女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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春のワクワクは年齢と共に減少して行くとは限らない

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 今年も春がやってきた。
 ローラ様の、大好きな季節。

 温かな風。咲き乱れる花々。
 行き交う人々の足取りも、どこか弾んでいるように見える。

 アランの予報通り、本日は晴天。
 誉れある、『紅薔薇の勲章』の授章式にふさわしい快晴だ。


 「クリスティーナ・ハドソン侯爵」
 「はい」

 「パーシー・グランヴィル伯爵」
 「は……!」

 「アラン・カーティス」
 「はい!」

 「ジェニー・ローラン」
 「はい!」

 「レオナルド・レノックス」
 「はっ!」

 女王陛下から順に名前を呼ばれ、俺達5人は跪いたまま、顔を上げた。

 「あなた方はこの度、サロイド村の人々の健康と健全な暮らしを守るべく、多大な貢献をしました。それを賞し、ここに紅薔薇の勲章を授けます」

 今回の一件以降、一層の気品と威厳を備えられたローラ様が、俺達の胸元に紅薔薇をかたどった勲章を飾る。
 その度に、授章式会場に集まったゲスト達から大きな拍手が起きて。

 特に、俺とクリスティーナが勲章を受け取った時の拍手は一際大きかった。

 俺が護衛騎士を辞した事も、クリスティーナが性別を偽った事も、くだんの狂言失踪によるハドソン家とレノックス家のゴタゴタも……全ては女王の命令であり、国と民の為に暗躍する為のものだったと……陛下が公表して下さったから。

 つまり俺達2人は全国民から、祖国の為に我が身を犠牲にして忠義を尽くした英雄のように思われているのだ。

 人々を騙す形になってしまった事は心苦しいけれど……俺とサロイドの人々を救ってくれたクリスティーナが恩赦を与えられた事は、素直に嬉しくて。


 長い拍手が鳴りやんだのを見計らって、陛下は再び口を開いた。

 「そしてもう一つ……この場を借りて、皆さんにお話ししなければならない事があります」

 神妙な面持ちの女王陛下を前に、しんと静まりかえる会場。

 ついに、あの事をお話しされるのかと……息を呑んで、愛おしい人を見守る。

 「歴代女王はただの一人として、神の啓示など受けてはいません。勿論、私を含め――」






 「いやあ~荒れたねえ! 予想はしてたけど……ドヨドヨ! ザワザワ! って擬音語、ああいう場の為にあるんだなって思ったわ!」

 慣れない正装で疲れた様子のジェニーがどかりと腰かけたのは、受領者控室のソファ。

 「まあ、皆が驚くのも無理はないよ。シルクバニア王国は神の啓示と、それを授かる女王によって守られている。それがこの国の常識だったわけだから」

 そう言いながら、グラスに水をいれ、ジェニーに差し出すグランヴィル伯爵。

 それを見たアランが『こーゆーことサラリと出来るから、ソレリ様程の方をゲットできたんだろうな』と、俺にしか聞こえない声で呟く。

 「しかし……レノックス君とアラン君が、紅薔薇の秘密に気付いてくれて良かった。私やハドソン侯爵のような紅薔薇の後継者は、当代の女王から紅薔薇の勲章を受けるまで、秘密を口外してはいけない掟だから」

 「初めて恵みの間に入った時からずっと疑問に思っていたんです。あの膨大な量の本と、複数の椅子は、何の為にあるのだろうと。あそこは神を待つ神聖な場所というより、人が集まって何かを話し合う、会議室のような雰囲気でしたから」

 「俺はここ数ヶ月、サロイド近辺の過去の気象記録を調べる為に、あそこに頻繁に出入りさせて貰って、気付いたんすよ。もしかしたら今までも誰かが俺みてーに、ここで調べ物してたのかも? って。専門書だの歴史書だのも、国の先行きを話し合う為に必要な資料だって考えれば納得だし」

 「でも何だか拍子抜けよね。歴代の女王様は神様の声を聞いてたわけじゃなく、あの部屋に各分野の専門家を集めて、災いを予想して、被害を防いでたなんて。やってる事、あたしらと一緒じゃん!」


 そう。

 それこそが、俺が探し求めていた『紅薔薇の秘密』だった。

 あの隠し通路も、非常時の脱出用ではなく、専門家達が人目を忍んであの部屋に集まる為に造られたもの。

 紅薔薇の勲章は、国家を守るべく暗躍する者に与えられる、肩書。
 あのルビーはいわば、恵みの間に立ち入る事を許された、クイーンズ・ソルジャーの証のようなものだったのだ。

 「私の商いの師匠は、先代女王陛下お抱えの商業評論家でね。幸か不幸か、死ぬ前に私を後継者に指名して、全てを話して下さっていたんだ。受領者は後継者にのみ秘密を伝える事を許されているからね。証であるルビーも、死後に私の手に渡るよう、手配してくれていたし」

 『師匠』さんとやらを想っているのだろうか。グランヴィル伯爵は大切な思い出を懐かしむように、目を細めた。

 「俺の父もそうしてくれていれば……こんなに遠回りする事はなかったのですが」

 苦笑いを添えてそう言った俺に、伯爵は優し気な笑みを返してくれて。

 「そうするには、きっと君は若すぎたのだよ。紅薔薇の秘密は、国の秩序と女王の権威を揺るがしかねない、重要機密だから。慎重になるのも無理は無い。きっと君や、ジェニーやアラン君の御父上方も……君らの成長を待って、誰よりも愛し信頼する我が子を後継者にしようとしていた筈だ。けれど、その前に……あの事故が起きてしまって……」

 「……ママ……」

 「ちっ……。あのクソ親父……最後まで俺をガキ扱いしやがって……」

 涙ぐむジェニーと、鼻をすすって悪態をつくアラン。

 この雰囲気の中で、俺もまた、亡き父に想いを馳せて感傷に浸りたいところだが……。

 「伯爵、教えて頂けますか? 先代の紅薔薇受領者達が亡くなったのは……俺の父のせい……なのですよね?」

 俺の脳裏には、かつてそう言って俺と父を責めた、クリスティーナの顔が浮かんでいた。
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