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第一章 転生したら『悪役』でした~五年前~
設定が違う?
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ロウによる屋敷の案内は半日ほどかかった。
この屋敷は、三階立ての左右に広々とした造りで、ロウたちが使うのが右側、使用人たちが使うのが左側と分けているようだ。
私に宛がってくれた部屋も、右側にしてくれたそうだ。
「室内の様子も見たいか?」
ロウはそういって自分の部屋の中を見せてくれた。あまりものを置かない性質らしく、机や寝具、本棚などの必要最低限の物だけ置いて、あとはほぼ何も置かれていないという、シンプルな室内だった。ロウのお姉さん──リーリンさんというらしい──の部屋もこのフロアにある、とだけ紹介された。うっかり近づかないように、とのことだ。
お姉さん、「今日から女の子が同居する」と聞き付け、開け放って行ってしまったらしく、部屋の中が丸見えだった。見てしまった部屋の中が趣味全開の内装だったのには引いた。無言で扉を閉めたのは言うまでもない。
ロウの「本当にすまない……」というセリフでさらに居たたまれなくなった。
私の部屋に案内してもらうと、すでに生活に必要なものは買っておいてくれたそうで、女の子らしい部屋に仕上がっていた。……ちなみに部屋のコーディネートをしてくれたのはリーリンさんらしい。可愛い女の子を見ると暴走するそうだけど、センスはたしかだったようだ。部屋の壁紙の色合いも落ち着いたものだし、窓辺にさりげなく植物の鉢植えが置いてあったりして、寛げる空気を感じる。
申し訳がないので、『後で少しずつ支払います』、と速記してロウに見せたところ、「お金はもらう訳にはいかない。部屋の品々は迷惑料だと思って受け取ってくれ」と言われた。
先払いの迷惑料って聞いたことないけど。シュディスから聞いている、私の容姿を想像し、ロウは確信した。『間違いなく姉は暴走する』と。
『さすが姉弟、理解力がある』と言えばいいのか、『武人の勘は素晴らしいですね』、とでも言えばいいのかは悩むところだが。
そんなわけで、ありがたく受け取ることにした。なにか別の形で返そうと思う。
その日の夕食は私の歓迎も兼ねて豪勢な食事にしてくれた。石窯で焼いたパン、ビーフシチュー、鶏肉のソテー、付け合わせのにんじんのグラッセはほどよい甘さで食べやすかった。……この世界にもごはん、ないかなあ。と思い、つい呟いたのだけど、それを聞いたロウが「では明日は和風にしようか」と明日のメニューを料理長に伝えてくれた。楽しみだなぁ……十年ぶりの白ごはん。あ。入院していた時はほぼ点滴による栄養剤を注入するか、おも湯だったから、実際は十数年振り、か。
前菜として出てきたポタージュは枝豆を使ったものらしく、すっきりとした味わいだった。デザートはなんとリーリンさんお手製のパンプディングだった。……明らかにいいとこの生まれなのに、意外な特技があるんだなあ、と思った。味は絶品だったけど。
食事中、リーリンさんの目が私をガン見したままだったので、居心地が微妙だったけどね。デザートの感想を聞きたかったんじゃないのはたしかだろう。食事の最中に尋ねられる質問の内容、明らかに私の個人情報ばかりだったし。
その日はさっと入浴をすませ、早めに就寝した。明日、冒険者登録に行くので、早めに起きたほうがいいとのことだったからだ。
ただ、その夜は妙な夢を見た。首筋に誰だか分からない者の舌を這わされ、ちくちくとなにか鋭いものでつつかれる、というものだった。しかもその尖ったものが、皮膚に食い込みかけるたびに、ぞくっとした快感がはしるのだ。その尖ったものが、首筋の皮膚を突き破ろうかというところで目が覚めた。
なに? 今の夢……嫌にリアルだった。
これはあれか? 俗にいう正夢になるとかいうやつか? そんなバカな。
こういうのって、普通はヒロインに起こるものだろ? きっと、前世の記憶を取り戻して間もないから、その影響が夢に現れたとかだろう。うん、そうに違いない。私には襲われたい願望なんてないし。
そんな感じに自分に言い聞かせながら寝直したのだけど。夢の内容を引きずっていたらしく、変な気分で朝を迎えたので、なんとも複雑な気分だった。
余談なのだけど。寝る前にロウが「へんた……姉が入ってこようとするかもしれない。夜はきちんと部屋の鍵をかけるように」なんて言っていたから、きっちり鍵かけて寝たのだけど。
さしものリーリンさんも夜這いはしないんじゃないかなぁ……と思っていたんだよね。そしたら、どうやら執事のヤンさんのファインプレーによって阻まれていただけらしい。……ここまで来ると、もはや変態を通り越して変質者だよな、と思った瞬間だった。
え? ロウの攻略情報? ぶっちゃけ彼のことも名前と王族ってことくらいしか知らない……! 留学しているくらいだから、間違いなく魔法の腕は優秀なのだろうけど。たしか得意属性は風と火だったかな。
ちなみに、ロウと彼の故郷であるホンロンのことは、オンライン版だとこんな設定。
それは今から遡ること、二百年前のことだ。その当時、シンフォン家はホンロンに存在する幾多の部族の中の一つに過ぎなかった。それが、ある魔人の集団からホンロンを守ったことで民たちから『彼らこそホンロンを統治するに相応しい』と熱望され、王族を名乗るようになったのがきっかけだ。たしかオンライン版だと、ロウが成人したばかりの15の頃、急病で父親である王が他界する。その父親に代わり、若くして国王となっていた。
シュディスと同い年だと言っていたのなら、今がその時のはずなんだけど……父親が病気なら、留学なんてしている場合ではないだろう。けれど、現に彼ら姉弟は、たった二人──正確にいえば使用人たちもいるが。恐らく彼らが護衛も兼任しているのだろう──で、留学先に家まで購入して暮らしている。
普通に考えれば、留学するだけなら、寮を選べばいい。お姉さんであるリーリンさんまで来る必要はないはずだ。
もしかして『アカコイ』では、オンライン版とは違う設定があるのだろうか? でも、シュディスやキリアはほとんど同じみたいなんだよな……どうなってるんだろう?
ロウが一向に食堂へ来ない私を心配して呼びに来るまで、ずっと私は感じた違和感について考え込んでいた。
この屋敷は、三階立ての左右に広々とした造りで、ロウたちが使うのが右側、使用人たちが使うのが左側と分けているようだ。
私に宛がってくれた部屋も、右側にしてくれたそうだ。
「室内の様子も見たいか?」
ロウはそういって自分の部屋の中を見せてくれた。あまりものを置かない性質らしく、机や寝具、本棚などの必要最低限の物だけ置いて、あとはほぼ何も置かれていないという、シンプルな室内だった。ロウのお姉さん──リーリンさんというらしい──の部屋もこのフロアにある、とだけ紹介された。うっかり近づかないように、とのことだ。
お姉さん、「今日から女の子が同居する」と聞き付け、開け放って行ってしまったらしく、部屋の中が丸見えだった。見てしまった部屋の中が趣味全開の内装だったのには引いた。無言で扉を閉めたのは言うまでもない。
ロウの「本当にすまない……」というセリフでさらに居たたまれなくなった。
私の部屋に案内してもらうと、すでに生活に必要なものは買っておいてくれたそうで、女の子らしい部屋に仕上がっていた。……ちなみに部屋のコーディネートをしてくれたのはリーリンさんらしい。可愛い女の子を見ると暴走するそうだけど、センスはたしかだったようだ。部屋の壁紙の色合いも落ち着いたものだし、窓辺にさりげなく植物の鉢植えが置いてあったりして、寛げる空気を感じる。
申し訳がないので、『後で少しずつ支払います』、と速記してロウに見せたところ、「お金はもらう訳にはいかない。部屋の品々は迷惑料だと思って受け取ってくれ」と言われた。
先払いの迷惑料って聞いたことないけど。シュディスから聞いている、私の容姿を想像し、ロウは確信した。『間違いなく姉は暴走する』と。
『さすが姉弟、理解力がある』と言えばいいのか、『武人の勘は素晴らしいですね』、とでも言えばいいのかは悩むところだが。
そんなわけで、ありがたく受け取ることにした。なにか別の形で返そうと思う。
その日の夕食は私の歓迎も兼ねて豪勢な食事にしてくれた。石窯で焼いたパン、ビーフシチュー、鶏肉のソテー、付け合わせのにんじんのグラッセはほどよい甘さで食べやすかった。……この世界にもごはん、ないかなあ。と思い、つい呟いたのだけど、それを聞いたロウが「では明日は和風にしようか」と明日のメニューを料理長に伝えてくれた。楽しみだなぁ……十年ぶりの白ごはん。あ。入院していた時はほぼ点滴による栄養剤を注入するか、おも湯だったから、実際は十数年振り、か。
前菜として出てきたポタージュは枝豆を使ったものらしく、すっきりとした味わいだった。デザートはなんとリーリンさんお手製のパンプディングだった。……明らかにいいとこの生まれなのに、意外な特技があるんだなあ、と思った。味は絶品だったけど。
食事中、リーリンさんの目が私をガン見したままだったので、居心地が微妙だったけどね。デザートの感想を聞きたかったんじゃないのはたしかだろう。食事の最中に尋ねられる質問の内容、明らかに私の個人情報ばかりだったし。
その日はさっと入浴をすませ、早めに就寝した。明日、冒険者登録に行くので、早めに起きたほうがいいとのことだったからだ。
ただ、その夜は妙な夢を見た。首筋に誰だか分からない者の舌を這わされ、ちくちくとなにか鋭いものでつつかれる、というものだった。しかもその尖ったものが、皮膚に食い込みかけるたびに、ぞくっとした快感がはしるのだ。その尖ったものが、首筋の皮膚を突き破ろうかというところで目が覚めた。
なに? 今の夢……嫌にリアルだった。
これはあれか? 俗にいう正夢になるとかいうやつか? そんなバカな。
こういうのって、普通はヒロインに起こるものだろ? きっと、前世の記憶を取り戻して間もないから、その影響が夢に現れたとかだろう。うん、そうに違いない。私には襲われたい願望なんてないし。
そんな感じに自分に言い聞かせながら寝直したのだけど。夢の内容を引きずっていたらしく、変な気分で朝を迎えたので、なんとも複雑な気分だった。
余談なのだけど。寝る前にロウが「へんた……姉が入ってこようとするかもしれない。夜はきちんと部屋の鍵をかけるように」なんて言っていたから、きっちり鍵かけて寝たのだけど。
さしものリーリンさんも夜這いはしないんじゃないかなぁ……と思っていたんだよね。そしたら、どうやら執事のヤンさんのファインプレーによって阻まれていただけらしい。……ここまで来ると、もはや変態を通り越して変質者だよな、と思った瞬間だった。
え? ロウの攻略情報? ぶっちゃけ彼のことも名前と王族ってことくらいしか知らない……! 留学しているくらいだから、間違いなく魔法の腕は優秀なのだろうけど。たしか得意属性は風と火だったかな。
ちなみに、ロウと彼の故郷であるホンロンのことは、オンライン版だとこんな設定。
それは今から遡ること、二百年前のことだ。その当時、シンフォン家はホンロンに存在する幾多の部族の中の一つに過ぎなかった。それが、ある魔人の集団からホンロンを守ったことで民たちから『彼らこそホンロンを統治するに相応しい』と熱望され、王族を名乗るようになったのがきっかけだ。たしかオンライン版だと、ロウが成人したばかりの15の頃、急病で父親である王が他界する。その父親に代わり、若くして国王となっていた。
シュディスと同い年だと言っていたのなら、今がその時のはずなんだけど……父親が病気なら、留学なんてしている場合ではないだろう。けれど、現に彼ら姉弟は、たった二人──正確にいえば使用人たちもいるが。恐らく彼らが護衛も兼任しているのだろう──で、留学先に家まで購入して暮らしている。
普通に考えれば、留学するだけなら、寮を選べばいい。お姉さんであるリーリンさんまで来る必要はないはずだ。
もしかして『アカコイ』では、オンライン版とは違う設定があるのだろうか? でも、シュディスやキリアはほとんど同じみたいなんだよな……どうなってるんだろう?
ロウが一向に食堂へ来ない私を心配して呼びに来るまで、ずっと私は感じた違和感について考え込んでいた。
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