異世界転生した攻略キャラから提案ですが姫様隠しキャラ落としませんか?

かぎのえみずる

文字の大きさ
65 / 83
第四章 アッシュ編

第六十三話 アッシュの気怠い目覚め

しおりを挟む


 意識を取り戻した頃に、アッシュの部屋にある簡易ベッドに寝かされているのだと気づき変な笑いが出た。
 あいつの部屋保健室じゃねぇんだからさあ! 可哀想じゃん?!

「起きたかい?! イミテくんとアルベルは今、話し合いしているよ。うちのアッサムも」
 俺が起きるなり、ぱぁっと顔を輝かせて駆け寄ってきたのはディスタードだった。
 ディスタードはうまく絞れないタオルを手にして床をびしゃびしゃにしながら、手をばたばたと動かし、感動を顕わにしようとしていた。
「医者が倒れるとはどういうことだね!? まったく君は本当に自分を蔑ろにしがちだ!」
「豪炎茸は……」
「きちんと保管しているよ、必要な時に取れるようにって君の部屋にね! ……お疲れ様」
 ディスタードから労いの言葉がでたことに驚いていると、ディスタードは絞れなかったタオルを隣のベッドにいるアッシュの顔に押しつけ、真面目な顔つきをしていた。
「正直ね、ボクは心配なのだよ。あまりに色んなモノを背負っていて、君は時折魔力を一気に消失している。魔力の消失を補うこともしない。ポーションを飲めとかではなくね、心からの休息をしていないんだよ」
「寝ては、いるんだけどな」
「うーん、最近心からリラックスしたことってあるかい? ってこれではボクが医者みたいじゃあないか! 役割を返すよ、ボクは暴走して遊んでいたい! まぁとにかく、君だってたまには休み給え! 倒れたらまたイミテくんが泣いちゃうよ!?」
「だけど次の五生宝が」
「ははーん? 休まないつもりだね!? そんな君にはッ地獄の野郎三人男旅をプレゼントしちゃうぞ!? ボクとアッシュくんと君とで、地獄みたいなむさ苦しい旅を計画しちゃうぞ?!」
「ソレはヤメテクダサイ」
「……オレもそれは遠慮願いたい、というか、このタオルを、外せ……冷たい」

 アッシュの声が聞こえたもんだから、オレもディスタードもびくっと跳ねてから、アッシュの方向を見やりディスタードはタオルを慌てて外す。
 水にぐっしょり濡れたアッシュがそこにはいた、苦しかったんだなタオル! 荒療治な起こし方だ!

「アッシュ、大丈夫か、気分悪くないか?」
「……今のところは、水で冷たい以外はないな。くそ、また、シルビアが……」

 アッシュはメビウスにピュアクリスタルを盗られたことを思い出すと悔しがり、額の近くで拳を握りしめ嘆息を付いた。
 うまく力が入らないのか、拳は僅かに震えながらも、完全に握りしめることはできていない。
「シルビアはどう足掻いても、メビウスの手駒にされるのか? くそっ……」
「そうでもないと思うよ、アッシュくん。あのお姫様は案外図太い、根菜のように」
「何だと!? ……お前の訳判らん喩えに付き合う余裕はないんだ」
「なら判りやすく言おう、あのお姫様はきちんと意志を持って手駒になっている。手駒と言うより、シルビア姫もメビウスを利用しているんだよ」

 意外な観察眼に驚いてディスタードを見やると、ディスタードはしれっとした顔で俺と目が遭う。
 視線が「君もそう思うよね?」と訴えかけていたので、二人に情報を伝えたほうがよさげな気がして、俺は意を決する。

「シルビアは、多分一回タイムリープってのをしている。ええと、この学園生活……今のこの人生を一回体験済みなんだよ。だから、誰がどう出るか知っている」
 ゲームの知識もあるけれど、それは今はややこしいことになるから伏せておこう。
「前の体験で出来なかった行いを、シルビアはするためにメビウスに付き従っている……んだと、思う」
「狙いは何なんだ?」
「詳しくは俺もよくわかんねーんだ、ただ……信念は曲げるつもりはないようだ」

 二人のそれぞれの狙いは、俺とヴァスティの生命だっていうのは判ったが、生きながらえさせる方向だなんて、本当によくわからない。邪神ってことは敵対しているんだろう?
 シルビアは助け合った過去があるというのなら、恋人だったという過去があるのなら判るが、メビウスはよく分からない。
 しかも、ヴァスティの分身かもしれないという。分身だから生きながらえさせたいとかいう単純な願いではない気がする。
 でもあいつらの願いが判ったところで、狙いは判らないから言うだけ混乱させると感じ取ったので、言葉選びを慎重にした。
 アッシュは嘆息をつき、アルベルを呼べ、と身の回りのことをさせようとした。
 ディスタードに呼ばれたアルベルは嬉しげにアッシュの周りを羽ばたいてから、人の姿を取り、身支度をさせて、日にちを確認する。

「リーチェ、戦況はどうなっている」
「五生宝のうち、二つは手に入ったよ」
「それで向こうもピュアクリスタル二つか……父上に頼むか」
「何を?」
「五生宝のうち、金色香草は父上も趣味で栽培させている。滅多に成長することはないが、今年はうまく成長しそうだと連絡があった。うちは金色香草が栽培しやすい地帯なんだ」
「その父上とやらから手紙がきていたよ、すごいややこしくなりそうな内容」
「人の手紙を勝手に読むな!」
「だって緊急事態とかだったら大変じゃあないか! これは親切心! 断じて野次馬なんかではないよ、誤解しないでくれたまえ! いや、面白い手紙ではあったけどね!」

 ディスタードが手紙をアッシュに渡したので、俺もアッシュの後ろから手紙を覗き見すると最早止める気力も無いのか、そのまま読み進めるアッシュ。
 手紙内容には――キャロラインを婚約者候補にあがることとする、と書いてあった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

処理中です...