女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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過去だとか他人だとか変えようが無いものに人は頭を悩ませる

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 全てを失った母と使用人達は、ノースリーフよりも更に田舎の山奥に引っ込んだ。

 家や宝石、経営している事業や土地建物の所有権等、わかりやすい財産はハドソン家に引き渡してしまったけれど……ドレスや古い家財道具は残してもらえたから。
 それらを売った金で、粗末な一軒家を借りて、自給自足に近い生活を送る事にして――。

 俺は仕事を探した。
 母や使用人達の暮らしを支えて行く為に。

 だが、王都とその近郊では俺はすっかり有名人になっていて。

 女にだらしなく、護衛騎士をクビなったろくでなし。そして凝りもせずに、名家のご令嬢に手を出し不注意によって死なせた、極悪人。
 そんな男を雇ってくれる人間など、どこにもいなかった。

 俺は乞食のようにゴミをあさり、浮浪者のように町から町へと、あても無く移動して。

 町の市場でトマトを見るたびに、ローラ様の事を思い出した。
 あと何回代打で食べて差し上げたら、ありがとうのチューをして下さるのだろうと、期待に胸を膨らませていた甘酸っぱい想い出を。

 歓楽街で平らかな胸の女性を見るたびに、ローラ様の事を思い出した。
 想いを通わせ、あの細いお体をこの腕に抱いた、奇跡のように幸せな時間を。

 林の中で蜘蛛の巣を見るたびに、ローラ様の事を思い出した。
 あの薄暗い隠し通路を通って、あの方の苦しみを取り除く為に……二人の未来の為に、全力を尽くそうと希望に満ち満ちていた、自分の心を。

 本当なら今頃、俺はクイーンズ・ソルジャーのリーダーとして陛下のお役に立って、その功績が認められて護衛騎士に復帰して、と同時に正式な交際をスタートして……10年以上妄想し続けて来た夢のような愛の時間を過ごしていた事だろう……。

 シルクの様なローラ様のお肌に唇を寄せて、見事にくびれた腰に手を回して。
 硬いパッドに取って代わり、俺のこの手で……あの控えめなお胸を寄せて上げて――。

 だが……全て、無くなった。
 自業自得。悪いのは俺だ。

 陛下のお役に立てればと、クリスティーナとデートをして……不注意で死なせた。

 大切な大切な……かけがえの無い彼女の命を……守ってやれなかった。

 後悔と、自責の念。
 それらに押しつぶされた俺は、どん底にいた。

 仕事も無い、家も無い。大切な家族や愛する人も、失って。

 そうして、気が付いたら流れ着いていた。

 かつて、クイーンズ・ソルジャーの集まりで話に上がっていた、サロイド村に。

 俺は漁師達のリーダー的存在であったバークさんに拾われた。
 彼は俺の過去を詮索したりせず、仕事と住む家を与えてくれて。
 
 村の皆は、『人間生きてりゃ色々あるよな』と……笑って俺を受け入れてくれた。

 それで……決めたんだ。失ったものに固執するのは、やめようと。
 
 これからは毎日、全力で働いて、食べて、寝て、村民の親切に報いるよう、ただ懸命に生きる。
 それが、クリスティーナへの償いにもなるのではないか。

 ようやくそんな風に思えるようになった頃……現れた。

 サロイド村に、クリスティーナ・ハドソンが。
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