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過度の憎しみと悲しみは人を変える
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私も他の委員会のメンバーも、レノックス伯爵夫人も、事件の真相を知っていた。
本当はすぐにレオを救ってあげたかったけれど……グランヴィル伯爵に、騙されたフリをしてクリスの狙いを探ろうと止められて。
レオにも、本当は私達はレオの潔白をわかっていると伝えたかったけれど……レオは嘘が付けないから、真実を伝えるべきじゃないと、アラン君に止められて。
ここでクリスを断罪し、レオの犠牲を無駄にするよりは……騙されたフリをして、危険分子であるクリスの行動を注視しようと決めた。
そうして、何もかもを失っていくレオを、私達は遠くから見守ったのだ。心から血が滲むような想いで。
正直に言うとちょっとだけ、事情はどうあれ他の女性とデートに連れ出したレオを、『ざまあみなさい』と笑ってやりたい気持ちも、私にはあったけれど。
職を失ったレオが各地を流浪している間も、委員会のメンバーで手分けして、彼の足取りを追った。
ある時はアラン君が乞食に化け
ある時はグランヴィル伯爵が繁華街の商人に化け
ある時はジェニーが屋台の料理人に化け――
そうして辿り着いたサロイド村で、レオは腰を据えて暮らす事になって。
王都から遠く離れたこの地ならば、クリスに勘付かれる心配もないだろうと、私達がレオに接触をはかろうとしていた時――驚くべき事が起こった。
クリスが本来の女性としての姿で、レオの前に現れたのだ。
更に、再会の日以降二人はまるで夫婦のように一緒に暮らし始めたという。
野菜売りのフリをしてサロイド村に定期的に偵察に行っていたジェニーから、そう報告を受けた時は、愕然とした。
「ったく……何やってんだよあのバカは……」
「どういう事だい? ハドソン君はレノックス君を恨んでいて……それで彼を陥れたんじゃ?!」
「わかんないですけど、あたしにはとてもそんな風には見えなかったです。少なくともクリスの方は……完全にレオにメロメロっちゃってる感じで」
恵みの日――2人の新生活について語るジェニーに、私や伯爵、アラン君は、ただただ目を丸くする事しか出来なくて――。
ざまあみろだなんて、薄情な感情を抱いた天罰が下ったのだろうか。
私は大きな勘違いをしていた。
思えば、本当にクリスがレオを憎んでいるなら、妹を死なせた償いにと、極刑を要求すればよかったのに。
彼女はそうしなかった。
クリスはレオから全てを奪いたかったのではない。私からレオを奪いたかったのだ。
それ程にクリスは私を憎んでいる。
そしてそれ以上に、レオを愛している――。
全身が震えた。
勿論、恐怖からではない。
物心ついた頃からずっと独占してきた宝物を、理不尽に奪われた怒りから――。
「あの女の、無駄に腫れた胸を切り裂いて……中の脂肪を全部えぐり出してやる……」
私の暗黒面全開の呟きに、固まる3人。
無理もない。
レオが日頃から言ってくれていたような、聡明で慈悲深い女王のものとは、おおよそ思えない雑言。その自覚はあった。
でも、それでも――幸せそうなクリスの顔を思い浮かべると、毒を吐かずにはいられなかった。
「へ、陛下! 大丈夫っすよ! あいつに限って、浮気なんてありえませんから!」
「そうよ! 夫婦のフリしてるのは、きっと何か理由があるに決まってます!」
「しかし、想定外の事態ですね……これでは、レノックス君に近付けない。いかが致しましょう陛下。お辛いとは思いますが……御命令を」
3人はそれぞれに、気遣いの言葉を掛けてくれたけれど。
私は自分の心を落ち着ける事が、全く出来なくて――
「この状況……もしレオなら……
ローラ様! 乳房の中にあるのは脂肪だけではありません! 母乳を作る乳腺と呼ばれるものが詰まっていると、医学書に書いてありました! この乳腺は妊娠出産によって発達する事が多いとの事……すなわち、私と愛を交わす事が、育乳への近道なのです!
……とか言いそうよね……」
「そ……そうっすね。リアルに言いそうっすね……」
「陛下、お気を確かに……っ」
突然、レオの真似をし始めた主君に、明らかに困惑している様子の男性陣。
そんな彼らに構う事なく、私の瞳からは大粒の涙が次々と零れ落ちた。
「レオに……会いたい……」
「女王様……っ」
そっと肩に添えてくれた、ジェニーの手の温かさだけが……柱を失った心の、唯一の慰めだった。
本当はすぐにレオを救ってあげたかったけれど……グランヴィル伯爵に、騙されたフリをしてクリスの狙いを探ろうと止められて。
レオにも、本当は私達はレオの潔白をわかっていると伝えたかったけれど……レオは嘘が付けないから、真実を伝えるべきじゃないと、アラン君に止められて。
ここでクリスを断罪し、レオの犠牲を無駄にするよりは……騙されたフリをして、危険分子であるクリスの行動を注視しようと決めた。
そうして、何もかもを失っていくレオを、私達は遠くから見守ったのだ。心から血が滲むような想いで。
正直に言うとちょっとだけ、事情はどうあれ他の女性とデートに連れ出したレオを、『ざまあみなさい』と笑ってやりたい気持ちも、私にはあったけれど。
職を失ったレオが各地を流浪している間も、委員会のメンバーで手分けして、彼の足取りを追った。
ある時はアラン君が乞食に化け
ある時はグランヴィル伯爵が繁華街の商人に化け
ある時はジェニーが屋台の料理人に化け――
そうして辿り着いたサロイド村で、レオは腰を据えて暮らす事になって。
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クリスが本来の女性としての姿で、レオの前に現れたのだ。
更に、再会の日以降二人はまるで夫婦のように一緒に暮らし始めたという。
野菜売りのフリをしてサロイド村に定期的に偵察に行っていたジェニーから、そう報告を受けた時は、愕然とした。
「ったく……何やってんだよあのバカは……」
「どういう事だい? ハドソン君はレノックス君を恨んでいて……それで彼を陥れたんじゃ?!」
「わかんないですけど、あたしにはとてもそんな風には見えなかったです。少なくともクリスの方は……完全にレオにメロメロっちゃってる感じで」
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ざまあみろだなんて、薄情な感情を抱いた天罰が下ったのだろうか。
私は大きな勘違いをしていた。
思えば、本当にクリスがレオを憎んでいるなら、妹を死なせた償いにと、極刑を要求すればよかったのに。
彼女はそうしなかった。
クリスはレオから全てを奪いたかったのではない。私からレオを奪いたかったのだ。
それ程にクリスは私を憎んでいる。
そしてそれ以上に、レオを愛している――。
全身が震えた。
勿論、恐怖からではない。
物心ついた頃からずっと独占してきた宝物を、理不尽に奪われた怒りから――。
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無理もない。
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でも、それでも――幸せそうなクリスの顔を思い浮かべると、毒を吐かずにはいられなかった。
「へ、陛下! 大丈夫っすよ! あいつに限って、浮気なんてありえませんから!」
「そうよ! 夫婦のフリしてるのは、きっと何か理由があるに決まってます!」
「しかし、想定外の事態ですね……これでは、レノックス君に近付けない。いかが致しましょう陛下。お辛いとは思いますが……御命令を」
3人はそれぞれに、気遣いの言葉を掛けてくれたけれど。
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「この状況……もしレオなら……
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……とか言いそうよね……」
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「陛下、お気を確かに……っ」
突然、レオの真似をし始めた主君に、明らかに困惑している様子の男性陣。
そんな彼らに構う事なく、私の瞳からは大粒の涙が次々と零れ落ちた。
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