしていないわけでは無かった。

 栄誉ある騎士団を率いる父を誇りに思う一方で、もっと多くの時間を共に過ごせたらと……唇を噛み耐えていた自分もいたのだ。

 けれど……俺の知らない場所で、父は国と民の為に汗を流していた。そしてそれを、記憶してくれている人が、今自分の目の前にいる。
 
 なんだかそれだけで、幼少期から抱えてきた苦しみが、報われた気がして……晴れ晴れとした熱いものが、胸にこみあげてきた。

 「この中央にいる騎士が、父なんだ。生前、騎士団長をしていて」
 
 「へえ~! すごいね! お父さん団長さんだったんだ! あ、じゃあ、そのネックレスもお父さんから引き継いだもの?」

 「え?」

 ジェニーからの思わぬ言葉に、無意識に首元のルビーに手をやる。

 「だって、あんたがしてるネックレス、この絵に描かれてるやつと一緒じゃん」

 挿絵の中の父の、大きく開いた首元を飾る、赤い石。細い金の鎖に留められた、小さな涙型のルビー。
 シンプルなデザインのそれは、たとえ絵であっても、俺がしているネックレスと同一のものだと、判別できる。

 「いや、これは父から貰ったものじゃない。父がこんなネックレスをしていたのも……見た事が……無いし……」


 『これはね、お母様の形見なの』


 3年前、騎士団に入団した時のローラ様のお言葉を思い返す。
 ルビーを握る手に、自然と力が入った。
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