女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

文字の大きさ
62 / 105

蜘蛛はGを食べてくれるらしいから退治しない

しおりを挟む
 「お久しぶり! レノックス君! 薔薇の勲章の授与式の……晩餐会でお会いした時以来だね!」

 「ご、ご無沙汰しています、グランヴィル伯爵……」

 ソレリ様に促され、客間に入って来たのは……女たらしで有名な、あのグランヴィル伯爵だった。

 「伯爵から聞いたの。レオナルド様は伯爵と、お知り合いなのだとか?」

 「し、知り合いといいますか……」

 ソレリ様には言えない……。
 女とみれば誰彼構わずすり寄って、挙句の果てには陛下にまで手を出そうとした彼の事を、いつも全力で追い払っていたなんて。

 「社交界は広いようでいて、狭いからね。王都で暮らす貴族にとっては、尚更。それに、レノックス君は女王陛下の護衛騎士という、華やかな立場におられた有名人だったし」

 「いえ、伯爵程では……」

 決して友好的な関係だったとは言えない伯爵からの挨拶に、どう返したものかと戸惑ってしまう。
 そんな俺に気付いたジェニーが、隣で囁いた。

 「誰? あんたと知り合いっつったって、仲良しこよしって感じじゃなさそうだけど」

 「グランヴィル伯爵とは、夜会等で数回挨拶をした事がある程度の仲なんだが……正直俺は良い印象を持っていない。数々の女性を食い荒らしていると噂の、プレイボーイなんだ」

 そんなチャラ男と、ソレリ様にご親交があったとは。
 しかも、クイーンズ・ソルジャーの一員として、推薦する程の信頼関係……。

 嫌な予感が、俺の中で産声を上げる。

 「レオナルド様、伯爵が社交界で多くの女性にお声掛けするのには、きちんとした理由があるのです!」

 ジェニーだけに聞こえるよう、小声で話したつもりだったけれど……ソレリ様の耳には届いていたらしい。

 それにしても、すぐさま伯爵を擁護するような事を言うなんて。やはり、ソレリ様と伯爵は……

 「ソレリ、いいんだ。それ以上は――」

 「でもパーシー! あなたが誤解されたままなのは、我慢出来ません!」

 ああああ……っっ。その上、ファーストネームで呼び捨て。
 
 これはもう、間違いない――!

 「ええと、不躾な事をお伺いしますが……お二人は、その……どういったご関係で?」

 単刀直入な俺の質問に、明らかに慌てている様子のソレリ様。

 「あ……あの、それは、ええと……」

 しかし隣の色男は毅然とした態度で、ソレリ様の肩を抱いた。

 「話そうソレリ。キューピッド役を務めてくれた彼には、隠すべきじゃないと思う」

 「……ええ……そうね……。私の体の事を知った時の、レオナルド様の言葉が後押しになって……私はあなたのプロポーズを、受ける勇気が持てたのだものね」

 キューピッド? プロポーズ?

 嫌な予感が現実に近づいてきた気配。変な緊張感で、手に汗が滲んできた。

 「レオナルド様、ジェニー、改めてご紹介させてください。こちらは私の婚約者、パーシー・グランヴィル伯爵閣下です」

 その時、俺の目にはソレリ様が……派手な毒蜘蛛の巣に引っかかった、か弱いアゲハ蝶に見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】愛人の子を育てろと言われた契約結婚の伯爵夫人、幼なじみに溺愛されて成り上がり、夫を追い出します

深山きらら
恋愛
政略結婚でレンフォード伯爵家に嫁いだセシリア。しかし初夜、夫のルパートから「君を愛するつもりはない」と告げられる。さらに義母から残酷な命令が。「愛人ロザリンドの子を、あなたの子として育てなさい」。屈辱に耐える日々の中、偶然再会した幼なじみの商人リオンが、セシリアの才能を信じて事業を支援してくれる。

【完結】これは紛うことなき政略結婚である

七瀬菜々
恋愛
 没落寸前の貧乏侯爵家の令嬢アンリエッタ・ペリゴールは、スラム街出身の豪商クロード・ウェルズリーと結婚した。  金はないが血筋だけは立派な女と、金はあるが賤しい血筋の男。  互いに金と爵位のためだけに結婚した二人はきっと、恋も愛も介在しない冷めきった結婚生活を送ることになるのだろう。  アンリエッタはそう思っていた。  けれど、いざ新婚生活を始めてみると、何だか想像していたよりもずっと甘い気がして……!?   *この物語は、今まで顔を合わせれば喧嘩ばかりだった二人が夫婦となり、紆余曲折ありながらも愛と絆を深めていくただのハイテンションラブコメ………になる予定です。   ーーーーーーーーーー *主要な登場人物* ○アンリエッタ・ペリゴール いろんな不幸が重なり落ちぶれた、貧乏侯爵家の一人娘。意地っ張りでプライドの高いツンデレヒロイン。 ○クロード・ウェルズリー 一代で莫大な富を築き上げた豪商。生まれは卑しいが、顔がよく金持ち。恋愛に関しては不器用な男。 ○ニコル アンリエッタの侍女。 アンリエッタにとっては母であり、姉であり、友である大切な存在。 ○ミゲル クロードの秘書。 優しそうに見えて辛辣で容赦がない性格。常にひと言多い。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

婚約破棄された辺境伯令嬢ノアは、冷血と呼ばれた帝国大提督に一瞬で溺愛されました〜政略結婚のはずが、なぜか甘やかされまくってます!?〜

夜桜
恋愛
辺境の地を治めるクレメンタイン辺境伯家の令嬢ノアは、帝国元老院から突然の召喚を受ける。 帝都で待っていたのは、婚約者である若きエリート議員、マグヌス・ローレンス。――しかし彼は、帝国中枢の面前でノアとの婚約を一方的に破棄する。 「君のような“辺境育ち”では、帝国の未来にふさわしくない」 誰もがノアを笑い、見下し、軽んじる中、ひとりの男が静かに立ち上がった。 「その令嬢が不要なら、私がもらおう」 そう言ったのは、“冷血の大提督”と恐れられる帝国軍最高司令官――レックス・エヴァンス。 冷たく厳しい眼差しの奥に宿る、深い誠実さとあたたかさ。 彼の隣で、ノアは帝都の陰謀に立ち向かい、誇りと未来を取り戻していく。 これは、婚約破棄された辺境伯令嬢が、帝国最強の大提督に“一瞬で”溺愛され、 やがて帝国そのものを揺るがす人生逆転の物語。

処理中です...