女王様に恋する騎士は身分違いに悩むが、問題はそこではなかった

杏 みん

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フラれても友達でいたい、が叶うのは相手が本気で善人な場合のみ

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 訓練学校時代から、俺を想っていてくれた。
 
 彼女の発言には少なからず驚いた。
 だって、彼女があのいじめっ子だったというなら……いつどのタイミングで俺に心を奪われたのか、見当もつかなかったから。

 「あの頃の私は、荒れてた。父が死んだ後も、その意向に沿う人生を送る為に、結局騎士団の訓練学校に入れられて……そこで、父が死ぬ原因を作った男の子供に会ったんだもの……ちょっかい出さずにはいられなかったわ」

 「それで、訓練着を馬小屋に放ったわけか……」

 今にして思えば確かに、あれは男よりも女性がやりそうな、陰湿な嫌がらせだった。
 こんな事を口にしたら、『女性への偏見だ』と、陛下に叱られてしまいそうだけれど。

 「ええ。でも、あなたは気にも止めなくて……“女王陛下にお仕えする志の高い仲間に出会えると思っていたのに、がっかりだ”って言われた時は、恥ずかしいやら、ムカつくやらで、唖然としたわ。……と同時に、その清廉な姿に、一気に魅了された」

 背に回した俺の手を取り、切なげな目で俺を見つめるクリスティーナ。

 「あの時からずっと、好きだったの。でも、私はこれからも男として生きて行かなければならないと決まっていたから、アプローチする事もできなくて」

 「……の割りには、クリスとして陛下の護衛騎士になった時は、随分可愛げある挨拶をしてくれたが?」

 なんて、少し意地悪な事を言ってみると、彼女は眉尻を下げて微笑んだ。

 「恋人が無理ならせめて、良いお友達になろうとしていたのに。あなたは女王以外に見向きもしないわ、最年少で護衛騎士になったと思ったら、女と揉めてとばされるわ、にも関わらず女王とは密会を続けているわ……好きな男のそんな姿をみて、友好的に挨拶できる女なんていないでしょ?」

 「……君には……辛い想いをさせた」

 「少しでも申し訳なく思ってるなら、一つ教えて? 愛してくれる人は大切だといったのに、結局あなたは、私に隠れてアラン達と連絡を取り合っていた……。女王の為なら、私を騙して、利用する事にも抵抗はなかったの?」

 俺を責めるような、はたまた耳障りの良い弁解を待っているような……複雑な表情。
 そんな彼女の手を、両手で力強く握りしめた。

 「利用したんじゃない。信じたんだ。君はきっと善人だから……目の前で俺が死にかけていたら、必ず助けてくれる。ローラ様の事は嫌いでも、俺と、村の人々を救う為ならば、きっと協力してくれるだろうと」

 「……ずるい言い訳ね……」

 クリスティーナは鼻で笑いながら、俺の手を振り払った。

 そして両手を後ろに回し、上体をやや屈ませて、斜め下から見上げるように俺の顔を見て――。

 「ねえ、キスしてくれる? そうしたらあなたの事、忘れてあげる」

 「え!?」

 突拍子もない要求を提示してきた彼女に――しかもちょっと小首をかしげながらの上目遣いという、最強の攻め方をしてきた彼女に、思わずドキっとしてしまう。

 「クイーンズ・ソルジャー? だったかしら? これからは同じ仲間としてやって行くんだもの。陛下との三角関係は解消しておきたいでしょう? それに……私とのキス、あなたは嫌いじゃないと思うんだけど?」

 脳裏によぎるのは、あのなんとも言えない艶めかしい感触。
 魂ごと吸い込まれてしまうのではないかという位、甘く心地よい快楽。

 が、しかし。

 夢のようなあの想い出を秒でかき消したのは、陛下と再会した時の……あの地獄のような記憶で。

 「すまないが断る! ようやく最近、歩いても膝がミシミシ言わないし、食事をしても顎がずれないし、鼻筋も真っ直ぐにもどりつつあるんだ!! また同じ過ちを繰り返したら、俺は今度こそ再起不能にさせられてしまう!!」

 あの恐怖を思い出し蒼白しながら、必死になって断った。

 そんな俺を、彼女は高らかな声で笑い飛ばして――。

 「あはは! 女王様のお仕置き、よっぽどひどかったのね! じゃあ、これで勘弁してあげる!」

 ちゅっ。

 俺の肩に手をのせ、弾むような可愛らしい音と共に、俺の頬に口づけをしたクリスティーナ。

 「ク、クリスティーナ!」

 「ありがとう、レオナルド。寂しいばかりの人生だと思っていたけれど、あなたを好きになってからは、幸せだった。あなたの姿を見るだけで、肩がぶつかるだけで、心が弾んだ。フラれた後も、好きになって良かったと思えるあなたでいてくれて……本当にありがとう」

 そう言って微笑む彼女の顔は、悲しい程に幸せそうで――

 「俺の方こそ、ありがとう。これからは友人として、君の幸せを誰よりも祈っている。困ったときはいつでも呼んでくれ。全身全霊をかけて、力になるから」

 「大丈夫。こんなにいい女を困らせる男なんて、世界中探してもあなた以外にいないわよ」

 俺が浮気しかけた美しい人は、春の風のようにきらめく笑顔を振りまいてから……俺に背を向け、パーティー会場へと戻って行った。
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