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「ったく、手間取らせやがって。大人しくしてたら俺も優しくしてやれたのにさ。これ、自業自得だからな?」
目の前が何も見えない。さっき殴られたお腹が気持ち悪い。口がガムテープで塞がれているせいで、鼻から嘔吐しそうだった。
今、どう言う状況なんだろう。まったく分からない。ただ聴こえてくるのは、誠司の声。
さっき私はサークルの部室を出たところで、誠司に見付かった。そのまま、「響くんが探してたし謝りたい」って言ってたから、ノコノコついていってしまった。ちょっと考えれば、この人が謝罪なんてするわけがないのに。そうしたらどこか奥に引きずり込まれて、そのまま拘束され引き摺られている。抵抗しても、意味なんてなかった。
「部屋、大変な事になってんだよ。お前がいなくなってから。あと、飯も食いたい……お前が作ったやつ」
今ここはどこなんだろう、全然分からない。この日が照っている感じ、もしかすると駐車場か。他の車のエンジン音も聞こえてくる。時折私を引っ張ったり押したりするのも、見つからないようにしているのかもしれない。
「あんな遊びの浮気なんか、忘れろよ。お前のも許してやるから」
どういう意味か、分からなかった。すると急に、誠司の足が止まった。
「なんで、ここにっ」
その声が聞こえて、同時に鈍い音。そして、反対側に重力。
「灯ちゃん」
優しい、声。それは、この人なんかと全然違う。口のガムテープが、優しく剥がされた。
「響くん?」
同時に響く、鈍い音。でも響くんはここにいる。響は「ごめん、目はあとで」って言って抱きしめてくれた。
「ごめん、遅くなって。怖かったよね」
「う、う……」
その声にひどく安心してしまって、泣いてしまった。そんな私の背を、強く抱いてくれる。その奥で、音はまだ続いていた。でも、響くんが声を上げる。
「焔くん、もういいよ!」
音が止んだ。でも、代わりに「まだ生きてる」とドスの利いた声が聞こえた。それが自分の弟の声だって気付くのに、少し時間がかかった。
「それ以上やると正当防衛越えるから!」
「理由それなんだ、にいちゃんも容赦ないね」
やっと、目隠しが外された。目の前には、泣きそうな顔をした響くん。振り返れないように、強く抱きしめてくれていた。
「なんで分かったの……」
「その、灯ちゃん探してたら……焔くんのファンの子が男の人が焔くんに似てる女の人殴ってるって教えてくれて。そこから急いで来た」
響くんはずっと私の背を撫でてくれていた。こんな事、あの人なら絶対してくれない。そんな比較をしてしまう事にも自己嫌悪を感じてしまった。
焔の方から「もういいよ」と声が聞こえる。恐る恐る向くと、誠司はしっかり縛られていた。
「これでそうそう抜け出せないはず。とりあえず通報もしてもらってるし、待とうか」
そう言って焔は誠司の上に腰掛けた。響くんは私の頭をひと撫でして、そっと離れた。そのまま、誠司の前にしゃがみ込む。
誠司は荒い息のまま、唸っていた。
「灯は……俺のなのに!お前が、お前が!」
そんな誠司を、響くんは見たことない冷たい顔で見つめていた。そしてそっと、呟いた。
「灯ちゃんがお前の事を好きだって、お前といて幸せだって。そう言えるなら、身を引く覚悟があるよ」
それを聞き、私は息を飲んだ。響くんは続ける。
「でも、お前にはないだろ。灯ちゃんが幸せになれるようにする覚悟。そんなやつの元に、俺は灯ちゃんにはいてほしくない」
その言葉は、とても熱くて重かった。
目の前が何も見えない。さっき殴られたお腹が気持ち悪い。口がガムテープで塞がれているせいで、鼻から嘔吐しそうだった。
今、どう言う状況なんだろう。まったく分からない。ただ聴こえてくるのは、誠司の声。
さっき私はサークルの部室を出たところで、誠司に見付かった。そのまま、「響くんが探してたし謝りたい」って言ってたから、ノコノコついていってしまった。ちょっと考えれば、この人が謝罪なんてするわけがないのに。そうしたらどこか奥に引きずり込まれて、そのまま拘束され引き摺られている。抵抗しても、意味なんてなかった。
「部屋、大変な事になってんだよ。お前がいなくなってから。あと、飯も食いたい……お前が作ったやつ」
今ここはどこなんだろう、全然分からない。この日が照っている感じ、もしかすると駐車場か。他の車のエンジン音も聞こえてくる。時折私を引っ張ったり押したりするのも、見つからないようにしているのかもしれない。
「あんな遊びの浮気なんか、忘れろよ。お前のも許してやるから」
どういう意味か、分からなかった。すると急に、誠司の足が止まった。
「なんで、ここにっ」
その声が聞こえて、同時に鈍い音。そして、反対側に重力。
「灯ちゃん」
優しい、声。それは、この人なんかと全然違う。口のガムテープが、優しく剥がされた。
「響くん?」
同時に響く、鈍い音。でも響くんはここにいる。響は「ごめん、目はあとで」って言って抱きしめてくれた。
「ごめん、遅くなって。怖かったよね」
「う、う……」
その声にひどく安心してしまって、泣いてしまった。そんな私の背を、強く抱いてくれる。その奥で、音はまだ続いていた。でも、響くんが声を上げる。
「焔くん、もういいよ!」
音が止んだ。でも、代わりに「まだ生きてる」とドスの利いた声が聞こえた。それが自分の弟の声だって気付くのに、少し時間がかかった。
「それ以上やると正当防衛越えるから!」
「理由それなんだ、にいちゃんも容赦ないね」
やっと、目隠しが外された。目の前には、泣きそうな顔をした響くん。振り返れないように、強く抱きしめてくれていた。
「なんで分かったの……」
「その、灯ちゃん探してたら……焔くんのファンの子が男の人が焔くんに似てる女の人殴ってるって教えてくれて。そこから急いで来た」
響くんはずっと私の背を撫でてくれていた。こんな事、あの人なら絶対してくれない。そんな比較をしてしまう事にも自己嫌悪を感じてしまった。
焔の方から「もういいよ」と声が聞こえる。恐る恐る向くと、誠司はしっかり縛られていた。
「これでそうそう抜け出せないはず。とりあえず通報もしてもらってるし、待とうか」
そう言って焔は誠司の上に腰掛けた。響くんは私の頭をひと撫でして、そっと離れた。そのまま、誠司の前にしゃがみ込む。
誠司は荒い息のまま、唸っていた。
「灯は……俺のなのに!お前が、お前が!」
そんな誠司を、響くんは見たことない冷たい顔で見つめていた。そしてそっと、呟いた。
「灯ちゃんがお前の事を好きだって、お前といて幸せだって。そう言えるなら、身を引く覚悟があるよ」
それを聞き、私は息を飲んだ。響くんは続ける。
「でも、お前にはないだろ。灯ちゃんが幸せになれるようにする覚悟。そんなやつの元に、俺は灯ちゃんにはいてほしくない」
その言葉は、とても熱くて重かった。
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