女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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お金で解決出来ない事はたくさんあるけど出来る事はもっとたくさんある

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 「レオナルド! お前……! どうしてあんな格好の妹を、山なんかに連れ出したりしたんだ!」

 「よさないかクリス! 今はレオナルドを責めるよりも、妹君の捜索だろう!」

 思い出されるのは……俺の胸ぐらをつかむクリスの鬼のような形相と、そんな奴を止める騎士団長の険しい表情。


 3か月前……クリスティーナと登山デートをしていたあの日……。

 降り始めた雨に焦った俺は、下山をする為に彼女をおぶろうとしていた。
 しかし……しゃがんだ直後に突然、意識を失ったのだ。

 気が付いた時には、辺り一帯は豪雨に襲われていて、クリスティーナの姿は見当たらず。
 川沿いの岩場に彼女が履いていた靴を見つけて……。

 俺はすぐさま下山し、待機していた馬車の御者を王都に戻らせた。
 行方不明になったハドソン侯爵家のご令嬢を捜索する為に、騎士団の派遣を要請してほしいと伝えて――。

 騎士団とその他有志によるクリスティーナの捜索は、1週間もの間、昼夜を問わずに行われた。
 それでも彼女は見つからず――。

 突然失神した俺を救う為、クリスティーナは助けを呼びに行こうと一人で山を下りようとした。
 しかし……山中の悪路に足をとられたクリスティーナは運悪く、豪雨で水量と勢いの増した川に転落してしまった。
 そして……そのまま……。

 それが、騎士団の出した結論だった。


 「お前のせいだ! 俺の妹をよくも……! これは大問題だぞ! レノックス伯爵家の跡取りがハドソン侯爵家の娘を殺した!! どう責任を取るつもりだ!!」
 
 普段のクールな様からは想像できない位に表情を歪めて、俺を怒鳴りつけるクリス。


 「レオ! これは事故だ! お前は直接的にあいつの妹に手を下したわけじゃない! 自分の非を過剰に認めるな!」

 「ちゃんと裁判受けた方がいいよ! そしたらきっと、殺人犯にされずに済む!」

 「責任を感じるのはわかるが……家同士の示談になんてなったら、君は何もかもを失うぞ! 良い弁護士を紹介するから……だから……!」

 事件の事を知ったアラン、ジェニー、グランヴィル伯爵が、心配して俺を訪ねてくれたけれど……俺の気持ちはもう決まっていた。


 俺は騎士団を辞め、レノックス家に与えられた爵位と伯爵領を王室に返還し、家も財産も、全てをハドソン家に差し出した。
 大切なご令嬢を事故死させてしまった、償いに――。


 伯爵領返還の為、女王陛下に拝謁賜った時……陛下は王座から冷ややかな目で、俺を見下ろした。

 けれど……『私というものがありながら、他の女と二人きりで会っていたなんて!』と、俺を責めたりはしなかった。

 それどころか、俺に事情を尋ねる事も、釈明を求める事も、ましてや擁護して下さる事もなく。
 ただ淡々と、返還の儀式を進めて――。

 伯爵の紋章冠を返納すべく、陛下の足元にひざまずいた所で……ローラ様は俺にしか聞こえない程の小声で、呟いたのだ。

 「あなたの巨乳好きは知っていたけれど。身を滅ぼす程だとは思っていなかった。私は……このままでは、済まさないわよ」

 頭の上から降ってきた、雪解け水のように、冷たい声。

 多分……ではなく確実に、ローラ様は怒っていらした。
 恐らく、今までのどんな瞬間よりも。

 俺がセミを捕まえたり、熟れたプラムだとだましてトマトを食べさせたり、なぜか父上の書斎にあった育乳本を、よかれと思ってデスクに置いておいた時とは比べものにならない程に、ものすごく、すさまじく、激しく。

 一見、いつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべているように見えるローラ様の背後に、禍々しい何かが燃え上がっているのを感じながら……

 俺は、何もかもを失ったのだった。
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