異世界転生した攻略キャラから提案ですが姫様隠しキャラ落としませんか?

かぎのえみずる

文字の大きさ
74 / 83
第五章 シルビア編

第七十二話 恋の駆け引き

しおりを挟む

 出会ってすぐなのに心惹かれるのも納得はいく。
 だけど、それを本人から明かされる以外に、知りたくなかったな。

 部屋のバルコニーで黄昏ていると、アッシュがダンスの様子を聞きにやってきた。

「馬鹿みたいに明るいお前が、馬鹿みたいに暗い顔だ」
「ヴァスティと喧嘩したからな」
「……なるほど、さるご令嬢について、注意でもされたか」
「アッシュ知っていたのか、あの子が誰なのか」
「……俺は難攻不落の女性を紹介しただけだ、コンタクトをとることができたから。ヴァステルデ様はなんとおっしゃっていた?」
「お前の恋は悲恋になると」
「それを覚悟できないで落ち込むくらいであれば、それは恋じゃないと今は思う。必ず叶う恋など見たことない、それを叶えるくらいの意欲がなければ、諦めたほうが君たちのためだとは思う。だがまあ、君には活力があったほうがいいと思ったから、あの難攻不落を紹介した。好きだろ、ああいう女」
「ものすっげ大好きです……」
「それと、一つ言うが、諦めることも悪いことではない。難攻不落だから、諦めることもあるだろう。そのときは、ディスタードにでもイミテにでも慰めてもらえ」
「お兄様公認?」

「落とせるものならな?」

 ふ、と妹をよほど落ちないと思っているのか、発破かけているのか分からなかったが、励ましてくれてるのは分かった。

 俺は礼を告げ、しばらくはシルビアが言い出すまでは、あなた、と呼び続けてみようと決心がついた。
 シルビアも、何か事情があるのかもしれない。

 窓辺にある白いカランコエに似た花に触れる、花の香りが、なぜか切なかった。




 ヴァスティに服を頼むわけにはいかなくなったので、毒泉国に手紙を送れば、二番目の兄貴が当日届けにくると書いてあった。
 二番目の兄は、とにかく話が半分くらい通じたらラッキーで、俺よりもそんなんで王子務まるの??と言われそうな人。名をレオナルドという。
 ただ、めちゃくちゃ頭の回転速度は速いが、ずば抜けて天才ってわけでもない。
 瞬間的理解力と空間把握能力にたけているんだと思う。
 弟の用事を言い訳に視察も兼ねそうだな、あの人なら。
 レオナルド兄さんからは、どこで聞いたのか「魔王か竜と懇意にしとけ」と書いてあった、お返事に。
 とりあえず、服の心配はしなくてよさそうだ。

 ぼんやりしながら、「俺のあなた」とダンスを練習する。
 ご機嫌そうな相手に、「どうしたんですか」と問いかけたら、「俺のあなた」は指先を踊らせるように文字を空に描く。

『ダンスがお上手になってきたから』
「そりゃ嬉しい、やっぱり俺天才だから」
『調子に乗らないことね』
 あいたっ、ダンスしながら蹴ってきた、いってぇよくっそ!!

「俺のあなたは、踊る相手が本当に俺でよかったのか?」
『変なこと聞くのね、駄目ならこの場にいないわ』
「だって、その、将来の相手になるかもしれないって聞いたからアッシュに」
『……リーチェ殿下、これは私の賭けよ。賭けに付き合って貰っているの』
「賭け?」
『私の好きな人が追いかけてくれるか、会場で見つけてくれるか』
 好きな人という単語にイラッとした、俺は利用でもされてるのだろうか。
 今日でなければ、ふーんそうかーへええええ?と少し嫌みな態度をとるくらいで流せただろうに、俺は気づけば「俺のあなた」の顎を捕らえていた。

「その人、余裕だね? 俺に奪われるとか考えないんだ?」
『それは』
 文字を書かせる暇もなく、その子に俺はキスをし、その子は驚いて固まっていた。
 イミテも目を見開き固まっていて、演奏が止まる。笛が落ちる音が、からんからんとした。

『何をなさるの、無礼者』
「……仮面で隠してるけど、顔赤そう。耳すげぇ赤いもん」

 唇を離して耳に触れて嗤ってやると馬鹿にされたと思ったのか、「俺のあなた」は平手打ちを俺にして去って行った。

「……これくらいの意地悪は、いいだろ。シルビア、もしお前なら」

 叩かれた頬を片手で押さえていると、イミテが慌てて駆け寄ってきた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

処理中です...