女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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誰よりも自分を理解しているのは親友だと断言できるあなたは今が青春時代

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 「あの、陛下……! すいませんでした、役に立てなくて」

 恵みの日、委員会の3人は時間をずらし、隠し通路を通って帰る事になっていた。

 けれど、私が自らの暗黒面を露呈してしまったあの日……最後まで残っていたアラン君は、突然頭を下げて――。

 「どうして謝るの? あなたは十分力を発揮してくれています。ジェニーがサロイドに行く時、天気を読んでくれているでしょう? 田舎まで行く小さな船には、航海士が乗っていないから危険で……かといって丸1日以上かかる陸路を使ったのでは、彼女の仕事に支障がでるし。あなたが空と波のご機嫌を予測してくれるお陰で、安心して船旅に出れると……彼女、いつも言っているじゃない」

 「でも……クリスの事……。もっと早く、女だって気付いてれば……レオだって……。クラスメイトの性別も見抜けないなんて、情けないっつーか……」

 そう言いながら、視線を床に落とすアラン君。

 「俺、昔からそうなんです。口うるさいくせに、だからってしっかりしてるわけじゃなくて。どこか、抜けてて。天気の事以外、何やらせても人並以上にこなせなくて。
 英才教育してきやがったくせに、俺が気象研究科になる前に勝手に死んだ親父への反抗心から、天気とは全く関係無い騎士団に入ったんすけど……訓練学校時代も今も、騎士団の中ではどんじりの成績を万年キープしてるんす。同期にはいつも馬鹿にされっぱなしで……
 でも……レオだけは絶対に俺を笑わなかったんす」

 予期せぬタイミングで出てきた、彼の名前。

 今、私の心と頭をいっぱいにしている人に話が及び、少し驚いてしまった。

 「あいつ、口では俺を落ちこぼれだとか言うんすけど……他の騎士達みたいに、笑った事は一度もなくて。
 訓練生時代、俺しょっちゅうクラスメイトに不出来をいじられて、からかわれてたんすけど……あいつだけは真顔で、“アラン明日の天気を教えてくれ”って……俺を頼って来るんですよ。それだけじゃない、家族や陛下の事、自分の事を、ペラペラ話してきて……
 そのお陰で俺は、首席のレオナルド・レノックスが一目置いてる奴。っつー風に認識されて、クラスの連中も手を出して来なくなった。だから俺、聞いてみたんす。お前、なんで俺なんかとつるむの? って」

 「そしたら……彼は何て?」

 「自分でもわからないって言ってました。
 女王陛下に忠義を尽くす、志の高い友人が欲しかったのに、どうしてお前みたいな落ちこぼれを選んだのか、不思議だ。……って」

 「……らしいわね」

 アラン君には申し訳ないけれど、少し、笑ってしまった。

 本人を前にして、そんな失礼極まりない事を言ってしまう彼の姿は、容易く想像でき過ぎて。

 「でも、お前といると楽しい。安心する。何でも話せる。そんな友人は初めて出来た。だから大切にしたい。もし、理不尽にお前を虐げようとする奴がいたら、いつでも力になる。命懸けで撃退する。……そんな事、恥ずかしげも無く言うんですよ。俺の目、じーっと見て――」

 「……想像できるわ」

 私の知っているレオだ。
 どこまでも正直で、真っ直ぐで。

 聞いている方が照れてしまうようなセリフだって、簡単に口にしてしまう。
 それが、相手を救っている事なんて、気付きもせずに……。

 「陛下……」

 再び目をうるませてしまう私を、気遣ってくれるアラン君。

 「陛下、迎えに行きましょう、レオを。もしあいつが事の真相を知らなかったら……まだ苦しんでるかもしれない」

 「レオは……クリスとクリスティーナが同一人物だとは気付いていないかもしれないけれど、少なくともクリスティーナが生きてた事はわかって、自分が冤罪だったとは理解している筈よ。にも関わらず、王都に戻って来ないという事は、もしかしてクリスを本気で……」

 「あいつの事ですから、クリスの立場を守る為に、告発出来ないでいるかもしれません」

 「そうね……そういうお人好しな所もレオらしいけれど……やっぱり怖いの。もしレオが、私以外の女性を選んだのだとしたら、平静でいられるかどうか……。
 ねえアラン君、同じ男性としてどう思う? あれ程美人で、その……好みのスタイルの女性と一つ屋根の下に住んでいても……男性は過ちを犯さないものかしら?」

 女性が口にするには、あまりにも品の無い会話。
 それはわかっているけれど……不思議と、アラン君ならば、軽蔑したりはしないと思えた。

 レオが彼を唯一無二の親友に選んだ気持ちが、私にも何となくわかっていたから。

 「うーん……正直な所、たとえば俺がレオの立場だったら……3日もたないっす」

 「……やっぱり……」

 「で、でも! 陛下は今まで、あいつに強引に迫られた事はありますか?」

  がっかりとため息をつく私に、アラン君は慌てて言葉を加えた。

 「いいえ。卑猥な言葉を掛けられるのはしょっちゅうだったけれど……乱暴されたりは全く」

 「だったら、それがレオを信じていい、何よりの根拠ですよ! あいつは変態的に大好きなあなたの傍にいながら、10年以上我慢してきた! 不意打ちでチューしたり、押し倒したりする事も、出来ただろうに、しなかった!」

 「それは……さすがのレオも、一国の女王を襲うわけにはいかないと思ったのではないかしら?」

 「あいつは、相手の地位や立場によって、態度を使い分けるような男じゃないでしょう? 心底惚れているからこそ、あなたの同意なしに恋人関係を迫る事はしたくなかったんだと思います! いつか、自分があなたにふさわしい男になって、きちんと気持ちを伝えてからって……我慢してたんすよ!」

 アラン君の熱弁が、じんわりと心に広がって行く。

 「陛下、あいつは成績は良いくせにバカでアホで、デリカシーなくて、空気読まなくて、マジで困った奴ですけど……大切な人を裏切ったり、傷つけたりする人間じゃないっす。クリスとの事だって、何かワケがあるに決まってる。だから……あいつを信じて、待っていてやってください」

 「……ありがとう。レオは、あなたのように素晴らしいお友達を持てて、幸せ者ね」

 素直に思った事を口にすると、アラン君は『俺もそう思います』と言って、少し照れくさそうに笑った。

 「そうよね。いつだって、レオが私を信じてくれたように……私も信じてあげなければね。たとえクリスがボンキュボンでも」

 「え!? 女クリス、ボンキュボンなんすか!?」

 「……だったら、やらかしてしまっているかも。と、思った?」

 図星を突かれたらしい彼は、わかりやすくたじろぎ、目をそらした。

 「で、でも、もし万が一、あいつが一線超えちゃってたとしても、子供さえ……妊娠さえさせてなければセーフっすよ! また元サヤに戻れます!」

 「アラン君とレオの共通点を見つけました。……フォローが破滅的に下手クソ」

 返す言葉を失って、パクパクと口の開閉を繰り返すアラン君を見ていたら……

 重苦しく淀んでいた私の気持ちは、少しだけ軽くなっていた。

 
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