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第四章 長期休暇中もやることは一杯です
閑話 シグルドとクレイシェス
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エルフィンと想いが通じ合った一件から一週間。(長期休暇は二ヶ月間ある)隙あらばキスをしようとしてくるエルフィンを『部屋の中だけにしてください』と何とか説得し(周囲の目も気になるけど、何より私の心臓が持たない)、同時に持ち上がったある疑念を解決すべく、シグルドを呼び出した。
ミラはあれから適度に私たちを──というか、エルフィンを──見張りつつ、クーシェに引っ付いている。つつかれるのはあれだけど、クーシェもミラといるのは嫌ではないらしい。最近は精霊体に(彼の本体である犬の姿)戻っては、庭園でミラと寄り添っている姿をよく見掛けた。それはいいんだけど、どういう経緯であの二人が付き合うことになったのかは謎なのよね………。
余談ではあるけれど、二人(二匹?いえ、精霊だから二柱よね)が寄り添う様子を眺めて癒される人が続出していた。
閑話休題。
「ユフィリア様、お呼びだということで、参じましたが………」
やって来たシグルドは、何故呼び出されたのか分からないようで、困惑した様子を見せていた。
「ごめんなさいね、シグルド。どうしても確かめたいことがあったの」
「いえ!貴女が謝る必要はありません!!オレ──私がお心を汲めないのが悪いのですから───」
「そこまでだ、シグルド。話が進まない」
なおも言い募るシグルドをエルフィンが制した。
「う………分かった。……それで、何の用事なんだ?エルフィン」
「ああ。早急に確認したい案件があってな」
「確認?」
「お前とクーシェのことについてだ」
「へ?」
呼び出されて聞かれることが思いもよらないことだからか、ぽかん、としていた。
その時、扉をノックする音がして、クーシェが入ってきた。
「失礼するよ」
「ああ、きたか、クーシェ」
「あ、もう来てる気配がするなと思ってたら………よく忘れなかったね、シグルド?」
「主直々のお呼びなんだ、忘れるわけないだろう。お前もとっくに王宮にいたのに、ユフィリア様を待たせるな」
「あのね………ボクにもやらなきゃいけないことがあるんだよ」
……………シグルド。忠誠心は有難いのだけど、私のこと以外でも忘れないで欲しいわ。主に学院の課題とか、エルフィンの側近候補であることとか、クーシェのフォローに感謝を忘れないとか。というか─────
「クーシェ、シグルド。お前たち、お互いが何処にいるのか分かるのか?」
「ん?まぁ……意識を集中させれば、どこにいても分かるかな」
「いつもこんな感じだぞ?どう対処すべきか悩んでると、クーシェの言葉が頭に浮かぶんだ。それで助かったこともあるしな」
脳筋なシグルドは思ったことをストレートに言ってしまい、相手を誤解させることが多々ある。学院に入ってからはそういった失敗談を聞かなくなったので、クーシェのリカバリーのおかげらしい、とみんな思っていたのだけど。
五年前までは私とエルフィンも似た感じだったわね。ただあれは、エルフィンの頭の中に私の心の声が聴こえる、というものだったし、そもそも、ミラが──精霊になる前の未來姉さん──かけた術のおかげだったけど。シグルドの言い方だと、かつてのエルフィンみたいに、一から十まで全て聴こえる、というわけでもなさそう。
「クーシェ」
「?」
「お前、今はデュオと契約しているんだったな」
「そうだけど………どうしたのさ、突然」
「ラピスフィアとしての記憶を取り戻したユフィが言っていたのだがな、お前の共鳴者はシグルドなんじゃないのか?」
「へっ!?」
驚きが大きかったからか、人としての擬態が解けかけている。具体的にいうと、耳と尻尾が出てる。そしてシグルドが「おお、もふもふ!!」と叫んでいる。──シグルド、さすがに元の姿じゃないクーシェをモフると危ない趣味の人にしか見えないから、やめてね?
「え、だって、共鳴者の条件──」
「落ち着け。そもそもお前の認識に齟齬があったらしいしな」
「齟齬………?」
「共鳴者の条件は、契約のあるなしに関わらず、感覚を共有するくらい相性のいい相手、なのよ」
「ユフィの話を踏まえて今確認したところ、お前とシグルドも契約していないのに感覚を共有している節がある。共鳴者の可能性が高いだろうな」
「─────!!」
エルフィンの補足で、クーシェが、ばっと私を見た。
「クーシェ、貴方は共鳴者だといえる相手に会ったことなかったから、かつて私が教えてあげた条件を誤認してしまったのだと思うの。それでも、おおまかな所は正しいから、余計に気付けなかったんじゃないかな」
「……………っ……ボク、その認識のままキミとエルフィンを───」
「結果的に私たちの結び付きは強くなった。エルフィンが私の共鳴者であることは事実だったもの。それに、私が覚醒にあたって反動もなく馴染めたのは、貴方が事前にエルフィンとの契約を強行してくれたからこそ、なのよ?むしろ感謝しているくらいだもの」
「ラピ──……ユフィリア……………」
今度こそ、擬態が解けたクーシェはぺたりと座り込んで、目に涙を滲ませていた。すると、シグルドがクーシェの側にしゃがみ込み、頭をわしわしと撫で始めた。クーシェは気持ちよさげに目を細める。
「ユフィリア様はこう仰って下さってるんだ、お前が罪悪感に苦しめられる必要なんてないだろ?」
『シグルド………』
「共鳴者ってのは、オレにはよく分かんないけど……“オレの相棒はお前”だってことだろ?何も間違ったことなんてないじゃないか」
『ん……………』
確かに認識に齟齬があったと言っただけで、間違いだったとは言ってないからね。いつもはクーシェにフォローされてるシグルドが……………彼も少しは成長しているのかしらね。こういう時は直球で言うからこそ、誤解なく伝わるのでしょうね。
後日、デュオに話を通して契約を解消し、クーシェはシグルドと契約することになった。元々あの子はアーティケウス伯爵家でお世話になってたからか、他は特に変化はなかったみたい。(身元は学院長の孫ということになっているけどね)
その代わりではないけれど、デュオはミラと契約した。私が精霊として覚醒しつつあるため、彼女との契約を解消することになったからだ。デュオは風の魔術を得意としているため、こちらも問題なく契約を結べたよう。まぁ、あの二人は前世で姉弟だったし、当然というか、違和感はなかったみたい。こちらも契約前と変化はない。ミラは相変わらず私の側にいるしね。
ミラはあれから適度に私たちを──というか、エルフィンを──見張りつつ、クーシェに引っ付いている。つつかれるのはあれだけど、クーシェもミラといるのは嫌ではないらしい。最近は精霊体に(彼の本体である犬の姿)戻っては、庭園でミラと寄り添っている姿をよく見掛けた。それはいいんだけど、どういう経緯であの二人が付き合うことになったのかは謎なのよね………。
余談ではあるけれど、二人(二匹?いえ、精霊だから二柱よね)が寄り添う様子を眺めて癒される人が続出していた。
閑話休題。
「ユフィリア様、お呼びだということで、参じましたが………」
やって来たシグルドは、何故呼び出されたのか分からないようで、困惑した様子を見せていた。
「ごめんなさいね、シグルド。どうしても確かめたいことがあったの」
「いえ!貴女が謝る必要はありません!!オレ──私がお心を汲めないのが悪いのですから───」
「そこまでだ、シグルド。話が進まない」
なおも言い募るシグルドをエルフィンが制した。
「う………分かった。……それで、何の用事なんだ?エルフィン」
「ああ。早急に確認したい案件があってな」
「確認?」
「お前とクーシェのことについてだ」
「へ?」
呼び出されて聞かれることが思いもよらないことだからか、ぽかん、としていた。
その時、扉をノックする音がして、クーシェが入ってきた。
「失礼するよ」
「ああ、きたか、クーシェ」
「あ、もう来てる気配がするなと思ってたら………よく忘れなかったね、シグルド?」
「主直々のお呼びなんだ、忘れるわけないだろう。お前もとっくに王宮にいたのに、ユフィリア様を待たせるな」
「あのね………ボクにもやらなきゃいけないことがあるんだよ」
……………シグルド。忠誠心は有難いのだけど、私のこと以外でも忘れないで欲しいわ。主に学院の課題とか、エルフィンの側近候補であることとか、クーシェのフォローに感謝を忘れないとか。というか─────
「クーシェ、シグルド。お前たち、お互いが何処にいるのか分かるのか?」
「ん?まぁ……意識を集中させれば、どこにいても分かるかな」
「いつもこんな感じだぞ?どう対処すべきか悩んでると、クーシェの言葉が頭に浮かぶんだ。それで助かったこともあるしな」
脳筋なシグルドは思ったことをストレートに言ってしまい、相手を誤解させることが多々ある。学院に入ってからはそういった失敗談を聞かなくなったので、クーシェのリカバリーのおかげらしい、とみんな思っていたのだけど。
五年前までは私とエルフィンも似た感じだったわね。ただあれは、エルフィンの頭の中に私の心の声が聴こえる、というものだったし、そもそも、ミラが──精霊になる前の未來姉さん──かけた術のおかげだったけど。シグルドの言い方だと、かつてのエルフィンみたいに、一から十まで全て聴こえる、というわけでもなさそう。
「クーシェ」
「?」
「お前、今はデュオと契約しているんだったな」
「そうだけど………どうしたのさ、突然」
「ラピスフィアとしての記憶を取り戻したユフィが言っていたのだがな、お前の共鳴者はシグルドなんじゃないのか?」
「へっ!?」
驚きが大きかったからか、人としての擬態が解けかけている。具体的にいうと、耳と尻尾が出てる。そしてシグルドが「おお、もふもふ!!」と叫んでいる。──シグルド、さすがに元の姿じゃないクーシェをモフると危ない趣味の人にしか見えないから、やめてね?
「え、だって、共鳴者の条件──」
「落ち着け。そもそもお前の認識に齟齬があったらしいしな」
「齟齬………?」
「共鳴者の条件は、契約のあるなしに関わらず、感覚を共有するくらい相性のいい相手、なのよ」
「ユフィの話を踏まえて今確認したところ、お前とシグルドも契約していないのに感覚を共有している節がある。共鳴者の可能性が高いだろうな」
「─────!!」
エルフィンの補足で、クーシェが、ばっと私を見た。
「クーシェ、貴方は共鳴者だといえる相手に会ったことなかったから、かつて私が教えてあげた条件を誤認してしまったのだと思うの。それでも、おおまかな所は正しいから、余計に気付けなかったんじゃないかな」
「……………っ……ボク、その認識のままキミとエルフィンを───」
「結果的に私たちの結び付きは強くなった。エルフィンが私の共鳴者であることは事実だったもの。それに、私が覚醒にあたって反動もなく馴染めたのは、貴方が事前にエルフィンとの契約を強行してくれたからこそ、なのよ?むしろ感謝しているくらいだもの」
「ラピ──……ユフィリア……………」
今度こそ、擬態が解けたクーシェはぺたりと座り込んで、目に涙を滲ませていた。すると、シグルドがクーシェの側にしゃがみ込み、頭をわしわしと撫で始めた。クーシェは気持ちよさげに目を細める。
「ユフィリア様はこう仰って下さってるんだ、お前が罪悪感に苦しめられる必要なんてないだろ?」
『シグルド………』
「共鳴者ってのは、オレにはよく分かんないけど……“オレの相棒はお前”だってことだろ?何も間違ったことなんてないじゃないか」
『ん……………』
確かに認識に齟齬があったと言っただけで、間違いだったとは言ってないからね。いつもはクーシェにフォローされてるシグルドが……………彼も少しは成長しているのかしらね。こういう時は直球で言うからこそ、誤解なく伝わるのでしょうね。
後日、デュオに話を通して契約を解消し、クーシェはシグルドと契約することになった。元々あの子はアーティケウス伯爵家でお世話になってたからか、他は特に変化はなかったみたい。(身元は学院長の孫ということになっているけどね)
その代わりではないけれど、デュオはミラと契約した。私が精霊として覚醒しつつあるため、彼女との契約を解消することになったからだ。デュオは風の魔術を得意としているため、こちらも問題なく契約を結べたよう。まぁ、あの二人は前世で姉弟だったし、当然というか、違和感はなかったみたい。こちらも契約前と変化はない。ミラは相変わらず私の側にいるしね。
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