79 / 83
第五章 シルビア編
第七十七話 主人公(ヒロイン)を巻き込んで
しおりを挟むシルビアやメビウスと、シリウス国の城に戻る。
このメンツだと敵に間違われそうだなぁ、メビウスなんかヴァスティを殺した本人でもあるし。
「ヴァスティ死んでもあんたはどうして生きてるのさ」
「神たるあいつの魂は死んでない、まだあの身体に揺蕩っている。揺蕩う時間があるうちは、俺様とて存在していられるのだよ」
ということは早く間に合わせなければ、メビウスも存在できなくなるということか。
駆けながらイミテを探し、庭へと向かえばイミテは一人で存在していた。
イミテは俺に気づくなり、心配した様子で駆け寄ってきて転びかけていたので、咄嗟に支えた。
「お前様!」
「イミテ、時間がないんだ、お願いを聞いてくれるか?!」
「申してみよ、焦っているな? 後ろにいる奴らについても、事情がありそうだな」
「実は……」
メビウスの正体や目的。これからどうしたいかを説明すれば、イミテは顔を顰める。
「貴様は、それで。王の囲う神を解き放てさせようというのか、我が主殿に」
メビウスはイミテから叱られようとなんのその、頷いて飄々としている。
「イミテ、頼む! お前、時間をオレの為に巻き戻してくれたんだろう? 聖龍だったお前が邪龍になってまで! 頼む、もう一度巻き戻してくれ、少しでいいんだ! 代償は何でも払う、それと……過去にお前を置いていって死んだときはすまなかった。お前のことも思い出せず……」
「お前様――思い出した、のか?」
オレが頷けばイミテは感動したように涙を見せ、わっと抱きついてきた。
抱きついて獣がすり寄るような所作で、甘えるイミテ。
「リーチェ、リーチェ!! 私を思い出してくれたのね、リーチェ! ……代償? 代償か、ではお前様の未来を願おう。お前様の未来が幸せである未来を! それが条件だ、時くらい巻き戻してやる、何度邪悪とされようと私はお前様の……龍なのだから」
「こほん!」
シルビアが咳払いし、オレとイミテを離すと、イミテに真正面から真剣な眼差しを向ける。
「なるほどね、仕組みが分かったわ。ゲーム通りにいくには……キャロライン姫が時間巻き戻しに巻き込まれて、ヴァスティとメビウスの関係性を知り、ヴァステルデ様の解放はキャロライン姫に頼むしかないのね。そう、それで私達が先にアイテムを手に入れるから、キャロライン姫視点だとアイテムが手に入らないのねゲームでは……」
「ぶつぶつ怖いぞ、シルビア」
「考え込んでいたのよ、ゲームの流れとの一致を! よく聞いて。ここにきっとお姫様が、キャロライン姫がやってくる。キャロライン姫もヴァスティを助けるために、これからする時間巻き戻しに巻き込まれるわ。そうしないと、キャロラインの行動も重なって必要な未来がやってこない。ヴァスティの未来は、私達の五生宝集め、キャロラインのヴァスティへの理解により国から解放されるヴァスティ、それが重ならないといけないの。だから、キャロライン姫が来てから、偶然時間移動に巻き込む形としてお願い。メビウスはキャロライン姫の誘導を任せたわ。ヴァスティへの理解は、貴方への理解ともイコールだから……ヴァスティの精神に触れさせてヴァスティの心をまず解放させてね」
「メビウスは単独行動でキャロラインの導きを。俺たちは五生宝をとりに、だな」
「キャロライン姫と出くわしたら駄目よ、一緒に時を巻き戻してるとばれてしまう。それはきっと、この世界の法則から乱れてしまうの。この世界はリーチェではなく、キャロライン姫が運命なのだから」
シルビアの言葉に、かっかかかと快活にイミテは笑い転げた。
「良き良き、運命とは全員が知るものではないものもある。我らにとって、運命はリーチェだ。私達の道しるべこそ、リーチェ、我が主どのだ。それは私らだけ知るのみで良き」
「我が妻を愚弄されては困るが、まぁそういうことにしておいてやってもいいだろう、これだけの功績を積み重ねたピュアエリクサーのことであれば。よかろう、受け入れよう。我が乙女が日向であれば、お前が日陰の勇者だと。頼もう、我らが運命よ、導き給え」
我が儘俺様の権化のような二人に、最高位の礼をされればそりゃあたじろぐよ!
まるで王様にするような礼を、人外の二人が、第三王子である俺にするなんて!
俺は慌てて、二人に顔をあげるよう頼む。
「大げさな振る舞いしないでくれよ?! オレは、ただヴァスティとキャロラインが幸せになってくれれば……!」
「ねぇ、リーチェ。確かに私も貴方も最初の目的は、ただそれだけだったわ。でもね、私は思うのよ。人のためにここまで尽くせる人はいないわ、きっとそれは……善意だけではできない。これは貴方の信念を称えてるのよ、二人とも」
「シルビア……――」
どこか嬉しげなシルビアの言葉に言い返そうとしたが、刹那、キャロラインの気配がした。
かさりと草木が揺れ、涙の気配。
闇属性の俺らには分かるんだ、思いっきり聖なる加護の名残が見える存在が近寄ってきてるって。
「ヴァスティ……――どうした、ら。私、もっと貴方を知りたかった。好き、好きだったの……愛していたのよ!!」
キャロラインは黄昏れながら、泣き腫らした顔を月夜にあげ、遠い星々を見つめる。
俺たちは陰に隠れ、メビウスに内緒話をする。
「これから時巡りするから、それっぽいこといってこい」
「それっぽいとはまた大雑把な。そういうところは宜しくないな」
「いいから、キャロライン口説いてヴァスティが自分に繋がるってヒント与えてこい! 自分で気づかせなきゃ意味がねぇからな?!」
「ふむ、いいだろう、我らが導きよ」
メビウスはあっさり納得すればキャロラインの前へ姿を現す。
俺たちは隠れてメビウスやキャロラインの様子を覗く、イミテにメビウスの言葉がそれっぽくなれば時戻しの術を使うように頼んでおく。
「やぁ我が乙女よ、泣いているのかね?」
「メビウス……ッ貴方のせいで、貴方のせいでヴァスティは!」
「死んだと思いたければ思うといい。お前の信ずる男はその程度であると、な。やれやれ、この俺様も悲しいものだ……お前の信じた“オレ”はそんなものだったのか、キャロ」
「ヴァスティ?!! ッメビウス……? 貴方、何者、なの」
「知りたければ、オレを捕まえてごらん。オレが何者かは貴方が一番知っている」
メビウスが俺たちに合図を送った、イミテの髪色がまばゆく金色に光ったと思えば、あたりは一面灰色になり時がまき戻っていく。
草木は揺れ、枯れていた花は咲き誇り、夜から昼へと戻っていく。
キャロラインとメビウスが去って行ったのを確認してから、俺とイミテとシルビアは動き出す。
「さて、行きますか!」
「うむ、頼りにしてるぞお前様!」
「ドジ踏まないでくださいましね」
0
あなたにおすすめの小説
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について
あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる