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第三章 アレクサンドル編

第四十九話 アレク先生からの期待

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 今のところ敵意のないアレク先生だが、少しでも話を誤魔化したり隠そうとすると、すぐさま「永遠のお茶をたのしみますか??」と訊いてくるので、たまったもんじゃないと全てを打ち明けた。

 シルビアと俺がこの世界がモデルのゲームを前世でしていたこと、それから死んでからこの世界にきたこと、それを最近思い出したこと。
 シルビアがこの世界は二回目で、俺は前回死んでいたと言っていて、あの子なりに色々考えていることや、メビウスの謎さまで。

「なるほど、確かに謎ですね、メビウスとやらまでヴァステルデ様の病を治したがるのは……メビウスはこうなっている以上、邪神だと思います。黒い剣でしたっけ、それが闇属性を語ってますから、相反しているヴァステルデ様と。何より気になる伝承と被るところもあります。少々ヴァステルデ様とお話ししましたが、やはり謎ですね」

 アレク先生はこの国の国旗がどでかく描かれたカップから、お茶を飲みながら、この国の国旗を模したアイシングクッキーを口にする。
 まじでこの国大好きなんだな?!!!

「二回目、ということは、一回目の記憶は君にはないと?」
「はい、そうなんです。全然何もかも判らなくて――ただ、何となくだけど。変だけれど、魂がシルビアに惹かれてるんです」
「きっと一回目で恋人同士だったのかもしれませんね、最初のあの固執っぷりからすると、君が落とされても不思議ではない。あ!!! キャロライン姫様が力不足とかではなくてですね、それくらい情熱的であると……」
「わ、判ってます、判ってますって」
「リーチェくんはキャロライン姫様の魅力を判っていない! まず、あの慎ましい胸を気にするところが可愛いでしょう。それから、ドラゴン大好きなところが愛らしい。何より……哀れなのは、ヴァステルデ様が小さい頃からいたゆえに、自力で考える癖がついていないことです」

 それには心当たりがある、ヴァステルデがいったことを選んでいる印象だったから。

「多分ですけどね、ヴァステルデ様もそれに気付いている。だからこそあの方は自分を選ばない。キャロライン姫様が自力で、永遠に考えなくなるから」
「だから、ヴァスティがキャロラインを選ばなければ、成立しない恋なんですかね」
「恋なんて、お互いが選び合ってそのすれ違いがない、唯一無二のものとなるんですよ、その瞬間だけ。だからこその奇跡ですよ。妥協の恋でなければね。キャロライン姫様は、妥協の恋を貴方にしかけている気がします、貴方の手腕によって」
「お、怒らないんですか?」
「キャロライン姫様とヴァステルデ様の為だ、と最初に仰ったのは貴方です。王妃様を治した貴方は、信頼に値します、行動も迷いや躊躇いはありますが矛盾はしていない」

 よかった、アレク先生に怒られたら、それこそ世界中から呪われそうな印象だったこの部屋の印象からして殺されかねんとさえ思っていた。

 イミテもようやくほっとしたのか、口を出す。

「其方はどう思う?」
「どうって何をですか。あ、テスト範囲でしたらここからここまでです」
「そうじゃなくて!! 其方は、キャロラインとヴァステルデがくっつくことをどう思うのだと訊いている!」
「うーん、正直ね、他人の恋愛をどうこうしようなんて烏滸がましくて神様気取りですか馬鹿なんですかねぇくらいには思うんですが、でも」
 俺をじっと見やり、アレク先生は、目を細めて笑った。
「若者は止めても無駄ですからね。君は実際暴走仕掛けのディスタードくんを止めてくれた、なれば若者を止められ若者を動かせるのは若者だけなんですよ」

 アレク先生はテスト範囲をメモしてから俺にメモ用紙を手渡し、頑張ってくださいと笑いかけた。

「若者に期待していますよ、何かあれば手伝いますが、基本的には若者だけで考えてくださいね。ピュアクリスタル以外は。あれは……世界がかかっている。あれだけは大人にも頼るべきなんですよ。だからこそ、僕がつきました、大事な王妃様の愛娘様を下郎に触れさせるわけにもいかないのでね。頼ってイイトコロが判らなければ都度訊いてください、それくらいなら答えますよ。少しの愚痴聞き役くらいもね」


 この人王妃様さえ関わらなければ、多分良い先生なんだろうと思う。
 王妃様関連が残念なだけで。
 嬉々として王妃様の話をするときは、楽しげだし何より、生徒が悩む時間を大事にしてくれそうだ。


「そういえば、先生は鳳の魔導書扱えましたか?」
「大人を舐めるなと言いたいところですが、流石神からの授かり物ですね。中々解読と会得が難しくてね。基礎を勉強しなおすところから始めてます。見たところ、リーチェ君もそうでしょう? 低級ポーションを大量に作っては売ってるところ、見かけますよ」
 アレク先生に見られていたのは、少し恥ずかしいなと笑って俺は否定的に手を振る。
「皆、今はまだポーションとかに力入れてられないで、剣術とか派手なほうにいくと思ったので。そのうちお役御免とばかりに売れなくなりそうですがね」
「いやあ、イミテさんが売る限りは売れるんじゃないかな、イミテさん密かに人気ありますよ。お近づきになりたいって生徒をよく見かけます」
 イミテと顔を見合わせ、意外だと意思表示をするが、イミテ自身は興味なさげだ。
 俺の腕を捕まえ、腕を組んで「離れたくない」とばかりに物言わず態度で意思表示してきた。
 アレク先生は「仲良しですね」と笑って、寮まで俺とイミテを送ってくれた。


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