50 / 88
畏れた心の在処編
第五十話 魔物の美しさに心奪われた王子
しおりを挟む
城の中をメイドさんに案内され客室を目指している途中で、見るからに王子様の出で立ちの人、二人が通路に立っていた。
二人とも金髪に青目という見事なまでに、物語に登場しそうな絵に描いた美形である。
煌びやかな衣装を翻し、私達と近づくと片方の王子様はシラユキの腕を取ったので私達は驚いて足を止める。呆然としているともう片方の王子様は今度は私の腕を取った。
「随分と美しい魔物だ」
「お離しください」
「殿下その方達は大事な使者です、お離しを」
「そう騒ぐな勇者よ。私は真剣に驚いているのだ、このように美しい魔物に会ったことがない。其方の噂の妹君も可憐だが、此方の水色の髪をした魔物は妖艶だ。それでいて下品さや媚びがなく、高潔としている。今も王子である私に、牙を剥きそうな睨みを効かせている。実に、不思議な気分だ」
「兄上、此方の噂の妹君も実に可愛らしい。私の体温で溶かしてぐずぐずにさせたらどうなるか気になる程だ。儚さも秘めていて、守りたくなる顔をしている」
私とシラユキは困ったように視線を交わした。
要するに、王子二人はそれぞれ私とシラユキに興味があるらしい。
真っ先に動いたのはラクスターだった。いつもの大筒は私を口説く王子に照準をあてる。兄様はシラユキを庇い、シラユキを背に隠す。
「堕天使が脅してくるぞ、兄上。っはは、希有な体験だ」
「今は殺せないってこと分かった上でのちょっかいだろ、離せよ、その汚い手を退けろ。うちの魔王の奥様だぞその方は」
「やれやれ、悲しいな。口説きたいのに人の物とは」
私を口説いていた王子は私を諦めたようだったが、シラユキを口説いていた王子は様子が違う。
兄様とにらみ合っている。
「勇者よ、そこを退いてくれないか。美しい顔を堪能したいのだ」
「この方は男性にとんと疎くてね、殿下が見つめるだけで震えてしまうようなか弱い方なのです」
「なるほど、それならば引くが、……気に入ったな。妾にしたいくらいだ」
「……ご冗談を」
兄様も王子様も視線が笑っていなかった。
こほんと咳払いが私を口説いていた王子様からされて、改めて自己紹介をされた。
「私はアルベルトだ、此方は私の兄上であるジェネットだ」
「……ええと」
「名前を教えてくれ、可憐な人」
「…………ウルシュテリアです」
「素敵な名前だ、確か四年に一回だけ咲く花の名前だったね。そちらの魔物の方の名前は?」
「シラユキですわ、此方の堕天使はラクスター。とても乱暴者ですから、うっかりと何か粗相をしでかすかもしれませんわね。私達に何かするのであれば」
シラユキの目は警戒に満ちていた。
兄様の背中の衣服を掴んで、ほんの少し威嚇していた。
そこがまた猫のようだと捉えたのか、ジェネットは嬉しそうにシラユキを見つめる。
「アルベルト、気に入ったぞ! シラユキを、私の妾にできないか父上に頼もう」
「あら、私には直接伺わないのですか。ふられるのがわかりきってるから?」
「いいや、お前の意思がどうであろうと父上が言えばお前は断れないからだよ、シラユキ。人間と魔物の友好の証となるだろう?」
「……本当に。まったく。……私、失念しておりましたわ。それはそれは幸せな環境で、人間に接してもギルバートやウル様みたいな御方ばかりだったから、ゲスな人間がいるということを忘れておりました。人間の王からは既に条件は出たのでそこには追加条件は認められませんわ。それ以上をお望みであれば、貴方という個でご来訪くださいますよう。きっぱりお断りしてさしあげますから。失礼遊ばせ」
にこりと冷ややかな笑みに私もラクスターも、シラユキがかつてないほどに怒っているのだと分かった。
あまりの氷の微笑にアルベルトは固まり、ジェネットは言葉を失って唖然としていたがすぐにぎらついた目になる。
それでも無視して私達は部屋に向かおうと歩くと、ジェネットは後ろから声をかけてきた。
「私は諦めないぞ、シラユキ」
「叶わない思いでも宜しければご自由に……物好きな御方」
冷ややかな声に、兄様への声色とだいぶ違うと改めて再確認する。
兄様は自分との落差に、少しだけ浮かれ、シラユキの手を繋いで歩く。
少しだけジェネットに振り返って、すまなさそうに笑いかけてから改めて兄様はシラユキを見つめるとシラユキは兄様の手に対しては柔らかに微笑んでいた。
二人とも金髪に青目という見事なまでに、物語に登場しそうな絵に描いた美形である。
煌びやかな衣装を翻し、私達と近づくと片方の王子様はシラユキの腕を取ったので私達は驚いて足を止める。呆然としているともう片方の王子様は今度は私の腕を取った。
「随分と美しい魔物だ」
「お離しください」
「殿下その方達は大事な使者です、お離しを」
「そう騒ぐな勇者よ。私は真剣に驚いているのだ、このように美しい魔物に会ったことがない。其方の噂の妹君も可憐だが、此方の水色の髪をした魔物は妖艶だ。それでいて下品さや媚びがなく、高潔としている。今も王子である私に、牙を剥きそうな睨みを効かせている。実に、不思議な気分だ」
「兄上、此方の噂の妹君も実に可愛らしい。私の体温で溶かしてぐずぐずにさせたらどうなるか気になる程だ。儚さも秘めていて、守りたくなる顔をしている」
私とシラユキは困ったように視線を交わした。
要するに、王子二人はそれぞれ私とシラユキに興味があるらしい。
真っ先に動いたのはラクスターだった。いつもの大筒は私を口説く王子に照準をあてる。兄様はシラユキを庇い、シラユキを背に隠す。
「堕天使が脅してくるぞ、兄上。っはは、希有な体験だ」
「今は殺せないってこと分かった上でのちょっかいだろ、離せよ、その汚い手を退けろ。うちの魔王の奥様だぞその方は」
「やれやれ、悲しいな。口説きたいのに人の物とは」
私を口説いていた王子は私を諦めたようだったが、シラユキを口説いていた王子は様子が違う。
兄様とにらみ合っている。
「勇者よ、そこを退いてくれないか。美しい顔を堪能したいのだ」
「この方は男性にとんと疎くてね、殿下が見つめるだけで震えてしまうようなか弱い方なのです」
「なるほど、それならば引くが、……気に入ったな。妾にしたいくらいだ」
「……ご冗談を」
兄様も王子様も視線が笑っていなかった。
こほんと咳払いが私を口説いていた王子様からされて、改めて自己紹介をされた。
「私はアルベルトだ、此方は私の兄上であるジェネットだ」
「……ええと」
「名前を教えてくれ、可憐な人」
「…………ウルシュテリアです」
「素敵な名前だ、確か四年に一回だけ咲く花の名前だったね。そちらの魔物の方の名前は?」
「シラユキですわ、此方の堕天使はラクスター。とても乱暴者ですから、うっかりと何か粗相をしでかすかもしれませんわね。私達に何かするのであれば」
シラユキの目は警戒に満ちていた。
兄様の背中の衣服を掴んで、ほんの少し威嚇していた。
そこがまた猫のようだと捉えたのか、ジェネットは嬉しそうにシラユキを見つめる。
「アルベルト、気に入ったぞ! シラユキを、私の妾にできないか父上に頼もう」
「あら、私には直接伺わないのですか。ふられるのがわかりきってるから?」
「いいや、お前の意思がどうであろうと父上が言えばお前は断れないからだよ、シラユキ。人間と魔物の友好の証となるだろう?」
「……本当に。まったく。……私、失念しておりましたわ。それはそれは幸せな環境で、人間に接してもギルバートやウル様みたいな御方ばかりだったから、ゲスな人間がいるということを忘れておりました。人間の王からは既に条件は出たのでそこには追加条件は認められませんわ。それ以上をお望みであれば、貴方という個でご来訪くださいますよう。きっぱりお断りしてさしあげますから。失礼遊ばせ」
にこりと冷ややかな笑みに私もラクスターも、シラユキがかつてないほどに怒っているのだと分かった。
あまりの氷の微笑にアルベルトは固まり、ジェネットは言葉を失って唖然としていたがすぐにぎらついた目になる。
それでも無視して私達は部屋に向かおうと歩くと、ジェネットは後ろから声をかけてきた。
「私は諦めないぞ、シラユキ」
「叶わない思いでも宜しければご自由に……物好きな御方」
冷ややかな声に、兄様への声色とだいぶ違うと改めて再確認する。
兄様は自分との落差に、少しだけ浮かれ、シラユキの手を繋いで歩く。
少しだけジェネットに振り返って、すまなさそうに笑いかけてから改めて兄様はシラユキを見つめるとシラユキは兄様の手に対しては柔らかに微笑んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる