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謝意は伝えたいけど謝るのはちょっと違うんだよな〜という場面はまぁまぁある
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「パーティー、出ないのか?」
パーティー会場の喧騒から離れ、バルコニーで佇むクリスティーナにそう声を掛けると、彼女はゆっくりと振り返った。
「うっとおしいのよ。ひっきりなしに声を掛けられるのが」
それは無理もない話ではなかろうか。
国家の英雄、男装の麗人、美貌の侯爵……彼女を彩る形容詞の数々は、老若男女全ての人間を魅了してやまない。
まるで今日の空のように爽やかなライトブルーのドレス。
フルアップにまとめ上げられた、太陽のように輝く金髪。
咲き誇るどんな花さえ引き立て役にしてしまう程に、華やかな顔立ち。
「皆、夢中なんだろう。君を目の前にしたら、誰だってそうなる」
「どこぞの元・護衛騎士様は落とせなかったけど?」
そう言って、いたずらっぽく口の端を上げるクリスティーナ。
「いや……実は落ちかかってしまっていた。サロイドで陛下にボコボコにされたのはそれが原因だよ」
「そうだったの? ふふ、惜しかったわね。もう少し女王達が来るのが遅かったら、私の初恋は叶っていたかもしれないのに。……ま、私の人生いつもそんなんだけど。手に入れようと一生懸命頑張って、あと少しってとこまでは行くんだけど……結局は他の誰かに奪われる。父の時も……そうだった」
笑みを浮かべていた彼女の顔に、悲しみが差し込む。
「俺の父は……君の御父上や、他の紅薔薇受領者を集めて、話し合おうとしていたんだな。啓示の秘密を聞く事無く母上を亡くされた、ローラ様の為に……」
目を伏せたまま頷く、クリスティーナ。
「受領者が秘密を話していいのは、後継者と、勲章を授与した当代女王だけ。だから、当時女王になったばかりのローラ王女に真相を話す権限は、誰にも無かった」
「だがこのままでは、ローラ様は授かる筈の無い神の啓示を待ち続け、不安の中生きていくことになる。そうならないよう、特例的に掟をやぶり、ローラ様に真実を伝えるべきだと……?」
「ええ。その是非を話し合う為に、レノックス伯爵が皆を呼んだの。そして、父もそれに賛同すべく……会合に出掛けて行った。それで……」
話の途中から、彼女の宝石のような瞳に、徐々に涙が溜まり始めた。
「あの頃……私は飛び級を繰り返して医師の資格を取った所だったの。たった15歳でよ? 死ぬ程大変だったけど、それで父が喜んでくれるならって……。なのに父は、有事の際に王女を守れるよう、次は騎士の訓練学校に入れって言い出した。私、もう我慢出来なくなって……私は王女の為に生きてるんじゃないって、初めて反抗したの。その次の日に……パパは……っ」
小さな顔を両手で覆う彼女の背に、そっと手を添える。
「謝らなくても、構わないか? 君の御父上も、俺の父も、他の受領者達も……国と王族に忠義を尽くし、勇気ある誇り高い行動の末に、亡くなった。それを俺が詫びてしまったら……彼らの尊厳を傷つけてしまう気がする」
「あなたに謝ってほしいなんて、ハナから思ってないわ。私はただ、愛されたかっただけ。パパと……あなたに……。私の愛する人達を独占するローラ様が、憎かっただけなの」
震える声でそう言うクリスティーナの背中は、守ってやらねばという庇護欲を掻き立てる程、小さく、頼りなく……そして、美しかった。
背後がざっくりと開いたデザインのドレスから覗く、真っ白な背中。
陶器のように艶やかで、ゆで卵のように柔らかで。
そういえば。サロイドにいた時はこんな露出の高いドレスを着る事は無かったから……こうして直に肌に触れる事はなかった。
良かった。あの状況で、この生肌の感触を味わっていたら、理性を保てていた自身が無い。
あったかいなあ……やわらかいなあ……。
ああ、このうなじから僧帽筋にかけてのライン……出るトコは出てるのに、こういう場所には全く無駄肉が無くて……この肩甲骨の溝に頬をうずめて、胸との感触の違いを確かめた――
「今、ムラムラしてるでしょ。場の空気も読まずに」
「どうしてわかったんだ!?」
「わかるわよ、訓練生時代から、ずっとあなたを見てきたんだもの」
俺が落とされそうになった美貌騎士は、剣ダコのある指先で、目尻の涙を拭いながら笑った。
パーティー会場の喧騒から離れ、バルコニーで佇むクリスティーナにそう声を掛けると、彼女はゆっくりと振り返った。
「うっとおしいのよ。ひっきりなしに声を掛けられるのが」
それは無理もない話ではなかろうか。
国家の英雄、男装の麗人、美貌の侯爵……彼女を彩る形容詞の数々は、老若男女全ての人間を魅了してやまない。
まるで今日の空のように爽やかなライトブルーのドレス。
フルアップにまとめ上げられた、太陽のように輝く金髪。
咲き誇るどんな花さえ引き立て役にしてしまう程に、華やかな顔立ち。
「皆、夢中なんだろう。君を目の前にしたら、誰だってそうなる」
「どこぞの元・護衛騎士様は落とせなかったけど?」
そう言って、いたずらっぽく口の端を上げるクリスティーナ。
「いや……実は落ちかかってしまっていた。サロイドで陛下にボコボコにされたのはそれが原因だよ」
「そうだったの? ふふ、惜しかったわね。もう少し女王達が来るのが遅かったら、私の初恋は叶っていたかもしれないのに。……ま、私の人生いつもそんなんだけど。手に入れようと一生懸命頑張って、あと少しってとこまでは行くんだけど……結局は他の誰かに奪われる。父の時も……そうだった」
笑みを浮かべていた彼女の顔に、悲しみが差し込む。
「俺の父は……君の御父上や、他の紅薔薇受領者を集めて、話し合おうとしていたんだな。啓示の秘密を聞く事無く母上を亡くされた、ローラ様の為に……」
目を伏せたまま頷く、クリスティーナ。
「受領者が秘密を話していいのは、後継者と、勲章を授与した当代女王だけ。だから、当時女王になったばかりのローラ王女に真相を話す権限は、誰にも無かった」
「だがこのままでは、ローラ様は授かる筈の無い神の啓示を待ち続け、不安の中生きていくことになる。そうならないよう、特例的に掟をやぶり、ローラ様に真実を伝えるべきだと……?」
「ええ。その是非を話し合う為に、レノックス伯爵が皆を呼んだの。そして、父もそれに賛同すべく……会合に出掛けて行った。それで……」
話の途中から、彼女の宝石のような瞳に、徐々に涙が溜まり始めた。
「あの頃……私は飛び級を繰り返して医師の資格を取った所だったの。たった15歳でよ? 死ぬ程大変だったけど、それで父が喜んでくれるならって……。なのに父は、有事の際に王女を守れるよう、次は騎士の訓練学校に入れって言い出した。私、もう我慢出来なくなって……私は王女の為に生きてるんじゃないって、初めて反抗したの。その次の日に……パパは……っ」
小さな顔を両手で覆う彼女の背に、そっと手を添える。
「謝らなくても、構わないか? 君の御父上も、俺の父も、他の受領者達も……国と王族に忠義を尽くし、勇気ある誇り高い行動の末に、亡くなった。それを俺が詫びてしまったら……彼らの尊厳を傷つけてしまう気がする」
「あなたに謝ってほしいなんて、ハナから思ってないわ。私はただ、愛されたかっただけ。パパと……あなたに……。私の愛する人達を独占するローラ様が、憎かっただけなの」
震える声でそう言うクリスティーナの背中は、守ってやらねばという庇護欲を掻き立てる程、小さく、頼りなく……そして、美しかった。
背後がざっくりと開いたデザインのドレスから覗く、真っ白な背中。
陶器のように艶やかで、ゆで卵のように柔らかで。
そういえば。サロイドにいた時はこんな露出の高いドレスを着る事は無かったから……こうして直に肌に触れる事はなかった。
良かった。あの状況で、この生肌の感触を味わっていたら、理性を保てていた自身が無い。
あったかいなあ……やわらかいなあ……。
ああ、このうなじから僧帽筋にかけてのライン……出るトコは出てるのに、こういう場所には全く無駄肉が無くて……この肩甲骨の溝に頬をうずめて、胸との感触の違いを確かめた――
「今、ムラムラしてるでしょ。場の空気も読まずに」
「どうしてわかったんだ!?」
「わかるわよ、訓練生時代から、ずっとあなたを見てきたんだもの」
俺が落とされそうになった美貌騎士は、剣ダコのある指先で、目尻の涙を拭いながら笑った。
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