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第二章
【真実斬り】は斬ることができない
しおりを挟む呪われた子。
それが、幼少期の護国寺嗣郎を表す言葉だった。
呪いと言われる元となった異能は最近になって言霊と呼ばれているのだと知ったが、当時は当人さえ呪われているのだと考えていた。彼にとっては当たり前で、周りが欠けているのだと信じていたけれど、他ならぬ両親から「呪われている」と忌避されたから、きっとこれは呪いなのだと思った。
小さな病院で生まれた護国寺は、その時から既に言霊を手に入れていた。しかし直後、その病院は原因不明の火災によって焼失した。今になって思うと、あれは恐らく自分の言霊によるものなのだろう。炎を扱う力が彼にはあった。
周囲の人々が苦しむ中で、取り残されていた彼だけが無傷だった。言霊は基本的に主を傷付けない。自分の炎では決して傷付かない。その生還を近所の人は奇跡と讃えたが、それ以後も不思議な現象は止まらなかった。
保育園に上がって、ちょっとした喧嘩をしたことがある。他愛ない内容だったはずだ。その時護国寺は相手に深い切り傷を負わせてしまった。刃物類はなかったものの、結局その子は五針縫う怪我を負った。
当時は言霊の制御なんて覚束なかったから、軽いボヤ騒ぎがしょっちゅうあった。それが護国寺の立ち寄る先々で起こった。次第にそれは噂となり、幼くして放火魔ではないかと疑いの目で見られるようになった。
――――決定的だったのは小学校中学年の時。その頃には自分の異能に気付き、危なげながらも何とかコントロールできるようになっていた。だが少しでも平静を乱すとすぐにタガが外れてしまう。そのせいで彼は一人を焼死させかけたのだ。
キッカケはある上級生に友人が苛められていた現場を見たこと。堪らずやめるよう訴えかけたもののいじめっ子は聞く耳持たずで、ついカッとなってしまった際にその内一人に言霊能力で火を放ってしまったのだ。
火はその生徒の衣服に燃え移り、酷い火傷の痕が残った。犯人として無論護国寺が疑われたが、ライターなどの火器類を持っていなかった彼には不可能だと判断され、御咎めなしとなった。それはそうだ、目撃者がいくら「護国寺が睨み付けたら炎が上がった」なんて言われて、信じる大人はいない。
この件で護国寺は『呪われた子』となった。罰せられなくても、危険な子どもだという風潮は地域中に流れ、彼に近寄る者は誰もいなくなった。
しかし当時、最も辛かったのは両親だったことだろう。父は職場でもその噂のせいで浮いた存在となり、母は近所の人から避けられるようになって自宅に石を投げ込まれることさえあった。日に日に両親が疲弊していったのを、今でも鮮明に覚えている。
護国寺にとって両親は幸せの象徴であった。共に団欒の時を過ごし、休日は良く遊びに連れて行ってもらった。他人に誇れる両親であったことは間違いない。それは現在でも変わりはない。
――――けれど、そういった生活に耐えられなくなった両親は、息子を置いて家を出て行ってしまった。小学校五年生の頃だった。
家をそのまま明け渡してくれたことや、当分の生活費を残していってくれたことは最後の親としての矜持だったのか。それがなければ呪われた子が親戚に拾われることなどあったはずがないので、今まで生きていくことはできなかったであろう。
それからというもの、彼は努めて地味に生きてきた。呪われた力は金輪際使わずに生きていこうと心に決めた。中学生になってからはバイトをするようになったので、仮初の充実感を得ることができた。
そして時が経つにつれて、護国寺の存在は周囲から忘れられるようになっていった。離れた高校に通うことにしたので、クラスメイトに彼の過去を知る者はいなかった。
必死な思いで生きてきて。
罪悪感を覚えながら生きてきて。
過去の呪縛から解き放たれたと思っていた護国寺は、そこでようやく気が付いたのだ。
――――自分は罰せられなければならない、と。
責めてくれる人がいなければ、反省することもできない。過ちをどう正してよいか分からないままだ。本来それを与えてくれる両親が、最もいてほしい時に彼の傍にはいなかった。
未だに「いつか帰ってきてくれるんじゃないか」という期待が残っている。時折料理を作り過ぎてしまう時があって――ふと三人分の料理をテーブルに並べてしまう時もある。
怒ってほしい。
外れた道を正してほしい。
ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい――――
願わくば早く。でなければ、自分はあなたたちの顔を忘れてしまう。たまに夢で振り返る際に、顔がぼやけて見えなくなる瞬間があるのだ。こんなことなら、しっかり目に焼き付けておけばよかったと後悔する。
どうしようもない自分は、どうしようもないくらいに弱いままだった。
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