女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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素の自分に戻れる場所は自宅と親友の隣

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 「おい、砂浜歩くのはまだ早いんじゃじぇねえか。んな、おぼつかない足取りで」

 「歩きにくい場所の方が、トレーニングになるだろう?」

 1か月も寝たきりの生活を送っていたせいで、すっかり筋肉が落ちてしまった。
 そんな体に鞭を打つように海辺を歩く俺に、少々慌てた様子で駆け寄ってくるアラン。 

 「皆のお陰で村人が次々に回復しているのに、俺ばかりいつまでも療養していたら示しがつかないしな」

 「そりゃ仕方ね~よ。あの陛下にフルボッコにされたら……。ほんと、女の嫉妬は“海藻病”よりこえ~な」

 「そうだな。しかし……まさか海藻が原因だったとは」

 呟きながら、浜辺に打ち上げられた海藻を眺める。


 俺は村で暮らし初めてからというもの、日々の天候や海の様子、全村民の食生活や生活習慣を徹底的に調査し、記録してきた。

 それを元に、クイーンズ・ソルジャーのメンバーであるアラン、ジェニー、グランヴィル伯爵が、クリスティーナやハドソン一族の医師達と共に、日々議論と検証を重ねた結果――。

 多くの村人が毎日食している海藻に、体調不良の原因があるという疑いが、濃厚になったのだ。

 初めに気付いたのは、意外にもアランで。

 医師団のリーダーとして人々の診察にあたる事になったクリスティーナに代わり、村の子供達の面倒を見ていた奴は、ふと、思ったのだそうだ。

 『ベンみたいな子供は皆、海藻が好きだな』と――。

 アランがそう零した事がきっかけで、ジェニーが動き出した。

 子供が好きなら親も好き。な筈と考えた彼女が、母親達に日々の献立を確認した所――案の定、彼女らはほぼ毎日海藻類を食していたのだ。
 妊娠している間も、ずっと――。

 そして、季節ごとに体調を崩す漁師の大半が、そんな家庭の亭主だった。
 かくいう俺も、サロイドに来てからは、ほぼ毎日ワカメや昆布を食べていたし。

 反対に、海藻をたまにしか食べない村民にはその子供を含め、病歴や目立った異常は見つからなくて。

 ジェニーが村人に聴取を行い、アランが過去の気象記録から海の状況と漁の取れ高を予測し、グランヴィル伯爵が各月ごとに海藻の国内流通状況を調査した所……例年病人が多発する時期は、海藻類の収穫最盛期に一致しているという事もわかった。

 そこにクリスティーナをはじめとする医師達が介入し、体調を崩した人々に海藻類を摂取しないよう勧告して、経過観察を行った所――皆驚く程に回復をしたのだ。

 その結果をもって、我々は確信した。
 海藻類の過剰摂取は、人体および、胎内の赤ん坊に悪影響をもたらすのだと。

 「でもよ、ベンみたいなガキンチョ達は海藻食べるのやめた所で、その……年相応な感じにはならなかったわけだろ? 母親達は、自分らが妊娠中に海藻食いまくったせいでって、泣いてて……。あれ見てたら、俺ら余計な事しちまったのかなとも思うわ」
 
 健常な成長を経て、大人になった後に体調不良を訴えた人々は、全員が海藻摂取の制限で回復した。
 だが、ベンのように幼い頃から発達が思わしくなかった子供達を治療する方法は……残念ながら未だ見つかっていない。

 ローラ様はその事に、大層お心を痛めていらした。
 けれど、嘆き悲しむだけで終わらないのが、我らの聡明な女王陛下だ。

 「だが今回、ベン達の存在にスポットライトが当てられた事で、彼らにあった教育や支援が出来る施設を作ろうという動きが出てきたんだ。陛下も今王都で、懸命に働きかけて下さっている。これはベン達にとっても、彼らの家族にとっても、とても良い事じゃないか」

 「ああ……だな。次の恵みの日……ソルジャーの集まりの時、施設の今後について改めて話し合いたいから、住民たちにヒアリングをしておいてくれって、陛下も言ってたし」

 『恵みの日』

 数か月もの間、疎遠になっていたワード。

 けれど、ずっと引っかかっていた。
 あの、不思議な部屋の事は。

 「アラン、恵みの間の事なんだが……俺にはどうしても、あの部屋が神の啓示を受ける為に造られたとは思えな――」

 「驚けレオ。俺もお前と同じ事を考えてた」

 ビシリ、と、俺に人差し指を向けるアラン。
 その顔には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。

 「本当か? 驚いたな! 万年落ちこぼれ脳みそロールパンサイズのお前が、エリート人生まっしぐらのこの俺と同じ――」

 心底意外そうに目を見開く俺の肩を、竹馬の友はいささか乱暴にどついてきた。

 「はぁ? 不祥事で左遷されて、女に騙されて浮浪者になって、衰えた足腰で浜辺をヨチヨチ歩いてるお前のどこが、エリート人生まっしぐらなわけ? 今のお前はただの没落貴族の雑魚病人だから! 海藻病の発見に貢献した俺をバカに出来る立場じゃねぇの! それこそ、一介の騎士が女王に恋焦がれるのと同じ位、身分違いも甚だしいぞ!」

 「すごい! そこまで俺に言い返せるなんて、成長したなアラン!」

 「お前は呆れる程相変わらずで、嬉しいよ」

 俺達は互いの顔を見て、笑い合った。

 ローラ様と再会出来た時とはまた違う、気の抜けた安心感に浸りながら――。 
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