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Ωたちの緊急会議
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「えー、皆さんにお集まり頂いたのは他でもありません」
本や研究資料で散らかったフィルの部屋。
そこの応接用ソファとテーブルだけ何とか綺麗にした一角で、エリオスは立ち上がり片手を上げる。
「ねぇー、前置きはいいんだけどー」
フィルはケーキスタンドに置かれた、生クリームたっぷりのケーキを皿に引き出しながら、片手間に応える。
隣にいるマルクの分も用意してやりながら、ついでのようにナッツのクッキーにもかぶりつく。
「ねぇ!リオおじさん!結局どうなったの!?」
マルクは待てないとキラキラした瞳でエリオスを見つめて、絵本の続きを待つ子供そのものだ。
レオンハルトの部屋で軟禁生活が解かれてすぐに、エリオスはマルクの部屋を訪ねた。
マルクはもう家に帰っても良かったのだが、エリオスが心配だと近くにいてくれたのだ。
エリオスが本当はただの農夫ではなく、ソルグランの王子兼農夫だと伝えるとびっくりしていたのが記憶に新しい。
マルクの期待の眼差しに、耐えかねて身を縮める。
そして何とも頼りない小声でつぶやいたのだ。
「えー……な、何もしていません……」
そんなエリオス招集のもと、緊急Ω会が開かれていた。
フィルはソファにだらしなく背を倒すと、天井に息を一つ吐き出して見せる。
マルクも「えー!」と唇を尖らせた。
「だって仕方ないだろっ、俺まだヒートきてないし、ほらタイミングとかさ」
「ねぇリオ。これ以上レオンを待たせたらどうなるか分からないよ……頭からバリバリ食べられて跡形もないかもね」
脅しにもほどがある。エリオスは生唾をごくりと飲み込み、マルクは悲鳴をあげる。
「ひぇっ……番になる時って、食べられちゃうの?」
縮み上がって自分の体を腕に抱く。幼いΩの子にとって、その話はだいぶ恐ろしいことだ。
フィルはマルクにだけ何とも綺麗な微笑みを向けると、その小さな肩を優しく撫でる。
「マルクは大丈夫。ノアとそのまま仲良くしていれば怖いことなんか何にもないよ」
「ノアとはいつも仲良しだよ!お手紙もね、書いてるし」
少し顔を赤くしてそういうマルクは、本当に可愛らしい。
フィルとマルクの二人には、ジークハルトの真実は伏せてレオンハルトと“運命の番“だったことを伝えた。
しかし、それだけで「はい、そうですか。お幸せに」とはならない二人だ。
フィルはエリオスの主治医であるし、マルクは親友だ。
そして二人の行く末を一番に心配していたのも知っている。そうして設けた場であるが、エリオスの奥手ぶりが発揮されて何の進歩もない。
フィルは豪快にティーカップを掴むと、グッと飲み干した。
空になったカップをエリオスに突きつけて、確認するように口を開く。
「ちゃんと一緒のベッドで寝てるんだよね?」
「お、おう……毎日、ちゃんとフェロモンも浴びてるぞ」
「……で、“触れ合いは”?」
「……何だそれ?」
「あ゛ー!」
フィルは思わず変な声をあげると、カップを置いて頭を掻きむしる。
口の中にクッキーを押し込んでやることも忘れずに、用意周到にマルクの耳をしっかり塞いでから、フィルは話し出す。
「レオンに体を触ってもらったり……ほら、出したりだよ」
「さっ!?……だっ!?」
「舐めたりはしてる?体液の経口摂取は、フェロモンが特に濃く体に入るからいいんだよね……」
「待ってくれ。それってヒートの時に、番同士がやることだよな?」
頭が飛びそうな話に目を向くが、フィルはなんてことないと言った口ぶりだ。
番同士が行うことだと言っても、エリオスは到底自分ができるとは思えない。
以前あったミルデ山での触れ合いは、緊急事態だからこそできたことで、頭がはっきりしている今「やれ!」と言われても出来る気がしない。
性的な知識から逃げてきた影響がまたも顔を出す。しかし、フィルは慈悲など見せてくれる素振りもない。
「何言ってるの。まだ番ってなくても、うなじを噛む前にやることの一つでしょうが。前戯の範囲だよ」
「ぜ、前戯……っ?で、でも!ヒート、まだきてないし……」
「毎日フェロモン浴びてるんだよ?遅かれ早かれ、もうすぐヒートが来るよ」
あの熱くて、レオンハルトのことしか考えられない感覚が……またやってくるって?
マルクは、顔を青ざめさせているエリオスに気づいて、何も聞こえないながらに手を握ってくれた。
子供特有の温かさに、ホッとするも、子供に慰められている自分の状況は笑えない。
しかし、今のうちからしか聞けることはないのだ。エリオスは縋るようにフィルを見つめた。
「俺……き、キスすら!全然してないんだぞっ?」
「レオンはなんの修行をしているの?……流石に可哀想になってきた」
友人の忍耐に心の中で合掌するフィルだが、その我慢を強いられている相手が純粋無垢すぎる。
フィルは頭を抱えたくなるが、それ以上に慌てている人間が横にいると、冷静にならなければとスイッチが入る。
エリオスの口にクッキーを突っ込んだフィルは、とりあえず不安で仕方ない口を黙らせた。
「キスしてなくてもくる。いい加減腹括って、ガブっとやられちゃえ」
フィルの男気溢れる助言は、エリオスには刺激が強すぎたようだ。
顔を覆ったエリオスは、思わず声に出して「助けてくれ……っ」と呟いていた。
「えー、皆さんにお集まり頂いたのは他でもありません」
本や研究資料で散らかったフィルの部屋。
そこの応接用ソファとテーブルだけ何とか綺麗にした一角で、エリオスは立ち上がり片手を上げる。
「ねぇー、前置きはいいんだけどー」
フィルはケーキスタンドに置かれた、生クリームたっぷりのケーキを皿に引き出しながら、片手間に応える。
隣にいるマルクの分も用意してやりながら、ついでのようにナッツのクッキーにもかぶりつく。
「ねぇ!リオおじさん!結局どうなったの!?」
マルクは待てないとキラキラした瞳でエリオスを見つめて、絵本の続きを待つ子供そのものだ。
レオンハルトの部屋で軟禁生活が解かれてすぐに、エリオスはマルクの部屋を訪ねた。
マルクはもう家に帰っても良かったのだが、エリオスが心配だと近くにいてくれたのだ。
エリオスが本当はただの農夫ではなく、ソルグランの王子兼農夫だと伝えるとびっくりしていたのが記憶に新しい。
マルクの期待の眼差しに、耐えかねて身を縮める。
そして何とも頼りない小声でつぶやいたのだ。
「えー……な、何もしていません……」
そんなエリオス招集のもと、緊急Ω会が開かれていた。
フィルはソファにだらしなく背を倒すと、天井に息を一つ吐き出して見せる。
マルクも「えー!」と唇を尖らせた。
「だって仕方ないだろっ、俺まだヒートきてないし、ほらタイミングとかさ」
「ねぇリオ。これ以上レオンを待たせたらどうなるか分からないよ……頭からバリバリ食べられて跡形もないかもね」
脅しにもほどがある。エリオスは生唾をごくりと飲み込み、マルクは悲鳴をあげる。
「ひぇっ……番になる時って、食べられちゃうの?」
縮み上がって自分の体を腕に抱く。幼いΩの子にとって、その話はだいぶ恐ろしいことだ。
フィルはマルクにだけ何とも綺麗な微笑みを向けると、その小さな肩を優しく撫でる。
「マルクは大丈夫。ノアとそのまま仲良くしていれば怖いことなんか何にもないよ」
「ノアとはいつも仲良しだよ!お手紙もね、書いてるし」
少し顔を赤くしてそういうマルクは、本当に可愛らしい。
フィルとマルクの二人には、ジークハルトの真実は伏せてレオンハルトと“運命の番“だったことを伝えた。
しかし、それだけで「はい、そうですか。お幸せに」とはならない二人だ。
フィルはエリオスの主治医であるし、マルクは親友だ。
そして二人の行く末を一番に心配していたのも知っている。そうして設けた場であるが、エリオスの奥手ぶりが発揮されて何の進歩もない。
フィルは豪快にティーカップを掴むと、グッと飲み干した。
空になったカップをエリオスに突きつけて、確認するように口を開く。
「ちゃんと一緒のベッドで寝てるんだよね?」
「お、おう……毎日、ちゃんとフェロモンも浴びてるぞ」
「……で、“触れ合いは”?」
「……何だそれ?」
「あ゛ー!」
フィルは思わず変な声をあげると、カップを置いて頭を掻きむしる。
口の中にクッキーを押し込んでやることも忘れずに、用意周到にマルクの耳をしっかり塞いでから、フィルは話し出す。
「レオンに体を触ってもらったり……ほら、出したりだよ」
「さっ!?……だっ!?」
「舐めたりはしてる?体液の経口摂取は、フェロモンが特に濃く体に入るからいいんだよね……」
「待ってくれ。それってヒートの時に、番同士がやることだよな?」
頭が飛びそうな話に目を向くが、フィルはなんてことないと言った口ぶりだ。
番同士が行うことだと言っても、エリオスは到底自分ができるとは思えない。
以前あったミルデ山での触れ合いは、緊急事態だからこそできたことで、頭がはっきりしている今「やれ!」と言われても出来る気がしない。
性的な知識から逃げてきた影響がまたも顔を出す。しかし、フィルは慈悲など見せてくれる素振りもない。
「何言ってるの。まだ番ってなくても、うなじを噛む前にやることの一つでしょうが。前戯の範囲だよ」
「ぜ、前戯……っ?で、でも!ヒート、まだきてないし……」
「毎日フェロモン浴びてるんだよ?遅かれ早かれ、もうすぐヒートが来るよ」
あの熱くて、レオンハルトのことしか考えられない感覚が……またやってくるって?
マルクは、顔を青ざめさせているエリオスに気づいて、何も聞こえないながらに手を握ってくれた。
子供特有の温かさに、ホッとするも、子供に慰められている自分の状況は笑えない。
しかし、今のうちからしか聞けることはないのだ。エリオスは縋るようにフィルを見つめた。
「俺……き、キスすら!全然してないんだぞっ?」
「レオンはなんの修行をしているの?……流石に可哀想になってきた」
友人の忍耐に心の中で合掌するフィルだが、その我慢を強いられている相手が純粋無垢すぎる。
フィルは頭を抱えたくなるが、それ以上に慌てている人間が横にいると、冷静にならなければとスイッチが入る。
エリオスの口にクッキーを突っ込んだフィルは、とりあえず不安で仕方ない口を黙らせた。
「キスしてなくてもくる。いい加減腹括って、ガブっとやられちゃえ」
フィルの男気溢れる助言は、エリオスには刺激が強すぎたようだ。
顔を覆ったエリオスは、思わず声に出して「助けてくれ……っ」と呟いていた。
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