女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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天秤座は元々さそり座のはさみの部分

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 鍋にたっぷりの湯を張り、サツマイモを輪切りにして水から茹でる。
 やわらかくなったら皮を剥き、潰して丁寧に裏ごししたら、砂糖、ミルク、バターを混ぜ……成型して、といた卵黄を塗り、オーブンで焼く。

 これがスイートポテトの作り方。
 行程をおさらいすると、至ってシンプルなスイーツなのだとわかる。
 しかし――そうとは思えない、この奥行のある味はなんだろう。 

 「ああジェニー、こんなスイートポテトは初めてだ。本当にうまい。コクがあって滑らかで。今まで食べたスイートポテトの中で一番と言っても過言では無い。作り方にコツでも?」

 騎士団が耕した畑で、良いサツマイモが獲れたからと……ジェニーが大量のスイートポテトを持って執務室に現れたのは、午後3時頃の事だった。

 「ジェニー! これめっちゃうまい! もう1個くれ!」

 「俺も俺も!」

 絶品のスイートポテトに魅了されたのは俺だけでは無かったらしい。
 執務室のあちこちから、おかわりを求める声があがる。

 「ああ、もう! そっちのテーブルに置いてあるから、勝手に取って!」

 がっつく騎士団員の方へ振り返り、鬱陶しそうに声を荒げるジェニー。

 「ちょっとレオ! スイートポテトの感想なんかより……いや美味しいって言ってくれるのは、それはそれで嬉しいんだけど……今はクリス・妹の話でしょ! あんたがデートしてくれれば、色々教えてあげるなんて……そんなの怪しすぎない?」

 眉間に皺を寄せて声を潜め、クリスティーナ嬢が提示した『条件』について語るジェニー。
 
 「ああ、本当に……改めて自分の魅力が恐ろしくなったよ。まさかあれ程の美女ですら、初対面で撃墜してしまうなんて……。ずっと仮面をつけたままでいればよかった。俺の整い過ぎた顔を見せたが為に、クリスティーナ嬢は……」

 「今はそーゆーのいいから。で? どーすんの? 2人きりで会うなんて危なくない? 女王様には相談したの?」

 ジェニーは険しい顔で俺を見ながら、自作のスイートポテトを頬張った。

 「いや。陛下には黙って行こうかと。その……やきもちをやかせてしまったら申し訳ないし」

 「そこは女王様も割り切るだろうけど。紅薔薇の秘密とか、クリスが女王様やあんたのお父さんを仇だと思ってる理由だとか……役に立ちそうな情報を貰う為に行くんだから」

 「そんな風に冷静でいて下さるとは思えない。クリスティーナ嬢は……あの陛下が嫉妬してもおかしくない程に、美しい女性なんだ。それに……俺は正直、自信が無い。俺が愛しているのはローラ様だけだが……クリスティーナ嬢の魅力を前にしたら……自分がどうなるのか……」

 「うそでしょ!? あんた気持ち悪い位、女王様一筋なのに!? どんだけ美人なのその妹は」

 驚きに目を見開くジェニーをよそに、3日前……仮面舞踏会で会った彼女の事を思い出す。

 あの……ねっとりと体中に絡みつく、妖艶な流し目。
 秘密と危険をはらんでいそうな、蠱惑的な微笑み。
 
 清廉な陛下には無い、危うい魅力。 
 そして……陛下に無いと言えばもう一つ……あの、たわわに実った果実のような……

 「顔以上に、乳だ」

 「は……? ちち……?」

 ぽかんと口を開いた拍子に、ジェニーの口元からスイートポテトの欠片がこぼれた。

 「当たったんだよ! クリスティーナの乳が! 肘に! 不意に腕を組まれた時にだ! 表面はマシュマロのように柔らかく、奥深くには男の幸せの全てが詰まっているでは無いかと思う程に弾力があって……! あれは詰め物で誤魔化したりしてない、真の乳だ! パッドミルフィーユ作戦で谷間を作ったローラ様とは、明らかに違う! 巨乳とまではいかないが、手の平からは溢れる位の程よいデカパイ! 困ったぞ……あの美貌にあの乳では鬼に金棒! 迫られたら俺は……自分を制御できるかどうか……!」

 肘部に感じた夢のような感触を、苦悩の表情で熱弁する俺に、ジェニーは盛大にため息を吐いた。

 「最低……あんたの女王様への愛は、性欲に負けるわけ……?」
 
 眉も目も口元も歪んでいる。それは明らかに、俺への軽蔑の現れ。
 俺は自身の名誉の為にも、男の性欲について、ジェニーに解説を行う事にした。

 「ジェニー。恋人がいたら食事や睡眠は不要か? 違うだろう? 性欲だってそれと同じだ! 感情が支配し切れていない、抗い難い本能……生きていく上で不可欠な欲求……それが性欲! だからこそ、前にも言ったが……男は感情を伴わずとも肌を重ねられる。だがつまりは、下半身が反応したからと言って、愛しているという事にはならないという事なんだ。だから、俺がクリスティーナ嬢と過ちを犯してしまっても、それはローラ様への裏切りにはならな」

 「それ言われて浮気を許す女なんて、この世にいないからね? 多分女王様も含め」

 まるで汚物を見るようなジェニーの視線に、ついムキになってしまう。

 「だから、浮気じゃない! 男の下半身の回路は、心とは一部分離している! 気持ちの伴わない営みをした所で、愛情が他の女性に移ったわけではないのだか」

 「浮ついた気持ちでする行為を浮気っていうの! 本能でも何でも、無理矢理やられたんじゃなければ、それはもう浮気! 裏切り! 大事な人を悲しませない為の自制心こそが愛でしょ!? デカパイの誘惑に勝てる自身が無いなら、そんな条件断ればよかったんだよ!」

 そう、ジェニーに一喝された所で――

 俺達は自分達の声量がヒソヒソ話の範疇を越えている事、そしてそれ故に、執務室中の注目を集めている事に気付き……肩を縮めて声をボリュームを絞った。

 「とにかく……気を付けなさいよ。相手はあんたを恨んでる男の妹なんだから。どんな罠が待ってるかわからない」

 「ああ、すまない。弱気な事を言って心配をかけてしまって……。きっと大丈夫だ。俺は愛する女性のお傍にいながら、襲い掛かる事無く10年以上を過ごしてきた、強靭な理性の持ち主。クリスティーナ嬢がどんな誘惑をしてこようと……きっと陛下の為に、最善の道を選ぶことが出来る」

 乳の魅力に負けそうになってしまったら、ローラ様を思い浮かべよう。
 
 俺の何もかもは、あの方の幸せの為に存在している。
 ローラ様を悲しませる位なら……俺は生涯、乳とは無縁な生活を送った方がマシだ。そう心に強く決めて――

 いや待て。
 生涯……は、キツイ。1、2年にならまだなんとかいける……か?
 しかしそもそも、色々カタが付いたらローラ様と堂々とイチャコラ出来る立場になるかもしれないのだし……

 直近で触れ合える、愛していない女性のデカパイ。
 遠い未来に対面出来る、愛する女性の貧乳。

 甲乙つけがたい両乳を天秤にかけ……俺は頭を抱えるのだった。
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