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運命が呼び覚ますもの-1
77-1
熱を持つ額によく冷えた布が当てられて、エリオスは意識が浮上する。
(きもちい……)
閉じた瞼の先は、ふんわり灯りを感じている。備え付けられたランプの灯りが、ゆらゆらとエリオスの顔周りを照らしていた。
だけどまだ体はだるくて凄く眠いし、なにより腹の下の方に鈍痛を感じる。
不快感でしかないそれは、悪いものを食べた時の胃痛とは違うようだ。
力の入らない体を支えるのは、スプリングのしっかりとした柔らかいベッドで、ソルグランの自室を思い出させた。
微かな灯りでさえ眩しく感じて、灯りから隠れるように寝返りを打つとふかふかの掛け布団に隠れる。
「リオー……リオったら」
「ぅー……」
あと少しだけ眠りにつきたいと、息を一つ吐く。
聞き覚えのある声が聞こえるが、なんとも億劫だ。
寝かせて欲しいと呻いて応えたが、声の主は大人しく寝かせる気は無いようで、上掛けの上からエリオスの体を揺する。
こっちは具合が良くないってのに随分扱いが荒っぽい。
それでも眠気が勝つほど体力は削がれていて、エリオスはとてもくたびれていた。
「はぁー、仕方ない」
謝罪も何もなしに気持ちのいい上掛けを、勢いよくひったくられた。
火照った体は、外の寒さにブルりと震えて、取られた上掛けを手のひらで探す。
「ぅわっ……さ、さむ」
「はーい、一回起きてー」
「え……っフィル?」
瞼をあげると、そこには白衣をしっかり纏ったフィルが立っていた。
手に布を持っていて、先ほど触れていた正体がフィルからもたらされていたことも知った。
なんでフィルがここに?……そもそもここはどこだ……?
「視界は良し、と」
フィルは頷きながらデスクに向かうと、ランプの灯りを頼りに羽ペンを走らせる。
横顔は真剣そのもので、備え付けの椅子に腰かける姿は、医師の問診のようだ。
すでに暗闇を湛えている部屋だが、エリオスが意識を失っている間にすっかり夜になっていた。
(あれ、俺……なんでこんなことになったんだっけ……確か、変な白衣の男たちに追いかけられて……っ!)
脳裏に浮かんだ記憶。畑の小屋に隠した、大事な小さな友人。
守ろうと思ったのに、非力な自分はその後あっさり捕まった。
エリオスは腕を伸ばすと、記録にかかるフィルの袖を必死に掴んで引っ張った。
「フィルっ、あの子は、マルクは無事なのか!?」
自分がのうのうと寝ている間に、どこかへ売られてやしないか。
あんなにも純粋で可愛い子を守りきれなかったのでは、とすでに悪い顔色が余計に悪くなる。
呼吸すら怪しくなって、袖を掴む手が震えているのも気づかない。
「落ち着いて、マルクはどこにも行ってやしないよ」
「でもザガレスがっ」
「……ザガレスがなんだって?」
自分がこんな状態になるあらましを思い出して、居心地悪く視線をさ迷わせる。
それを目ざとく捉えたフィルに、隠し通せるはずもない。
備え付けのチェアに腰を下ろしたフィル。聞くまでは絶対に動かないぞ、という意思を感じて仕方なしにポツポツと話した。
捕らえられてから、ザルミアンの城で起きたこと。
己が実験材料としてザガレスと番わなければ、代わりに捕らえたマルクを番にすると。
そして無理やりの投与された薬と、狙われたうなじ。まっさらなうなじは無事だが、不安になって思わず手のひらでそこをさすった。
「ふざけんな!あぁ……胸糞が悪い!」
綺麗な顔を歪ませて、怒りのままにベッドへと拳を叩き下ろす。
塞ぎ込むように顔をそこへ埋めると、歯を食いしばって唸った。
小さく見える肩が震えて、エリオスはそこを撫でる。
「マルクは本当に、大丈夫だったんだ……最初から目的は」
「俺か……ならよかった」
小さな子供や、か弱いΩがあんな目に遭うなんて絶対にあってはいけない。
正直今でも身がすくむ思いだが、あれがマルクやフィルだったと思うと生きた心地がしないのだ。
自己犠牲でもなんでもない。本当にそう思う。
これからという若者を守る役目は、年長者にある。
たまたま、自分がお眼鏡にかかったから良いものの、Ωを狙うものはいる。
浮き彫りになった事実は、今後何かしらの対策が練られるだろ。
しかし、そうやって既に終わった事と捕らえているエリオスの言葉を、はいそうですか、と納得できるフィルではない。
何度も拳でベッドを叩きながら、声を掠れさせながら鼻を啜って吐き出した。
「よくない!……よくないんだよぉ」
「フィル」
「友人をっ、失ってしまうところだった!」
唸りながら静かに泣くフィル。なんとか起き上がったエリオスは、格好がつかないながらも上から覆い被さって抱きしめる。
「ごめんなぁ……心配してくれてありがとなぁ」
「当たり前だよ、マルクだって……酷く泣いていたんだ」
「あの子には、随分怖い思いさせちまったよ」
あとで謝らないと、と逡巡する。
フィルはひとしきり泣き終えると、腕で目を豪快に擦って息を吐く。
「リオは……いや、エリオス王子?の方がいいのかな?」
「……そりゃ、バレてるか」
目を赤くしたフィルを見つめて、ポツリと呟く。
運良く、Ωという性だけがバレるわけがない。
潮時かと力無い声が出てしまい、自分でも驚いた。
フィルはベッドに戻るエリオスを覗き込むと、ニヤリとも見える笑みのまま言い切った。
「そりゃあ勿論。抑制剤も絡んでるからね、エリオス王子の主治医に任命されたから……まったく腕がなるよ」
腰に手を当てて言う姿がキマッている。中央薬政官を背負う姿はとても眩しかった。
その逞しさすら感じる佇まいに、エリオスは吹き出して、口をつく。
「俺、リオのままがいいな。案外気に入ってんだ」
「ふふっ、りょーかい」
そう言いながら、慣れた手つきでエリオスの首に指を這わせ脈を見ると、今度はクマの残る下瞼を下げて血色を確認する。
戸惑うことない動きに感心しながら、体から力を抜いた。
「フィルに見て貰えるなんて、心強いなぁ」
「ここに連れてこられたときは酷かったんだから。三日も目を覚さないし」
「三日!?……いっ!……てぇっ」
思わず起き上がって叫ぶと、下腹部がツキりと傷んでうずくまる。
波のあるそれは強く押さえつければマシになった。しかし、マシになった程度でずっと鈍痛はあるから厄介だ。
「あぁ、言わんこっちゃない……」
「これ、俺なんか病気なんか?それとも、あのヤバい薬の副作用か?」
「薬、っていうか……それは」
躊躇いすら見える言い方にエリオスは首を傾げる。なんて説明しようか悩んだフィルは、視線を横へと外した。
上手く説明するには時間が掛かるのかと、布団を取り返して抱きしめる。
ふかふかの触り心地は気持ちがいい。顔を埋めればすぐにでも眠りにつけそうなほど力が抜ける。
あくびまで出てきそうだが、フィルを悩ませている手前グースカネルのもと、なんとか噛み殺す。
……そういえば、自分が寝かされているここはどこなんだ。
宿屋でも無ければ、自分の国の自室でもない。
医務室にあるとは思えないほど、このベッドの寝心地はいい。
(なんかやけに安心すんな……暖かいからか?……いや、甘くて爽やかな……この匂い……っ)
エリオスは弾かれたよう顔をあげると、視線を辺りへとむけた。
暗闇の中で、ランプがぼんやり辺りを照らしている。目を凝らせばやっと慣れてきて、部屋全体を捉えることができた。
青を貴重とした内装に、整頓された本棚とデスク。火はまだ灯っていない暖炉。その上は……よく覚えている。鎧を纏い、小さな剣を持つ動物の置物。可愛らしいその動物の瞳が、ランプの灯りに照らされて光ったように見えた。
以前、勝手に侵入してしまい、あまつさえヒートのような症状を起こした……あの部屋に間違いなさそうだ。
と、言うことは……この部屋の主はっ!?
「な、なんでっ……俺、ここに!?」
エリオスは思わず腹から大きな声がでたが、クラっと目眩がして気づいたフィルに支えられる。
しかし、ここで寝るなんて絶対に許されないともがいてベッドから降りようと足を床へ下ろした。
フィルはこんな時でも至って冷静で、慌てるエリオスの両肩に手を置くと、優しく諭した。
「リオ、落ち着いて」
「だめだ!ここ、ジークハルト様のお部屋じゃねぇか!なんで、俺をっ……ここに寝かせたんだ!?」
「違うよ。この部屋は大丈夫だから」
しかし、エリオスは非常事態だと頭の中でベルが鳴っている。他の番がいるαの寝床で寝るなんて、たとえなんの因果か本人が許しても、エリオスは大の字で寝るほど神経は図太くない。正直、そういう面に関しては、一番臆病で奥手だ。
フィルは何故か有無を言わさない仕草だが、こっちも本気だ。身を捩って嫌だと声だけはなんとか抗議する。
「違くない!だって、この匂い、……ぐぅ……くっ」
加減も忘れて、大きな声を出したところで痛みが鋭くなり、エリオスは体を前屈みにした。耐えるように一点を見つめると短く吐くだけの呼吸を繰り返す。
無遠慮に、腹の奥底にある臓器を握られたみたいだ。やめろと外から掴んでも、痛みを根本的に和らげることはできない。
「そんなに暴れたら」
「いっ……てぇ……くそっ」
「あーもう!」
病人が暴れればフィルだって嫌になる。同じΩと言えど、鍛えた年月に差がありすぎるせいで、力任せにベッドへ寝かせることはまずできない。儚げで耽美な青年と、筋肉がムチっとついた色黒のおっさんだ。
差は明らかだ。
「ふぅー……ふぅー……」
エリオスは脂汗まで浮いているが、この部屋で寝込むのは本当にごめんなのだ。
主治医の心配もよそに、広すぎるベッドを這うように進む。
さぁ、後は転がり落ちるだけだ、という時にフィルは扉へ声を張り上げた。
「ねぇ!入ってきて、早くっ!」
熱を持つ額によく冷えた布が当てられて、エリオスは意識が浮上する。
(きもちい……)
閉じた瞼の先は、ふんわり灯りを感じている。備え付けられたランプの灯りが、ゆらゆらとエリオスの顔周りを照らしていた。
だけどまだ体はだるくて凄く眠いし、なにより腹の下の方に鈍痛を感じる。
不快感でしかないそれは、悪いものを食べた時の胃痛とは違うようだ。
力の入らない体を支えるのは、スプリングのしっかりとした柔らかいベッドで、ソルグランの自室を思い出させた。
微かな灯りでさえ眩しく感じて、灯りから隠れるように寝返りを打つとふかふかの掛け布団に隠れる。
「リオー……リオったら」
「ぅー……」
あと少しだけ眠りにつきたいと、息を一つ吐く。
聞き覚えのある声が聞こえるが、なんとも億劫だ。
寝かせて欲しいと呻いて応えたが、声の主は大人しく寝かせる気は無いようで、上掛けの上からエリオスの体を揺する。
こっちは具合が良くないってのに随分扱いが荒っぽい。
それでも眠気が勝つほど体力は削がれていて、エリオスはとてもくたびれていた。
「はぁー、仕方ない」
謝罪も何もなしに気持ちのいい上掛けを、勢いよくひったくられた。
火照った体は、外の寒さにブルりと震えて、取られた上掛けを手のひらで探す。
「ぅわっ……さ、さむ」
「はーい、一回起きてー」
「え……っフィル?」
瞼をあげると、そこには白衣をしっかり纏ったフィルが立っていた。
手に布を持っていて、先ほど触れていた正体がフィルからもたらされていたことも知った。
なんでフィルがここに?……そもそもここはどこだ……?
「視界は良し、と」
フィルは頷きながらデスクに向かうと、ランプの灯りを頼りに羽ペンを走らせる。
横顔は真剣そのもので、備え付けの椅子に腰かける姿は、医師の問診のようだ。
すでに暗闇を湛えている部屋だが、エリオスが意識を失っている間にすっかり夜になっていた。
(あれ、俺……なんでこんなことになったんだっけ……確か、変な白衣の男たちに追いかけられて……っ!)
脳裏に浮かんだ記憶。畑の小屋に隠した、大事な小さな友人。
守ろうと思ったのに、非力な自分はその後あっさり捕まった。
エリオスは腕を伸ばすと、記録にかかるフィルの袖を必死に掴んで引っ張った。
「フィルっ、あの子は、マルクは無事なのか!?」
自分がのうのうと寝ている間に、どこかへ売られてやしないか。
あんなにも純粋で可愛い子を守りきれなかったのでは、とすでに悪い顔色が余計に悪くなる。
呼吸すら怪しくなって、袖を掴む手が震えているのも気づかない。
「落ち着いて、マルクはどこにも行ってやしないよ」
「でもザガレスがっ」
「……ザガレスがなんだって?」
自分がこんな状態になるあらましを思い出して、居心地悪く視線をさ迷わせる。
それを目ざとく捉えたフィルに、隠し通せるはずもない。
備え付けのチェアに腰を下ろしたフィル。聞くまでは絶対に動かないぞ、という意思を感じて仕方なしにポツポツと話した。
捕らえられてから、ザルミアンの城で起きたこと。
己が実験材料としてザガレスと番わなければ、代わりに捕らえたマルクを番にすると。
そして無理やりの投与された薬と、狙われたうなじ。まっさらなうなじは無事だが、不安になって思わず手のひらでそこをさすった。
「ふざけんな!あぁ……胸糞が悪い!」
綺麗な顔を歪ませて、怒りのままにベッドへと拳を叩き下ろす。
塞ぎ込むように顔をそこへ埋めると、歯を食いしばって唸った。
小さく見える肩が震えて、エリオスはそこを撫でる。
「マルクは本当に、大丈夫だったんだ……最初から目的は」
「俺か……ならよかった」
小さな子供や、か弱いΩがあんな目に遭うなんて絶対にあってはいけない。
正直今でも身がすくむ思いだが、あれがマルクやフィルだったと思うと生きた心地がしないのだ。
自己犠牲でもなんでもない。本当にそう思う。
これからという若者を守る役目は、年長者にある。
たまたま、自分がお眼鏡にかかったから良いものの、Ωを狙うものはいる。
浮き彫りになった事実は、今後何かしらの対策が練られるだろ。
しかし、そうやって既に終わった事と捕らえているエリオスの言葉を、はいそうですか、と納得できるフィルではない。
何度も拳でベッドを叩きながら、声を掠れさせながら鼻を啜って吐き出した。
「よくない!……よくないんだよぉ」
「フィル」
「友人をっ、失ってしまうところだった!」
唸りながら静かに泣くフィル。なんとか起き上がったエリオスは、格好がつかないながらも上から覆い被さって抱きしめる。
「ごめんなぁ……心配してくれてありがとなぁ」
「当たり前だよ、マルクだって……酷く泣いていたんだ」
「あの子には、随分怖い思いさせちまったよ」
あとで謝らないと、と逡巡する。
フィルはひとしきり泣き終えると、腕で目を豪快に擦って息を吐く。
「リオは……いや、エリオス王子?の方がいいのかな?」
「……そりゃ、バレてるか」
目を赤くしたフィルを見つめて、ポツリと呟く。
運良く、Ωという性だけがバレるわけがない。
潮時かと力無い声が出てしまい、自分でも驚いた。
フィルはベッドに戻るエリオスを覗き込むと、ニヤリとも見える笑みのまま言い切った。
「そりゃあ勿論。抑制剤も絡んでるからね、エリオス王子の主治医に任命されたから……まったく腕がなるよ」
腰に手を当てて言う姿がキマッている。中央薬政官を背負う姿はとても眩しかった。
その逞しさすら感じる佇まいに、エリオスは吹き出して、口をつく。
「俺、リオのままがいいな。案外気に入ってんだ」
「ふふっ、りょーかい」
そう言いながら、慣れた手つきでエリオスの首に指を這わせ脈を見ると、今度はクマの残る下瞼を下げて血色を確認する。
戸惑うことない動きに感心しながら、体から力を抜いた。
「フィルに見て貰えるなんて、心強いなぁ」
「ここに連れてこられたときは酷かったんだから。三日も目を覚さないし」
「三日!?……いっ!……てぇっ」
思わず起き上がって叫ぶと、下腹部がツキりと傷んでうずくまる。
波のあるそれは強く押さえつければマシになった。しかし、マシになった程度でずっと鈍痛はあるから厄介だ。
「あぁ、言わんこっちゃない……」
「これ、俺なんか病気なんか?それとも、あのヤバい薬の副作用か?」
「薬、っていうか……それは」
躊躇いすら見える言い方にエリオスは首を傾げる。なんて説明しようか悩んだフィルは、視線を横へと外した。
上手く説明するには時間が掛かるのかと、布団を取り返して抱きしめる。
ふかふかの触り心地は気持ちがいい。顔を埋めればすぐにでも眠りにつけそうなほど力が抜ける。
あくびまで出てきそうだが、フィルを悩ませている手前グースカネルのもと、なんとか噛み殺す。
……そういえば、自分が寝かされているここはどこなんだ。
宿屋でも無ければ、自分の国の自室でもない。
医務室にあるとは思えないほど、このベッドの寝心地はいい。
(なんかやけに安心すんな……暖かいからか?……いや、甘くて爽やかな……この匂い……っ)
エリオスは弾かれたよう顔をあげると、視線を辺りへとむけた。
暗闇の中で、ランプがぼんやり辺りを照らしている。目を凝らせばやっと慣れてきて、部屋全体を捉えることができた。
青を貴重とした内装に、整頓された本棚とデスク。火はまだ灯っていない暖炉。その上は……よく覚えている。鎧を纏い、小さな剣を持つ動物の置物。可愛らしいその動物の瞳が、ランプの灯りに照らされて光ったように見えた。
以前、勝手に侵入してしまい、あまつさえヒートのような症状を起こした……あの部屋に間違いなさそうだ。
と、言うことは……この部屋の主はっ!?
「な、なんでっ……俺、ここに!?」
エリオスは思わず腹から大きな声がでたが、クラっと目眩がして気づいたフィルに支えられる。
しかし、ここで寝るなんて絶対に許されないともがいてベッドから降りようと足を床へ下ろした。
フィルはこんな時でも至って冷静で、慌てるエリオスの両肩に手を置くと、優しく諭した。
「リオ、落ち着いて」
「だめだ!ここ、ジークハルト様のお部屋じゃねぇか!なんで、俺をっ……ここに寝かせたんだ!?」
「違うよ。この部屋は大丈夫だから」
しかし、エリオスは非常事態だと頭の中でベルが鳴っている。他の番がいるαの寝床で寝るなんて、たとえなんの因果か本人が許しても、エリオスは大の字で寝るほど神経は図太くない。正直、そういう面に関しては、一番臆病で奥手だ。
フィルは何故か有無を言わさない仕草だが、こっちも本気だ。身を捩って嫌だと声だけはなんとか抗議する。
「違くない!だって、この匂い、……ぐぅ……くっ」
加減も忘れて、大きな声を出したところで痛みが鋭くなり、エリオスは体を前屈みにした。耐えるように一点を見つめると短く吐くだけの呼吸を繰り返す。
無遠慮に、腹の奥底にある臓器を握られたみたいだ。やめろと外から掴んでも、痛みを根本的に和らげることはできない。
「そんなに暴れたら」
「いっ……てぇ……くそっ」
「あーもう!」
病人が暴れればフィルだって嫌になる。同じΩと言えど、鍛えた年月に差がありすぎるせいで、力任せにベッドへ寝かせることはまずできない。儚げで耽美な青年と、筋肉がムチっとついた色黒のおっさんだ。
差は明らかだ。
「ふぅー……ふぅー……」
エリオスは脂汗まで浮いているが、この部屋で寝込むのは本当にごめんなのだ。
主治医の心配もよそに、広すぎるベッドを這うように進む。
さぁ、後は転がり落ちるだけだ、という時にフィルは扉へ声を張り上げた。
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