女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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魂っていうと何か本気っぽいけどソウルっていうと一気にチャラい

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 レオとクリスの再会を知らされてから、約2か月。

 私はほぼ毎日、悪夢にうなされた。

 レオが私に背を向けて去って行く夢。

 レオがクリスと結婚式を挙げる夢。

 レオによく似た男の子が
 『パパはママのどこが好きなの~?』と尋ね
 『たくさんあるけれど、1番は大きなお胸かな~』とレオが答え……
 クリスと、彼女によく似た女の子が
 『そういう事、子供に言わないでちょうだい』
 と笑う……そんな夢。


 私、自分がこんなにも妄想力豊かだとは思っていなかった。


 心地の良い温度の湯舟に体を沈めながら、ぼんやりと考える。

 レオがいなくなってから迎える恵みの日は、今日で3度目だ。

 私は今まで以上に、公務に没頭してきた。予定に追われ、仕事に打ち込んでいる間は、気が紛れたから。
 
 でも、恵みの日が近づくと……たちまち動悸が始まって――。
 全てを知っている仲間と会う事は、心が休まるような、自分が向き合うべき現実を突きつけられているような、複雑な想いだった。

 比較的温暖な王都でも、時折雪がちらつくこの時期。湯あみを終えた体から、急速に体温を奪っていく。
 急いで身なりを整えなくては。

 きっともう、3人は奥の恵みの間で待ってくれている。
 レオを想い、情緒不安定になっている私の分まで、尽力してくれている、頼もしい仲間達。

 委員会ではレオの事ばかりを話していたわけではない。
 国内外の情勢を報告しあい、災厄を予期し、防災に努める。私も彼らも、本来の役目を果たすべく励んでいた。

 アラン君が北の大地に例年以上の大雪が降ると教えてくれたから、家屋の屋根を強化する為の工事を、行う事が出来た。
 グランヴィル伯爵が安価良質な資材と職人を手配してくれたお陰で、それらのコストは私が設置した降雪被害対策の追加予算内に収まった。
 外出困難になる地元の人達に、ジェニーが考案してくれた保存食は、どれもとても美味しいと評判だった。

 『陛下は以前よりも多く、神の啓示を受けられるようになりましたね』
 『日頃から清廉であらせられる陛下への、神からの賜物でしょうな』

 そんな風に、家臣達から頻繁に声を掛けられるようにもなって。

 その言葉を、早く3人に伝えたい。本当に賛辞を受けるべきなのは、彼らだから。
 

「「「おはようございます、女王陛下!」」」


 遅ればせながら恵みの間に現れた私を、笑顔で迎え入れてくれる仲間達。

 アラン君も、伯爵も、ジェニーも、きちんと前に進んでいる。
 レオの事を忘れたわけではないだろうけれど……私と違って、心を乱す事なく、自分達の役目を真摯に果たしている。

 レオも、前に進んだのだ。

 クリスの罪を許し、彼女と生きる、新しい道を――。

 ならば私も、立ち止まってはいられない。

 「……3人とも、ありがとう。私も皆を見習って、女王として今まで以上に励みます。今この場にいない人の事は、忘れて――」

 「……陛下……」


 彼らの為、民の為に、あるべき姿に戻ろう。


 「で、雪の量がいつもより多いって事は、それが解けて増える川の水量も多いって事で」
 「そうしたら川下の土地にも被害がでるかもよね。あそこいらの人達はよく川魚を獲って食べるから、注意を呼び掛けた方がいいかも」


 長い年月を共に過ごした彼の事を忘れるなんて、そう簡単には出来ないだろうけれど。


 「でも、漁で生計を立てている彼らに、川に出るなというのは酷ではない? 何とか、経済面でも支援できる策があれば良いのだけれど」
 「海外では、彫刻士たちに雪像を作らせて観光客を呼び込んでいる町もあります。漁や農作物の収入が減る分、そういった手段で補填するのも良いかもしれませんね」


 きっと大丈夫。時間が癒してくれない傷なんて、無いだろうから。


 「へ~! それ素敵じゃん! 雪像ってどんな感じなの? 見たい見たい!」


 たとえもう一生、あの人に会えなかったとしても――


 「ちょっと待っていてね、ジェニー。確かこっちの本棚に、外国の祭事をまとめた資料が……」


 バサリ。


 身を切られるような想いで、そんな覚悟を固めていた時……落ちた。

 目的の資料の隣に並んでいた1冊の本が、床へと。

 
 「あ……」

 「あ、陛下、俺が拾いますよ。ん? なんの本だこれ? “月刊さよならコンプレックス⑧バスト特集! その貧乳、盛れます育ちます!” ……?」



 きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!

 それはレオが勝手に私の机に置いて、その後私がここに隠しておいた秘密の本んんんんんんんんーーーー!!!


 アラン君がその本のタイトルを読み上げた瞬間。

 私は自分の魂があげた悲鳴を、確かに聞いた。
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