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畏れた心の在処編
第五十六話 太陽の選ばない人
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大声をあげそうになった私に、アルギスは怪我の痛みを堪えながら口元へ人差し指をあてた。
とりあえず、と私は窓から魔法を使って外に下りる。
「どうしたの、その傷」
思わずひそひそ声で問いかけると、アルギスは悔しげに笑った。
「太陽の人」
「アルギス?」
「貴方は、太陽の人だ……太陽は誰をも選べる、照らすのはただ一人じゃない。だから、照らされた明確なたった一人はなんと幸福なんだろうね」
「アルギス、どうしたの、ねえったら」
「僕は何処にも許されない、存在を許されない……ねえ、ウル、一人は怖いよ。怖いんだ」
「アルギス……」
「ずっとずっと。貴方が死んで孤独なんだ、悲しいんだ。でも貴方は、肝心の君は僕を嫌うように魔王と惹かれあい……僕は、何処へ? 誰が必要としてくれる? ウル……僕は、貴方を……さよならがしたい、さよならができない」
アルギスの文様が少し薄いことに気づいた、もしかしたらアルギスは今、正気に少し戻っているのかもしれない。正気に戻りかけ故の錯乱なのかしら。
何があったかは分からないけれど、アルギスの本心を探るチャンスではあると思った。
傷を魔法で癒やそうとする。見た目から傷は消えていくのに、ダメージが全然大きくて、アルギスの錯乱は続いている。
「金色の頂よ、我が思い、我が願いに応え給え――涙のように静まれ」
小さく詠唱しながら魔力を全部使い切る勢いで治癒をする。
アルギスの錯乱が落ち着き、アルギス自体が黙り込む。あとはどうしようと思ったところで、私の背後にゼロの気配を感じた。ゼロとゼリアが背後には立っていた。
ゼロはアルギスを治癒した私を、裏切られたような眼差しで睨み付けていた。
アルギスへ視線を移すと、憎しみも嫉妬も隠さない。仄暗い気持ちを隠しもしないで、ただ黙って睨んでいた。
私はゼロへ笑いかける。
「怯えないで、私の子牛さん」
「……ウル、そいつは」
「お願い。どうか、慈悲を……身勝手だった、私のために。どうか、お願い」
アルギスを治癒するのを許して、と言葉を続けようとした刹那倒れる。
身が魔力を尽きたことを知らしめた、私は力の入らない身体で咳き込み、ゼロへ視線を向けた。
ゼロは、月明かりのもと、ただただ悲しげに私を見つめ、頷いた。
「花嫁、お前の願いは叶える約束だ。アルギスを、元に戻すという約束は守ろう」
じゃあどうして貴方の声は、悲壮に満ちているの?
なんて問いかけが出来るほど無神経ではない。私はゼロに感謝の念を込めて、小さく礼を告げながら意識を失いかける。
その寸前で会話が聞こえる。
「魔王様は不思議ね、ライバルならこっそり殺して、好きな人の目には手を当てて隠してしまえば宜しいのに。それで「もう安全だよ」と言えば済むでしょう? ゼリアは分からないわ。嘘でも騙しきれば真実でしょう?」
「そう、そうだな。余にも分からない感情だ。ただ花嫁からの信頼を握りつぶせるほど、厚顔ではないらしい――まるで小心者だ。ゼリア、二人を運べ。人手が足りなければ呼べ」
「恩人様は魔王様が運ばないの?」
「……少し今は、触れるのが怖いんだ。嫉妬のあまり力を入れて壊してしまいそうでな」
とりあえず、と私は窓から魔法を使って外に下りる。
「どうしたの、その傷」
思わずひそひそ声で問いかけると、アルギスは悔しげに笑った。
「太陽の人」
「アルギス?」
「貴方は、太陽の人だ……太陽は誰をも選べる、照らすのはただ一人じゃない。だから、照らされた明確なたった一人はなんと幸福なんだろうね」
「アルギス、どうしたの、ねえったら」
「僕は何処にも許されない、存在を許されない……ねえ、ウル、一人は怖いよ。怖いんだ」
「アルギス……」
「ずっとずっと。貴方が死んで孤独なんだ、悲しいんだ。でも貴方は、肝心の君は僕を嫌うように魔王と惹かれあい……僕は、何処へ? 誰が必要としてくれる? ウル……僕は、貴方を……さよならがしたい、さよならができない」
アルギスの文様が少し薄いことに気づいた、もしかしたらアルギスは今、正気に少し戻っているのかもしれない。正気に戻りかけ故の錯乱なのかしら。
何があったかは分からないけれど、アルギスの本心を探るチャンスではあると思った。
傷を魔法で癒やそうとする。見た目から傷は消えていくのに、ダメージが全然大きくて、アルギスの錯乱は続いている。
「金色の頂よ、我が思い、我が願いに応え給え――涙のように静まれ」
小さく詠唱しながら魔力を全部使い切る勢いで治癒をする。
アルギスの錯乱が落ち着き、アルギス自体が黙り込む。あとはどうしようと思ったところで、私の背後にゼロの気配を感じた。ゼロとゼリアが背後には立っていた。
ゼロはアルギスを治癒した私を、裏切られたような眼差しで睨み付けていた。
アルギスへ視線を移すと、憎しみも嫉妬も隠さない。仄暗い気持ちを隠しもしないで、ただ黙って睨んでいた。
私はゼロへ笑いかける。
「怯えないで、私の子牛さん」
「……ウル、そいつは」
「お願い。どうか、慈悲を……身勝手だった、私のために。どうか、お願い」
アルギスを治癒するのを許して、と言葉を続けようとした刹那倒れる。
身が魔力を尽きたことを知らしめた、私は力の入らない身体で咳き込み、ゼロへ視線を向けた。
ゼロは、月明かりのもと、ただただ悲しげに私を見つめ、頷いた。
「花嫁、お前の願いは叶える約束だ。アルギスを、元に戻すという約束は守ろう」
じゃあどうして貴方の声は、悲壮に満ちているの?
なんて問いかけが出来るほど無神経ではない。私はゼロに感謝の念を込めて、小さく礼を告げながら意識を失いかける。
その寸前で会話が聞こえる。
「魔王様は不思議ね、ライバルならこっそり殺して、好きな人の目には手を当てて隠してしまえば宜しいのに。それで「もう安全だよ」と言えば済むでしょう? ゼリアは分からないわ。嘘でも騙しきれば真実でしょう?」
「そう、そうだな。余にも分からない感情だ。ただ花嫁からの信頼を握りつぶせるほど、厚顔ではないらしい――まるで小心者だ。ゼリア、二人を運べ。人手が足りなければ呼べ」
「恩人様は魔王様が運ばないの?」
「……少し今は、触れるのが怖いんだ。嫉妬のあまり力を入れて壊してしまいそうでな」
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読んでくださる方や応援してくださる全てに
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