勇者の妹ですが、病弱で死んでしまったら魔王が求婚して生き返らせてくれました!

かぎのえみずる

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龍の忘れ物編

第二十八話 閉じ込められた!

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 ミディ団長は私の手を引っ張り、引きずるようにして逃げるが、このままでは追いつかれかねない。
 私は大声で、従者の名を呼ぶ。
「ラクスター! いるんでしょう!? 騒ぎ好きの貴方のことだから聞いていたでしょう?! 足止めして!」
「あいよ、奥様!」

 窓から風がぶわっと一気に流れ込んで、窓が強制的に開く。
 そこから現れたのは、翼を現したラクスター。
 ゼロを前にして、にやにやと笑って、剣を構える。

「奥様のためならなんとやら、ってな」
「冗句はいいからあの人を止めて、冷静じゃないから!」
「そりゃあそうさ、魔王はお前への思いを否定されたからそら傷つく。この場は任せて良いから、後でお前も謝れよ奥様。魔王と喧嘩なんて本意じゃないだろ」
「だって!」
「だって、じゃねーの、ほら今は逃げとけ!」
「ラクスター君、恩に着るね! 行こう、奥様!」

 どたばたと私達が逃げた後で城の一角で爆破音が聞こえたから、ラクスターの大筒が使われたのかなと予感した。
 私とミディ団長は倉庫に隠れ、ぜえはあと休憩することにした。

「も……なん、で……魔王様、ゼリアに肩入れしすぎだね……」
「ミディ団長も何でそんなに頑なに拒むんですか、好きではないとはいえ」
「…………僕はだね、大昔に、恋人を亡くしたんだね。それ以来、あまり恋のこの字だけでも身震いがしてしまってね。勿論、恋人とは運命的な出会いをしたんだね!」
「どうして、恋人さんはお亡くなりに?」
「あー……人間の子供に肩入れしすぎたんだね。それで、騙されて毒入り団子を食べて、ころっとね」
「……ミディ団長」
「ああ、昔のことだし、奥様とは違う人間だと分かっているから、君は謝罪してはいけないよ。君は君のことにだけ、頭を使うんだね」
「……はい。だから子供も苦手なのですか?」
「いや、子供は元から苦手でね。とくに我が儘を言いすぎるところが好きではなくてね」
 くく、と笑いながらミディ団長はポケットから葉巻を取り出すと、葉巻の先を噛み千切り、そこへ火を点した。
 噛みちぎった葉巻の先は、もぐもぐと食べ咀嚼している。人間では絶対に真似できないことだ。

「奥様こそいいのかね、僕を庇った所為で魔王様ご乱心だね」
「いけないことを押し進める人は嫌です」
「っはは、君にかかれば魔王様も形無しなんだね……あの子を思い出すなあ。死んだ恋人を」
「似てますか、私?」
「まるっきし似てるわけじゃあないのに、優しさの形だけは似てるから不思議だ。奥様は魔王様がお好きかね?」
「……その……」
「応えづらいか、ならね、大事にしたい人かね?」
「はい! それは、勿論。とてもとても大事です」
「だとしたら、お願いがあるんだね。……奥様は出来るだけ、我が儘を言うようにしたほうがいいよ」

 私の不思議そうな視線に、ミディ団長は微苦笑した。

「可愛いおねだりもないと、自信をいつしかなくすからね。欲しいのはお人形みたいにいいこにしてる貴方じゃない。きっと、魔王様は何から何まで貴方様が欲しいのだろう。だからね、何か押し隠してる望みが出来たら、すぐに強請ると良い」

 ミディ団長の言葉に私は小さく微笑んで頷くと、ミディ団長は「イイコだ」と笑って倉庫を出ようとした。
 しかし、倉庫の扉は開かない。どうして? さっきまで開いていたのに。

「外から誰かが鍵をかけたね!? くそっ、なんで……」
「扉は蹴破れないのですか?」
「この倉庫は装備も置いてあるから、鍵代わりの魔方陣をやたら強固にしているのだね、くそっ。誰かが来るまで待つしかないね」
 私が顔を曇らせると、ミディ団長はよしよしと私を撫でてくれた。

「すぐにあの魔王様なら気づいてくれるね、他でもない代理の出来ないお嫁さんのことだね」

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