人類を救うことを決意したんだが、敵がチート過ぎてつらい

名無なな

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第三章

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 ごっ! と、打撃音とともに『ムサシ』の身体は大きく吹き飛んだ。


 護国寺は目の前で起きたことを正確に捉えていた。割り込むようにして、『彼女』が男の顔面へ蹴りを放ったのだ。無防備なところへ食らってしまった『ムサシ』は、耐えた先で護国寺の顔を見つめていた。

「まだ隠し玉があったか……! 【地】か、それとも【林】か。人間相手とはいえ少し侮り過ぎたかな」

 どうも相手は今の一撃を護国寺によるものだと勘違いしているようだ。つまり、『ムサシ』には『彼女』を知覚できていないということである。


(まさか……これが『彼女』の言霊?)


 つかつか、と『彼女』は足音を立てながら、まるで買い物をするような自然体で男に歩み寄っていく。さすがにそれは危険だ、と呼び止めようと手を伸ばすが、『彼女』は彼の方を向いて唇に人差し指を押し当てた。見ていなさい、と。

「だがそれもここまでだ。私が少し本気を出せばキサぶごぉ!?」

 セリフの最中に『彼女』は無言の腹パンをお見舞いする。男の身体がくの字に折れて、ヨロヨロと後ずさりする。
 視えない攻撃、その仕掛けを見破らんとして『ムサシ』は護国寺を睨み付ける。――――が、不意にハッとした顔になって、

「……先の攻撃、確かに殴打された感覚があった。初撃はまだしも、二撃目は間合いからしてあり得ない位置からだった……。言霊なら考えられるが、【風林火山】には該当していないはず。ならば、もう答えは出ているではないか――――」

 男は無作為に言葉を投げつける風に、腹の底から声を引き上げて叫んだ。



「――――いるのだろう!? 【否定姫】!」



『彼女』――――綴町京子は、すぐには答えず沈黙を保っていた。そう、護国寺を助けたのは他ならぬ【十二使徒】の一角である【否定姫(つづらまち)】であったのだ。護国寺からは視えているものの、『ムサシ』からは視えていないらしく、辺りを注意深く窺っていた。
 やがて彼女は観念した風に首を横に振って、

「……ここにいるわよ。新入りさん?」
「ふん、やっと姿を見せたか。知識として【否定姫】の仔細を把握していなければ、思い当たることもなく虐殺されていただろうよ」
「気付かないあんたが悪いのよ。なに、さっきの。たかだかボティー食らった程度で情けない呻き声」
「不意を打っているという自覚が貴様にもあるのだろう? そもそも貴様、どういうつもりだ? 何故私に危害を加えた」

 二人は仲間であるはずにもかかわらずギスギスしていた。犬と猿だってもう少し仲が良いだろう。だがその事情は分かる。綴町が『ムサシ』の邪魔をした挙句、攻撃まで加えたからだ。
 落ち着いて会話しているように見えて、実のところ互いに導火線を握り合っている状態だ。いつ起爆しても不思議はない。むしろ一応会話が成立していることの方が驚きだ。

『ムサシ』が刀を無造作に構えて、

「【否定姫】、これはつまり裏切りと捉えて良いのだな? そこな少年を庇い立てた、とそう判断しても」
「好きになさい。ただ裏切りというのは癪に障るわね。私はただ同族意識に縛られているだけで、あんたたちを仲間だなんて思ったことはないわ。だって、名前も顔も知られていない連中のことを、どうして仲間だと思えるのかしら?」

 ちら、と綴町は護国寺に目をやった。急に見られても困るわけで、彼は仕方なしにぎこちないウインクを返した。プイとそっぽを向く彼女。傷付く。
 ちりちりと身の焼ける雰囲気が場を支配していた。その中でなお滾るほどの怒りを『ムサシ』は滲ませながら、

「所詮は誰からも愛されぬ存在……、無に等しい存在であったか。これで裏切りは確定した、後日貴様には裁定が下るだろうが――――その前に、貴様が助けようとしたそこの人間を始末しておこう」

 敵意の対象が綴町から護国寺へと移り変わる。っ、と小さく唇を噛む護国寺。今の状態では到底勝ち目がない。かと言って逃げるための脚も残っていない。
 どうするべきか、と頭を悩ませていると、またもや綴町が彼を守るべく立ち塞がる。

「……どういうつもりだ? 知らんわけではなかろう、『【十二使徒】は必ず二人以上で戦ってはならない』と。それは敵同士になろうとも同じこと。つまり貴様は絶対に私と戦うわけにはいかないのだ。破れば、相応のペナルティが下る」
「そっちこそ、頭が固すぎるんじゃない? そもそもあんたはまだ正式な【十二使徒】じゃないでしょうに」
「…………何?」

 ぴく、と男の動きが止まる。痛い所を突かれた、といった感じだった。
 対して綴町はひどく冷静な様子である。何故か、と一瞬考えたがそれもそのはず。【否定姫】としての彼女は、少なくとも先ほどムサシに憑依したこの【十二使徒】よりも先輩なのだから。


「だってそうでしょう? あんた、まだ地球(はは)から神名すら授かっていない状態で、だから【十二使徒】としての名乗りも上げられていない。名乗るべき名前がない、早とちりな赤ん坊だものねえ」
「貴様……っ!」


 あからさまな挑発に男がわなわなと震える。今にも突進してきそうな雰囲気だ。それを誰よりも感じ取っているはずの綴町は、しかし平静を崩さない。

「つまりここで私があんたと戦おうと、何ら誓約には触れないってワケ。お分かりかしら?」
「……。ならば護国寺ごと斬って捨てても構わん、ということでもあるな」

 綴町はしばし無言だった。

 拙い、と護国寺は考える。彼女の実力のほどは確かではないが、少なくとも『ムサシ』の実力は相当なものだ。【一刀両断】の力は膨大な霊力量によって底上げされており、剣技にも素人さは感じられない。ある程度技術も残しているのだろう。

(それだけじゃない。ムサシさんほどの剣の冴えを、この男は持っていない。なのにまるで自分の手足のように刀を扱いやがる……。何かある。きっと、俺がまだ知らない何かをこいつは持っているんだ)

 それが分からなければ勝ち目はない。分かったとしてもそれを突破できる力量がなければならない。【兵隊王】とは違った意味で難敵だ。

 ――――しかし、護国寺の不安をよそに綴町は、心底くだらなさそうにして言う。



「まさかあんた、私に勝てるとでも思ってるの?」



 近くで見ていた護国寺の喉が干上がる。刃物のような殺気とは違い、まるでブラックホールかのような、得体の知れない恐怖に身体が震えたのだ。
 そしてそれは、直面している『ムサシ』の方が強烈に感じていたであろう。さしもの【十二使徒】も、気圧された風な表情に染まる。

「いいかしら? 私は、今回だけあんたを見逃してあげると言っているのよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・? 別にここであんたを屠るのは簡単だけれど、ね」
「……言ってくれる。貴様の行動はタブーに触れる恐れがある、だから怖気づいているだけだろう」
「どうとでも。だけど、これだけは言っておくわ。――――その刀を一度でも私たちに向けたら、あんたの存在そのものを消滅させてあげるから……忘れないようにね」

 行きましょう、と彼女が護国寺に手を伸ばした。彼は困惑しながらも手を取り、綴町に先導される形でこの場を離れていく。一度『ムサシ』の方を見やったが、男は悔しそうに唇を噛みながら、一歩も動くことができずに立ち尽くしていた。

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