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難しい会話に加わりたくて知ったかぶりしてみてもすぐにボロが出る
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「って感じで、農作物の流通状況をみる限りでは、派手な食糧難が起こりそうな土地は無いかなってのが、あたしとソレリ様の読みです」
「意外だな……ウェスタン・ブロックの辺りは盆地だろ? あそこらは山に囲まれてるせいで、毎年夏になると猛烈な暑さだし……湿気を含んだ海風も、山を越えてくる前に水分が飛んじゃって、雲が出来にくく雨も少ないから……小麦も野菜も、ろくに育たないと思ってたわ」
「あの辺は、ここ何年かで用水路をじゃんじゃん作ってるからね。ほら、山の向こうから流れてるマノン川あるじゃん? あそこが大雨降るたびに氾濫して……」
「川沿いの集落は、その度に甚大な被害を受けていたの。けれど、マノン川から盆地まで用水路を引けば、集落を水害から守りつつ、盆地に水を運べて……一石二鳥という話になったみたい。工事の許可証が、二つの土地の代表者名義で出されたから、よく覚えているわ」
「メントル町と、ユーザ村の人々が協力して作業にあたったんですよね。中々画期的な水路作成方法だったようですよ。うちの会社で取り扱っている外国製のダイナマイトを使用して、工事の効率を各段に上げたとか。そのノウハウを買いたいから、仲介役になってくれないか……なんて、地方の有力者から度々相談を持ち掛けられますし」
「ダイナマイトかぁ~……水路作る程度の威力じゃ、大丈夫だろうけど……爆風がすごいと、雲の動きが読みにくくなるから、俺苦手なんすよね」
「あたしは、爆薬の成分が土に残らないかが心配だな。盆地だと空気循環が少ないから、有害物質も残りやすいっていうじゃない?」
「確かここの本棚の……あそこね、10段目の右側に、戦場での土質の変化と、農作物の影響を検証した本があったの。それによると、彼らが使ったダイナマイトなら……大きな悪影響はなさそう、という結果だったけれど……」
……なんというか。今更だが。
すごいな、ソルジャーズ。
専門家委員というだけあって、議論の内容が専門的だ。
俺の知らない情報が、次々に出てくる。陛下の疑問にお答えする為、そして優秀な騎士になる為に習得した……一般教養に毛が生えたレベルの知識だけでは、全く会話に参加出来ない。
彼らと同等に討論出来ているローラ様を前に、情けなくて身が縮む思いだ。
俺ももっと勉強しなくては。
このままじゃそのうちアランあたりに、『お前何しに来てるの?』と言われかねない。
脳裏から退去したはずの最悪の未来を現実にさせない為にも、これからは今まで以上に励まなければ。
「あの、ジェニー。農産物の現状はわかったが……海産物はどうだろう?」
遠慮がちに挙手をした伯爵に、ジェニーは困ったような顔で、頭をかいた。
「ごめんなさい……ノースリーフの近くには海が無いから……ソレリ様も私も、あんまり詳しくは無くて……調理に使ってるようなものの事なら、答えられるかもしれませんけど」
「グランヴィル伯爵、何か気になる事でも?」
深刻そうな顔で腕組みをする伯爵に、思わず口を挟む。
「毎年この時期になると、サロイドという北の漁村の、海産物収穫量が落ち込むんだ。それに伴って、村全体が経済的に困窮するらしく……村人相手に商売をしている業者までも収入が減って、大変だという話を聞く」
「サロイド……ああ、サーモンとか、昆布とかが有名なとこですよね。あたしも乾燥した昆布を何度か取り寄せた事があるよ。あれで出汁をとるとさ、ブイヨンスープとはまた違った風味が出て、美味しいんだよねぇ」
コンブ……昆布か。内陸で育った俺にはあまり馴染みの無い食材だが、流石はジェニー。
地名を聞いてまず食材が出てくるあたりが、いかにも料理人らしい。
「その話、聞いた事あります。うちの親父が生きてた頃、調査した事があるんすよ。なんかあの村の人達って、毎年夏から秋にかけて体調崩す人が多いらしくて。それに気候が関わって無いか、調べてくれって言われて……結局、関連は無いっつー結論に至ったらしいんすけど」
「漁師が体調不良で海に出れないから、収穫量が減っている……ということ? 知らなかったわ。サロイドまでは、中々足を伸ばせなくて……」
少し悔しそうにそう言って、眉間に皺を寄せる陛下。
陛下は恵みの日を利用して、城外へ視察に出かけられていたとおっしゃっていたが……王都から大陸の北端であるサロイド村までは、往復するだけで丸一日かかってしまう。
いくら陛下が聡明であっても、お一人で国内全ての状況を把握する事など、物理的に不可能だったのだろう。
「しかし陛下、大きな騒ぎになっていない所をみると、少し具合が悪い……というだけで、死者が大勢出ているわけでは無いのでしょう? でしたら、さして気に留める必要も無いのでは?」
「死だけが人の不幸では無いよ、レノックス君。彼らが抱えているのは、生きる為の問題だ」
少しでも陛下の慰めになればと、軽はずみな事を口にしてしまった俺に、ピシャリと伯爵が反論する。
「すいません。現地の人々の苦しみを軽視した、軽率な発言でした。しかし……今の伯爵のおっしゃりようだと、事態を軽んじるべきでは無い事情を、あなたがご存知のような印象を受けますが?」
「私もそう感じました。伯爵、サロイドの人々はどんな問題を抱えているのです?」
俺だけでは無く陛下からも追及を受けた伯爵は、ばつが悪そうに目を逸らした。
「陛下、思わせぶりな発言をお詫び致します。しかし……素人の憶測で、これ以上申し上げるわけには……。この中に医療の専門家がいれば、検証を依頼する所なのですが……」
「医療の専門家って……医者とか? そういやこの中にはいないよね」
「おいレオ、疫病の流行予測とか……医療衛生面のプロは必要だろ? なんでメンバーに加えなかったんだよ」
「なんでって……この秘密を共有出来る程に信頼できる医師なんて、身近にいなかったんだ。仕方ないだろう」
それが、正直な理由だった。
ソルジャーの選定基準として、俺が最も重要視しているのは、陛下にご紹介するに値する人物かどうか。
手当たり次第に多方面の専門家を集めるつもりは無かった。
まずは信頼できるメンバーを招集し、不足している分野については、この会の活動が軌道に乗ってから考えようと思っていたから。
公衆衛生の観点からも、医のプロは必要だとわかってはいたけれど。
焦って声を掛けた相手が、啓示の秘密を漏洩し、陛下を貶めるような人物だったらと思うと……慎重に調査をした上で、人選を行いたくて。
王室専属の医師もいるけれど……あの、いわゆる『おじいちゃん先生』は、先代の医師の急逝によって引っ張り出されてきた、ご隠居様で。
医師としてはベテランだし、人柄も悪くは無かったが……国内方々に、調査に向かう事が望まれるソルジャーの一員としては、体力面で不安が大きかった。
先代の侍医がご存命であれば……。
直接話した事は無かったが――アリシア様や王配殿下、そしてローラ様の診察をなさる頼もしい横顔を思い出す。あの先生の名前は何と言ったか……確か……
「ハドソン君ではダメなのかい? レノックス君」
「そうだ! ハドソン先生だ!」
記憶の糸をたぐり切れずにモヤモヤしていた所に、あっさりと提示された正解。
爽快感から、思わず大きな声を出してしまった俺だったが……
「ん……?ハドソン? ちょっと待って下さい? 伯爵がおっしゃるハドソン君というのは、まさか……」
「クリス・ハドソン君だよ。現任の、陛下の護衛騎士の。代々王室の侍医を務めている、ハドソン侯爵家の跡取り息子。とても優秀な男で……飛び級で医学校を卒業してから、騎士団の訓練学校に入学したと聞いている。年齢的に、君達と同期位だと思っていたけれど……友人ではないかい?」
伯爵の解説を聞いた後は――
自分を恨んでいるらしい美男騎士の新たな一面に、驚きの声を上げていた。
「意外だな……ウェスタン・ブロックの辺りは盆地だろ? あそこらは山に囲まれてるせいで、毎年夏になると猛烈な暑さだし……湿気を含んだ海風も、山を越えてくる前に水分が飛んじゃって、雲が出来にくく雨も少ないから……小麦も野菜も、ろくに育たないと思ってたわ」
「あの辺は、ここ何年かで用水路をじゃんじゃん作ってるからね。ほら、山の向こうから流れてるマノン川あるじゃん? あそこが大雨降るたびに氾濫して……」
「川沿いの集落は、その度に甚大な被害を受けていたの。けれど、マノン川から盆地まで用水路を引けば、集落を水害から守りつつ、盆地に水を運べて……一石二鳥という話になったみたい。工事の許可証が、二つの土地の代表者名義で出されたから、よく覚えているわ」
「メントル町と、ユーザ村の人々が協力して作業にあたったんですよね。中々画期的な水路作成方法だったようですよ。うちの会社で取り扱っている外国製のダイナマイトを使用して、工事の効率を各段に上げたとか。そのノウハウを買いたいから、仲介役になってくれないか……なんて、地方の有力者から度々相談を持ち掛けられますし」
「ダイナマイトかぁ~……水路作る程度の威力じゃ、大丈夫だろうけど……爆風がすごいと、雲の動きが読みにくくなるから、俺苦手なんすよね」
「あたしは、爆薬の成分が土に残らないかが心配だな。盆地だと空気循環が少ないから、有害物質も残りやすいっていうじゃない?」
「確かここの本棚の……あそこね、10段目の右側に、戦場での土質の変化と、農作物の影響を検証した本があったの。それによると、彼らが使ったダイナマイトなら……大きな悪影響はなさそう、という結果だったけれど……」
……なんというか。今更だが。
すごいな、ソルジャーズ。
専門家委員というだけあって、議論の内容が専門的だ。
俺の知らない情報が、次々に出てくる。陛下の疑問にお答えする為、そして優秀な騎士になる為に習得した……一般教養に毛が生えたレベルの知識だけでは、全く会話に参加出来ない。
彼らと同等に討論出来ているローラ様を前に、情けなくて身が縮む思いだ。
俺ももっと勉強しなくては。
このままじゃそのうちアランあたりに、『お前何しに来てるの?』と言われかねない。
脳裏から退去したはずの最悪の未来を現実にさせない為にも、これからは今まで以上に励まなければ。
「あの、ジェニー。農産物の現状はわかったが……海産物はどうだろう?」
遠慮がちに挙手をした伯爵に、ジェニーは困ったような顔で、頭をかいた。
「ごめんなさい……ノースリーフの近くには海が無いから……ソレリ様も私も、あんまり詳しくは無くて……調理に使ってるようなものの事なら、答えられるかもしれませんけど」
「グランヴィル伯爵、何か気になる事でも?」
深刻そうな顔で腕組みをする伯爵に、思わず口を挟む。
「毎年この時期になると、サロイドという北の漁村の、海産物収穫量が落ち込むんだ。それに伴って、村全体が経済的に困窮するらしく……村人相手に商売をしている業者までも収入が減って、大変だという話を聞く」
「サロイド……ああ、サーモンとか、昆布とかが有名なとこですよね。あたしも乾燥した昆布を何度か取り寄せた事があるよ。あれで出汁をとるとさ、ブイヨンスープとはまた違った風味が出て、美味しいんだよねぇ」
コンブ……昆布か。内陸で育った俺にはあまり馴染みの無い食材だが、流石はジェニー。
地名を聞いてまず食材が出てくるあたりが、いかにも料理人らしい。
「その話、聞いた事あります。うちの親父が生きてた頃、調査した事があるんすよ。なんかあの村の人達って、毎年夏から秋にかけて体調崩す人が多いらしくて。それに気候が関わって無いか、調べてくれって言われて……結局、関連は無いっつー結論に至ったらしいんすけど」
「漁師が体調不良で海に出れないから、収穫量が減っている……ということ? 知らなかったわ。サロイドまでは、中々足を伸ばせなくて……」
少し悔しそうにそう言って、眉間に皺を寄せる陛下。
陛下は恵みの日を利用して、城外へ視察に出かけられていたとおっしゃっていたが……王都から大陸の北端であるサロイド村までは、往復するだけで丸一日かかってしまう。
いくら陛下が聡明であっても、お一人で国内全ての状況を把握する事など、物理的に不可能だったのだろう。
「しかし陛下、大きな騒ぎになっていない所をみると、少し具合が悪い……というだけで、死者が大勢出ているわけでは無いのでしょう? でしたら、さして気に留める必要も無いのでは?」
「死だけが人の不幸では無いよ、レノックス君。彼らが抱えているのは、生きる為の問題だ」
少しでも陛下の慰めになればと、軽はずみな事を口にしてしまった俺に、ピシャリと伯爵が反論する。
「すいません。現地の人々の苦しみを軽視した、軽率な発言でした。しかし……今の伯爵のおっしゃりようだと、事態を軽んじるべきでは無い事情を、あなたがご存知のような印象を受けますが?」
「私もそう感じました。伯爵、サロイドの人々はどんな問題を抱えているのです?」
俺だけでは無く陛下からも追及を受けた伯爵は、ばつが悪そうに目を逸らした。
「陛下、思わせぶりな発言をお詫び致します。しかし……素人の憶測で、これ以上申し上げるわけには……。この中に医療の専門家がいれば、検証を依頼する所なのですが……」
「医療の専門家って……医者とか? そういやこの中にはいないよね」
「おいレオ、疫病の流行予測とか……医療衛生面のプロは必要だろ? なんでメンバーに加えなかったんだよ」
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ソルジャーの選定基準として、俺が最も重要視しているのは、陛下にご紹介するに値する人物かどうか。
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公衆衛生の観点からも、医のプロは必要だとわかってはいたけれど。
焦って声を掛けた相手が、啓示の秘密を漏洩し、陛下を貶めるような人物だったらと思うと……慎重に調査をした上で、人選を行いたくて。
王室専属の医師もいるけれど……あの、いわゆる『おじいちゃん先生』は、先代の医師の急逝によって引っ張り出されてきた、ご隠居様で。
医師としてはベテランだし、人柄も悪くは無かったが……国内方々に、調査に向かう事が望まれるソルジャーの一員としては、体力面で不安が大きかった。
先代の侍医がご存命であれば……。
直接話した事は無かったが――アリシア様や王配殿下、そしてローラ様の診察をなさる頼もしい横顔を思い出す。あの先生の名前は何と言ったか……確か……
「ハドソン君ではダメなのかい? レノックス君」
「そうだ! ハドソン先生だ!」
記憶の糸をたぐり切れずにモヤモヤしていた所に、あっさりと提示された正解。
爽快感から、思わず大きな声を出してしまった俺だったが……
「ん……?ハドソン? ちょっと待って下さい? 伯爵がおっしゃるハドソン君というのは、まさか……」
「クリス・ハドソン君だよ。現任の、陛下の護衛騎士の。代々王室の侍医を務めている、ハドソン侯爵家の跡取り息子。とても優秀な男で……飛び級で医学校を卒業してから、騎士団の訓練学校に入学したと聞いている。年齢的に、君達と同期位だと思っていたけれど……友人ではないかい?」
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