私はモブ扱いで結構です

さーちゃん

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第一章 メルトヴァル学院での日々

現状を確認してみましょう2

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「オレが城で公務に集中している間にそんなことになってたのか………」

 まだ授業が残っていたソール様とシュドヘル様は学院に残り、私、ルティウス様、シルディオ様は王城へと戻ってきました。
 シュドヘル様は未だ動けない私を名残惜しそうに見送っていました。「授業が終わり次第駆け付けるからな」という言葉をしっかり口にして。それを見たルティウス様が「姉上にご迷惑をかけないように僕も言動に気を付けなければいけませんね」と呟いていました。
………なんだかんだ言って、やはりルティウス様も立派にシスコンですよね。それを口にしたらキングコブラ級のやぶ蛇な予感がしたので何も言いませんでしたが。

 そして戻って早々執務中の主を捕まえ──失礼、きりのいいところまで執務が終わったら私に宛がわれている部屋までシャウド共々来てもらうように言付け、今に至ります。
 話を聞き終え、主は癖になりつつある溜め息を吐きながら机に突っ伏すという反応をされています。

 お気持ちは分かります、主。私も面倒事の気配しかしませんので。

「あ~………それで、君たちはオレにも“ゲーム”の話を聞きたかったわけだね」
「貴方も前世は異世界の者でしたね?なにか心当たりはありませんか」

 ルティウス様の問いかけにシャウドは困ったように頭を掻きました。なんとか記憶を掘り起こしているようです。

「う~~~ん……………もしかして、あれかな?」
「!!知っているのですか!!」
「いや………さすがに詳しい内容までは知らないんだけどさ。オレ、前世で教師をしてたって言ったことあるよね?」
「ええ。たしか前世のデュオが通った“高校”のでしたね」
「うん。その時に、教え子達が熱狂していた“ゲーム”がそうじゃないかな?タイトルはたしか──スピリチュアル・シンフォニー2~聖なる乙女と天翼の守護者~っていったかな……」

 聞いた瞬間、みんなで遠い目をしたのは無理からぬことでしょう。うん、紛うこととなき“続編”ですね、それ。

「“シナリオ”は知りませんか、シャウド」

 継ぎはぎだろうと、推測はできるかもしれない。そう思って私はシャウドに尋ねてみました。

「ごめん。そこまでは分からない。───ただ、攻略対象者と、エンディングのあたりだけは分かるよ」
「そうですか……!せめて誰が関わることになるのかがわかれば完璧とは言えずとも対策は立てられますからね」

 ルティウス様は付け足されたシャウドの言葉にほっと息を吐き出しました。

「それで、誰が“攻略対象者”なんです?………まぁ、二人は確実に分かってますが」
「ああ、うん。さっき絡まれたって言ってたものね。ソールとシュドヘル殿は間違いないね。─────あのさ、クルシェット様………凄い言いづらいんですが」
「なんだ、突然」
「ルティウスを除いた、この場にいる面々みんなそうです」
「「「「え"?」」」」

 ということは、主はもちろん、シルディオ様もそうだってことですよね。うわぁ。……………ん?

「って、お前もか!!」
「あたっ」

 主がいつの間にか丸めていた紙の束でシャウドをスパンとはたきました。大して痛みはなかったようで、じとーっと主を睨むも、「もう一撃いくか?」と言われ「すみませんでした」とすぐに謝罪。そのやり取りを見て、私も『明日は我が身』なので気を付けよう、と思ったのは内緒です。

シャウドは場の空気を変えるべく、咳払いをして話を再開しました。

「名前はさすがに変えてるでしょう?オレ。今みたいな私的な時は君たち、“真名”で呼ぶけど。“ゲーム”では人間としての名が与えられてるって言ってたから、それかな」
「そういえば………地の精霊クレイシェスも人間としては『クーシェ』と名乗っていましたね」
「うん。魔力を持たない人にはあまり意味はないけど、精霊の力を上回る場合、“言霊”で縛ることもできるからね。高位精霊はその限りじゃないけど、そうでなくてもそうそう精霊としての“真名”を教えることはないよ。マクスウェルだって、元の闇の高位精霊としての名前のほうが“真名”だしね」
「そういえば続編は“隠しキャラ”はいるんですか?」
「う~~ん………申し訳ないけど、それは分かんないんだ」
「どういう意味です?」
「廊下ですれ違う時に話しているのをちらっと聞いただけだから、掘り下げて聞いてはいないんだよ」

 つまり……いるのかいないのかも分からない、ということですか。

 今分かっているだけでも、主、シュドヘル様、ソール様、シルディオ様、シャウド。もし隠しキャラがいるのなら、六人ということになりますね。ただ、この流れからいけばまず間違いなく隠しキャラはいるでしょうけどね。

「あれ?シャウド、ちょっといいですか」
「ん?なにさ、リュミエル」
「この手の“乙女ゲーム”の場合、攻略対象者に王族──それも王太子である方がいるのは普通なのですが………まさかとは思いますが……レシェウス王太子殿下、入っていないですよね?」
「………………ん?ちょっとまって───あ!レシェウス様も攻略対象者だ!あの子達がそんな話してたのが聴いたのを思い出した!」
「貴方の記憶力に感謝するべきでしょうが………やたらと都合よくすれ違う教え子達ですね?」
「あれ?そういえばそうだね」

 ルティウス様、私もそれ、思いましたよ。そしてシャウドが再び主に例の紙の束で叩かれました。

「痛い!!」
「そういうことは初めからきっちり思いださんか!!」
「………転生者というのはみなこんな感じなのでしょうか」

 すみません、ルティウス様。私たち、天然ボケだと思われてますかね。シルディオ様も静かに聞いておられますが、「そういえばユフィも若干天然なところが………」と呟かれているので、同じお気持ちなのでしょうね。重ね重ねすみません。

 ふと思ったんですが……シャウド、その教え子たちとの遭遇率高くないですか?その子たち、絶対に前世の貴方との接点欲しさにわざわざ貴方の通る道ですれ違うように回り道してましたよね?

「………とりあえず、あなたの謎の遭遇率はともかく。そうなると、やはり“隠しキャラ”とやらもいますよね?」
「もちろんいますよ。言いにくいですけど………」
「ええ。私とシャウドの予想が間違っていないなら、ですが………まあ、この世界は ですから、あくまで参考レベルに留めるべきでしょうけどね。攻略対象者って大抵関係者同士で固まってますから………」
「と、いうことは貴方が“隠しキャラ”ということですか、シャウド?この場にいる者みんなそうだと言っていましたし、残っているのは貴方だけですし」
「んー……………ルティウスの指摘した通りだろうねぇ───」

 シャウドの人としての名は『ウェイン・シャラナ・ドーリッシュ』です。精霊の加護持ちとして振る舞っています。
 もし誰かがシャウドの名を聞いてしまっても、愛称ニックネームで誤魔化せる寸法ですね。

「漏れ聴こえた会話の内容を思い出す限り、『隠しキャラのウェインルートになかなか入れない』って言ってた子のあとに、別の子が『王太子を攻略して、聖獣との共鳴率を七割以上にして、なおかつ第二王子ルートからじゃないとダメみたいだよ?』っていう話をしてたのを聞いた覚えがあるよ」
「聖獣………たしかあの娘がリュミエルをそう呼んでいましたよね?」
「え、ええ………。ですが私………自分が人ではなかったとは思わなかったです───」

 話の通りだとシャウドも攻略対象者なのは確実ですね。そして一番攻略が難しいキャラ設定ですよね、それ。
 しかも攻略対象者との絡みに私が必要ということですよね。想像するだけでも頭の痛い話です……………絶対に彼女が私に付き纏うって未来が確定してるじゃないですか。

 それぞれの“エンディング”はどういったものなのか。続編は前作よりも難解な気がしてきましたね……………
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