女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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恋人の前で異性を褒めるのはジェラシー誘発が目的の事が大半

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 ローラ様とクリスティーナの壮絶な戦いの終盤で、俺は再び意識を失ってしまった。

 「レオ、レオ! しっかりして……!」

 「陛下……」

 次に目覚めた時、目の前には涙目のローラ様がいらして。窓の外はもう暗くなっていた。
 といっても、昨夜から降っている大雨のせいで、朝から曇天ではあったけれど。

 「泣いて、いらっしゃるのですか……」

 「だって、ようやくあなたに会えたと思ったら……こんな、瀕死の状態で!」

 次々とあふれる涙を拭う事もせず、ローラ様は俺の手を両手で強く握った。

 「ここで住民と同じ暮らしを送っていれば……俺も……彼らと同じように体調を崩すかもと……それで……」

 「自分を実験台にして、調査をしていたのでしょう? ジェニーを連絡係にして、アラン君や、伯爵の協力も得ながら……」

 ああそうか。この村にいらしたという事は、陛下は全てご存知なのだ。
 全てが終わるまで、陛下には秘密にしてほしいと……あの3人には言っておいたけれど。
 
 「はい。仕事や食生活や、毎日の暮らし……住民の模倣をしたら、こうして見事に倒れてしまいました」

 「……クリスに、ハドソン一族の全医師をここへ向かわせるよう命じたわ。すぐに住民達の診察と検査が始まる。これまであなたが集めてくれた情報を元に、本格的な調査が出来るのよ。大丈夫、きっと助かるわ。あなたも、村の皆さんも」

 「……陛下、どうかクリスティーナに寛大な処置を」

 俺が彼女の名を口にした途端、陛下の陶器のように滑らかな眉間に、皺が寄った。

 「まず言う事がそれなの? 相手はあなたを陥れて、全てを奪った女なのに? そもそもクリスティーナがクリスだと気付いた時点で、なぜ――」

 「狂言失踪を企て、レノックス家を没落させたなんて公になったら、彼女も彼女の家も終わりです。慈悲深い陛下ならば、そんな事は望まれないかと」 

 「……ではつまり、あなたがクリスを告発せず、夫婦ごっこをしていたのは私の為だと?」

 強張っていたローラ様の表情が、心なしか柔らかになった。
 しかし……

 「ええ。それに、彼女が俺を本当に愛してくれているのは感じましたし。自分を想ってくれる人は大切にしなくてはと……」

 俺がそう言うと、外の空と同じように、再び曇り模様になる美顔。

 「……そう。そうよね、あなたはそういう人よね」
 
 なぜだろうと不思議に思いながらも、俺はクリスティーナの擁護を続けた。

 「陛下、クリスティーナは決して悪人ではありません。子供達の面倒もよくみてくれて、村の皆から愛されています。夜中に彼女が付け毛を外して、クリスになっているのを見た時は驚きましたが……。王都での性悪騎士と同一人物とは思えない程、朗らかで、飾らず、心根の優しい女性なのです。恐らく、それがクリスティーナの本質ではないかと。それに、クリスティーナは優秀な医師でもあります。今までは性別を偽っていましたが、今後は史上初の女性侍医として活躍してくれるでしょう。あの美貌とボンキュボンのパーフェクトスタイルを持つ彼女ならば、多くの人の注目を浴びるに違いありません。そうしたら、陛下が目指していらっしゃる女性の社会進出の」

 「やめて」

 「は……?」

 まだ話の途中だったのに。

 ローラ様はピシャリと俺の話を遮ると、俺の胸元に顔をうずめた。

 「クリスティーナを責めなかったのも、恋人のフリをして一緒に過ごしていたのも、全部全部私の為だった……。そういう事にしておいてちょうだい。じゃなきゃ……今よりもっとずっと、おかしくなりそう」

 涙の後の、少し鼻がかった声。

 なぜ陛下がそんな事をおっしゃるのか……その真意はいまいちわからなかったけれど。

 摘みたての花のような甘い香りも、ブランケット越しに伝わってくる温もりも、本当に久しぶりだったから――愛おしさで、胸がいっぱいになってしまって。

 「……はい」

 とりあえずそう答えてから……仰向けに寝たまま、力の入らない手でローラ様の頭を撫でた。

 「ローラ様……またお会い出来て……本当に嬉しいです」

 「私もよ……」

 俺の心臓の鼓動を確かめるように、ピタリとくっついてくる、ローラ様。
 
 数か月ぶりの俺を、噛みしめて下さっているのだ。

 会いたかった。寂しかった。不安だった。心配だった。 
 そんな陛下の想いが、心から心へ、流れ込むように伝わって来て……

 「申し訳ありません。あなたに、辛い想いをさせて……」

 本当はもっと強く固く、目の前の愛おしいお方を抱きしめたいけれど。
 今の俺には、叶わない。

 俺は馬鹿だった。

 この村に来てからも、ローラ様を忘れた事など無かったものの。
 少しだけ……ほんの少しだけ、クリスティーナにぐらりと来てしまったのは事実。

 未知の世界への招待状かのような、濃厚なキスをされた時。
 空の雲に包まれたらこんな感じかなという程の、ふわふわ豊乳に顔をうずめた時。

 あやうく、俺の将軍が立ち上がり、暴れ出してしまう所だったのだ。

 そんな事、陛下には絶対に言えないけれど。

 「いいのよ、あなただって相当辛い想いをしたでしょう? そうとも知らずに私は……クリスティーナとの仲を疑って、あなたを忘れようとしていた。本当にごめんなさい。二人の間には、やましい事は何もなかったのに……そうよね?」

 「え」

 ……言えない、けれども。

 尋ねられたら、嘘はつけない。 

 「へ、陛下、実は……」

 

 その後――
 愛する人に乱打され、再び薄れゆく意識の向こう側で……

 死んだ筈の父が、『ローラ様を鍛えたのは間違いだったな』と、笑うのが見えた気がした。
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