33 / 105
男女の悲恋ものの王道をゆく
しおりを挟む
3年前――。
訓練学校を首席で卒業し、晴れて騎士団への入団が決まった俺に、陛下はルビーのネックレスをくださった。
宝石としては小ぶりなものだけれど、その艶やかな深紅の色は、紅薔薇のように優雅で上品で。
一目見て、特別な逸品だとわかった。
『これはね、お母様の形見なの』
『いけません! そんな大切なものを、私などに……!』
『大切なものだから、あなたに贈りたいのよ。お母様はいつも言っていたわ。このルビーが祖国を守ってくれているのだと。騎士になったらきっと危険な任務にも就くでしょう? だから、お守り代わりに持っていてちょうだい。いつでも、肌身離さず』
『受け取れません! そういう事なら尚更、あなた様がお持ちになるべき――』
『お願い、受け取って。あなたまで、お母様やリナルドおじ様のようになってしまったら……私は……』
『陛下……』
先代の女王陛下であらせられるローラ様の母君は、ある日突然、崩御された。心臓発作だった。
そしてその1か月後。俺の父も、不慮の事故で亡き人となったのだ。
俺が騎士になるより、更に2年前――。
俺が16歳、陛下が14歳の時の事だった。
立て続けに大切な人を失った陛下は、見るに堪えない程、打ちひしがれていて――。
俺は父の死以上に、そんなローラ様に胸を痛めていた。
以来、陛下は人の死にとても敏感になられて。
だから、受け取ったのだ。そのネックレスを。
それで陛下のお心が、少しでも凪ぐのならと。
自分が騎士人生を全うした後に、きちんとお返しすればいいと考えて。
ああ……
考えてみれば、あの頃から陛下はまぁまぁ思わせぶりな事をおっしゃっていたのだな。
俺の事を大事に思って下さっているとは感じていたが、それが男としてだとは思わなかった。
意外と、自分は鈍感な方なのかもしれない。
あの時の、健気な陛下の表情を思い浮かべる。ネックレスを差し出しながら、うるうるした瞳で俺を見つめて。
俺まで母君や父のようになってしまったら?
どうされるおつもりだったのだろう。毎日泣いてお過ごしになる? それともまさか後を追って……?
いやいやいや、それはダメです陛下。
私の死を悼んでくれるのは身に余る光栄ですが、陛下の尊いお命を道ずれにする位なら、私は地獄に堕ちた方がマシ……しかしそれでは、陛下の御霊も地獄まで追いかけてきてしまうだろうか?
堕天使、小悪魔、悪女……。
地獄に馴染むお姿になった陛下を想像してみる。
ぷっくりとした唇を派手に彩る、真っ赤なルージュ。
濃いめの口づけをしたら、頬までその赤は広がって。
露出度の高い真っ黒なビスチェと、挑発的な網タイツ。
ロリっぽいデザインであれば、平坦な胸元もかえって映えるだろう。
細く白い陛下の太ももに、タイツの網目が食い込む様は、想像しただけでよだれが出る。
好戦的なピンヒールのブーツ。
踏まれたい。顔を、思い切り。頬を貫通したその切っ先を、舌で受け止めて転がすのだ。
困ったな。どれも良い。全然良い。
普段の清楚なホワイトローラ様も勿論素敵だが、悪に身を堕としたブラックローラ様もまた――
「ちょっと、レオ! 大丈夫? あたしの声、聞こえてる?」
「っは!」
耳元で大砲のように放たれたジェニーの大声で、我に返った。
「良かった、戻ってきた。いきなり黙り込んだと思ったら……何言っても反応しなくなるんだもん。ネックレスの事、触れちゃいけない系だった?」
心配そうに、俺の顔を覗き込むジェニー。
「ネックレス……」
そうだ。その事を考えていた筈なのに。気が付けば大幅に思考が脱線してしまっていた。
恐るべき、ブラックローラ様の魅力。
「すまない、少し驚いてしまって。そうだな、このネックレスは挿絵のものと同じように見える。だが、父から継いだものではないんだ。これは……とある女性が、持っていたもので……」
動揺のせいか、中途半端な誤魔化し方をしてしまった俺に、ジェニーは首をかしげる。
「女? って、お母さん?」
「いや? なぜ母のものだと?」
「だって、お揃いのネックレスを持ってる女、なんて、奥さんか恋人に決まって……あっ! まさかお父さん、愛人がいたとか!?」
遠慮の無い言葉に、思わず立ち上がる。
「あり得ない! 父に限って――」
その時――脳裏に陛下の声が響いた。
『私達が結ばれる事は絶対にありません』
思わず、口元に手をやる。
まさか、そんな馬鹿な――。
「ご、ごめん! 軽はずみに口にしていい事じゃなかったよね! こんなシンプルなデザインのネックレス、いくらでもあるだろうし! お揃いとか愛人とか、あたしの勘違いかな! 適当な事言ってごめん!」
早口で詫びるジェニーの声が、遠く感じる。
彼女の推測通り、俺の父と陛下の母君が通じていたのなら……
俺とローラ様は……
「兄……妹?」
ぽつりと零れた俺の言葉に、赤毛のシェフは気付いていないようだった。
訓練学校を首席で卒業し、晴れて騎士団への入団が決まった俺に、陛下はルビーのネックレスをくださった。
宝石としては小ぶりなものだけれど、その艶やかな深紅の色は、紅薔薇のように優雅で上品で。
一目見て、特別な逸品だとわかった。
『これはね、お母様の形見なの』
『いけません! そんな大切なものを、私などに……!』
『大切なものだから、あなたに贈りたいのよ。お母様はいつも言っていたわ。このルビーが祖国を守ってくれているのだと。騎士になったらきっと危険な任務にも就くでしょう? だから、お守り代わりに持っていてちょうだい。いつでも、肌身離さず』
『受け取れません! そういう事なら尚更、あなた様がお持ちになるべき――』
『お願い、受け取って。あなたまで、お母様やリナルドおじ様のようになってしまったら……私は……』
『陛下……』
先代の女王陛下であらせられるローラ様の母君は、ある日突然、崩御された。心臓発作だった。
そしてその1か月後。俺の父も、不慮の事故で亡き人となったのだ。
俺が騎士になるより、更に2年前――。
俺が16歳、陛下が14歳の時の事だった。
立て続けに大切な人を失った陛下は、見るに堪えない程、打ちひしがれていて――。
俺は父の死以上に、そんなローラ様に胸を痛めていた。
以来、陛下は人の死にとても敏感になられて。
だから、受け取ったのだ。そのネックレスを。
それで陛下のお心が、少しでも凪ぐのならと。
自分が騎士人生を全うした後に、きちんとお返しすればいいと考えて。
ああ……
考えてみれば、あの頃から陛下はまぁまぁ思わせぶりな事をおっしゃっていたのだな。
俺の事を大事に思って下さっているとは感じていたが、それが男としてだとは思わなかった。
意外と、自分は鈍感な方なのかもしれない。
あの時の、健気な陛下の表情を思い浮かべる。ネックレスを差し出しながら、うるうるした瞳で俺を見つめて。
俺まで母君や父のようになってしまったら?
どうされるおつもりだったのだろう。毎日泣いてお過ごしになる? それともまさか後を追って……?
いやいやいや、それはダメです陛下。
私の死を悼んでくれるのは身に余る光栄ですが、陛下の尊いお命を道ずれにする位なら、私は地獄に堕ちた方がマシ……しかしそれでは、陛下の御霊も地獄まで追いかけてきてしまうだろうか?
堕天使、小悪魔、悪女……。
地獄に馴染むお姿になった陛下を想像してみる。
ぷっくりとした唇を派手に彩る、真っ赤なルージュ。
濃いめの口づけをしたら、頬までその赤は広がって。
露出度の高い真っ黒なビスチェと、挑発的な網タイツ。
ロリっぽいデザインであれば、平坦な胸元もかえって映えるだろう。
細く白い陛下の太ももに、タイツの網目が食い込む様は、想像しただけでよだれが出る。
好戦的なピンヒールのブーツ。
踏まれたい。顔を、思い切り。頬を貫通したその切っ先を、舌で受け止めて転がすのだ。
困ったな。どれも良い。全然良い。
普段の清楚なホワイトローラ様も勿論素敵だが、悪に身を堕としたブラックローラ様もまた――
「ちょっと、レオ! 大丈夫? あたしの声、聞こえてる?」
「っは!」
耳元で大砲のように放たれたジェニーの大声で、我に返った。
「良かった、戻ってきた。いきなり黙り込んだと思ったら……何言っても反応しなくなるんだもん。ネックレスの事、触れちゃいけない系だった?」
心配そうに、俺の顔を覗き込むジェニー。
「ネックレス……」
そうだ。その事を考えていた筈なのに。気が付けば大幅に思考が脱線してしまっていた。
恐るべき、ブラックローラ様の魅力。
「すまない、少し驚いてしまって。そうだな、このネックレスは挿絵のものと同じように見える。だが、父から継いだものではないんだ。これは……とある女性が、持っていたもので……」
動揺のせいか、中途半端な誤魔化し方をしてしまった俺に、ジェニーは首をかしげる。
「女? って、お母さん?」
「いや? なぜ母のものだと?」
「だって、お揃いのネックレスを持ってる女、なんて、奥さんか恋人に決まって……あっ! まさかお父さん、愛人がいたとか!?」
遠慮の無い言葉に、思わず立ち上がる。
「あり得ない! 父に限って――」
その時――脳裏に陛下の声が響いた。
『私達が結ばれる事は絶対にありません』
思わず、口元に手をやる。
まさか、そんな馬鹿な――。
「ご、ごめん! 軽はずみに口にしていい事じゃなかったよね! こんなシンプルなデザインのネックレス、いくらでもあるだろうし! お揃いとか愛人とか、あたしの勘違いかな! 適当な事言ってごめん!」
早口で詫びるジェニーの声が、遠く感じる。
彼女の推測通り、俺の父と陛下の母君が通じていたのなら……
俺とローラ様は……
「兄……妹?」
ぽつりと零れた俺の言葉に、赤毛のシェフは気付いていないようだった。
0
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】愛人の子を育てろと言われた契約結婚の伯爵夫人、幼なじみに溺愛されて成り上がり、夫を追い出します
深山きらら
恋愛
政略結婚でレンフォード伯爵家に嫁いだセシリア。しかし初夜、夫のルパートから「君を愛するつもりはない」と告げられる。さらに義母から残酷な命令が。「愛人ロザリンドの子を、あなたの子として育てなさい」。屈辱に耐える日々の中、偶然再会した幼なじみの商人リオンが、セシリアの才能を信じて事業を支援してくれる。
【完結】これは紛うことなき政略結婚である
七瀬菜々
恋愛
没落寸前の貧乏侯爵家の令嬢アンリエッタ・ペリゴールは、スラム街出身の豪商クロード・ウェルズリーと結婚した。
金はないが血筋だけは立派な女と、金はあるが賤しい血筋の男。
互いに金と爵位のためだけに結婚した二人はきっと、恋も愛も介在しない冷めきった結婚生活を送ることになるのだろう。
アンリエッタはそう思っていた。
けれど、いざ新婚生活を始めてみると、何だか想像していたよりもずっと甘い気がして……!?
*この物語は、今まで顔を合わせれば喧嘩ばかりだった二人が夫婦となり、紆余曲折ありながらも愛と絆を深めていくただのハイテンションラブコメ………になる予定です。
ーーーーーーーーーー
*主要な登場人物*
○アンリエッタ・ペリゴール
いろんな不幸が重なり落ちぶれた、貧乏侯爵家の一人娘。意地っ張りでプライドの高いツンデレヒロイン。
○クロード・ウェルズリー
一代で莫大な富を築き上げた豪商。生まれは卑しいが、顔がよく金持ち。恋愛に関しては不器用な男。
○ニコル
アンリエッタの侍女。
アンリエッタにとっては母であり、姉であり、友である大切な存在。
○ミゲル
クロードの秘書。
優しそうに見えて辛辣で容赦がない性格。常にひと言多い。
崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜
束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。
家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。
「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。
皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。
今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。
ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……!
心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。
婚約破棄された辺境伯令嬢ノアは、冷血と呼ばれた帝国大提督に一瞬で溺愛されました〜政略結婚のはずが、なぜか甘やかされまくってます!?〜
夜桜
恋愛
辺境の地を治めるクレメンタイン辺境伯家の令嬢ノアは、帝国元老院から突然の召喚を受ける。
帝都で待っていたのは、婚約者である若きエリート議員、マグヌス・ローレンス。――しかし彼は、帝国中枢の面前でノアとの婚約を一方的に破棄する。
「君のような“辺境育ち”では、帝国の未来にふさわしくない」
誰もがノアを笑い、見下し、軽んじる中、ひとりの男が静かに立ち上がった。
「その令嬢が不要なら、私がもらおう」
そう言ったのは、“冷血の大提督”と恐れられる帝国軍最高司令官――レックス・エヴァンス。
冷たく厳しい眼差しの奥に宿る、深い誠実さとあたたかさ。
彼の隣で、ノアは帝都の陰謀に立ち向かい、誇りと未来を取り戻していく。
これは、婚約破棄された辺境伯令嬢が、帝国最強の大提督に“一瞬で”溺愛され、
やがて帝国そのものを揺るがす人生逆転の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる