女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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パーツよりも重要なのは全体のバランス

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 仮面舞踏会。

 近年貴族の間で大流行している、身分と素顔を隠して参加する、夜会。
 その特性ゆえに、道徳と倫理を欠いた言動をとる参加者も多い。
 だから陛下は毛嫌いされていて……俺も参加するのは今夜が初めてだ。

 しかし――クリス・ハドソンは度々顔を出しているらしい。

 情報収集の為にあちこちの夜会に足を運んでいる、グランヴィル伯爵によると。

 だから俺は来たのだ。
 女王の護衛騎士である奴と直接話をするには、非公式な場で接触を図るしか無いから。


 2週間前の恵みの日以来、俺はずっと考えてきた。あいつが俺を恨む、理由を。

 クリスは恐らく……俺に嫉妬していたのだと思う。

 名家に生まれ、飛び級で医学校を卒業し医師となった。そんな、誰もが羨む勝ち組人生を歩んできたクリスだったが……なぜか入学した騎士団訓練学校で、俺に出会ってしまった。

 ハドソン家に勝らぬとも劣らぬ貴族の家に生まれ、容姿端麗、文武両道、質実剛健。
 訓練学校入学から卒業まで首席の座に君臨し続けた、超完璧人間である、この俺に。

 クリスは衝撃を受けた事だろう。

 今まで、全てにおいて他者よりも秀でていた筈なのに。
 上には上がいるという現実に、奴のプライドはひどく傷ついた筈だ。

 俺にいやがらせを始めたのも、経験した事の無い劣等感によって鬱積したストレスを、発散する為だったのかもしれない。

 が。鋼の心と確たる信念を持って訓練生生活を邁進していた俺は、陰湿な攻撃を受けても、奴が喜ぶような反応を見せてやらなかったものだから……奴としては、一層面白くなかったに違いない。

 だから――そこを突いて、挑発して、利用すればいい。

 『お前は自分が優秀だと思っているのだろうが、俺はそうは思わない。グランヴィル伯爵はお前が紅薔薇の秘密を知っていると言っていたが、本当は知らないんだろう? お前は凡人だ、俺でも知らない事を、知っている筈が無い』

 そう言ったら、きっと奴は怒って

 『馬鹿にするな! 紅薔薇の秘密っていうのは、ペラペラペラ……ほら! 知ってただろ! 俺はお前よりよっぽど優秀だ!』

 と、なった所で

 『そこまで言うならそれを証明してみろ! クイーンズ・ソルジャーで、医師として役に立てたら認めてやる!』
 
 こうなること。


 ……うん。完璧だ。

 我ながら、なんてスマートでクレバーな作戦。
 成功する気しかしない。

 うまく行ったら、陛下は喜んで下さるだろうか。

 『よくやってくれました』と、優しく労いの言葉を掛けて下さって。
 『何かご褒美を取らせなければ?いけないわね』とおっしゃって。

 『ローラ様のお役に立てたなら、それだけで十分です』と、遠慮する俺の胸ぐらを少々乱暴につかんで引き寄せて。

 『そんな事を言って……じらさないで?』

 なんて言って、上目づかいで俺を見ながら、騎士服のボタンを次々と外していって。

 『ちょ! いけません、ローラ様! 女王陛下ともあろうお方が、俺などのそんな所を……あぁっ……!』



 いかんいかんいかん。

 妄想するなら、せいぜいハグやキスまでにしなくては。
 レオナルドのレオナルドが、活気に満ち満ちてしまう。

 いくら砕けた雰囲気の仮面舞踏会とはいえ……海綿体に血液を大集合させた男がふらついていたら、間違い無く拘束されるだろう。
 俺は変質者の烙印を押される為にここに来たわけではない。

 さっさとクリスを見つけて、作戦を実行しなくては。

 しかし――意外と、難しいものだ。仮面をつけた状態の群衆の中から、特定の人物を探し出すというのは。

 流行っているのは目元だけを隠すタイプの仮面だと聞いていたから……口元や輪郭が見えれば、知人を探し出す位、容易いと思っていたのに。

 人の顔のパーツの中で、全体の印象に大きく関与するのは目だ。
 しかし、その人物の美醜を決めるのは、結局のところ全体のバランス。

 いくらぱっちりと大きな目でも、鼻ぺちゃで歯並びが悪ければ、きっと美人とは呼ばれない。
 反対に、可もなく不可も無い形と大きさの目でも、顔の輪郭が整い、鼻筋がシャープで、笑った時の口元が美しければ、整った顔立ちだと褒められるだろう。

 そういった意味では、鼻や口、輪郭なども、目元と動揺に重要な部分だと言える。
 だから、それらが露わになっているゲストの中からクリスを見つける事は、そう難しくない事だと考えていたのだ。

 もし探しているのがローラ様なら、フルフェイスタイプの仮面だろうが、見つけ出す自信はあるけれど。

 あの一輪挿しの花のように、しなやかで華奢なお体のラインとか、稲穂のように見事に波打つ金髪とか、俺にとっての精力剤と言っても過言ではない、あの蜜のような体臭とか……目印になる魅力は山ほどある……

 
 「きゃ……!」

 「あ! 失礼!」

 やってしまった。

 陛下の事を考えながら歩き回り、大勢の紳士達の顔をキョロキョロと見渡していた俺は……勢いよく、すれ違いざまのご婦人に、ぶつかってしまったのだ。

 彼女が持っていたカクテルグラスの中身が、勢いよく飛び散り、宝石や鳥の羽で彩られた仮面を濡らした。

 「申し訳ありません! よそ見をしていたもので……」

 「いえ、お気になさらないで……」

 少々慌てた様子で、仮面を外したご婦人の正体は……

 「え!?」

 まさかの……クリス・ハドソン、その人だった。
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