婚約者様と私は世界一のずっ友~公爵様はゲイですが腐女子にはたまりません~

かぎのえみずる

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第二話 どうして貴方が!? 妾は貴方に興味なんてありません!

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「お前、何かしたのかい」
 パーティから数日後、部屋でお気に入りの洋服を着て、キセルをふかしていればお父様はまた顔をしかめる。
 多分お父様のご立腹はそれだけじゃない、お父様には昔、妾が書いた男色趣味の絵を見られたから趣味がばれている。
 部屋中にある絵を見て顔をげっそりとさせて、ぶつぶつ「ああ、うちはなんて不幸なんだ」と呟いてらっしゃる。

「なあに、心覚えないですう」
「嘘をつけ、その不吉のもとをどうにかしろ!」
「いやだわお父様、これは神聖な趣味なんです。マダムレイティからだって依頼があって、完成させたら金貨二十枚でしてよ?」
「お小遣い稼ぎするんじゃない! それよりも、そのマダムレイティから紹介を受けたんだ。縁談の話だ」
「ええ? 妾に興味を持つような方なんて……」

 心当たりないと小首傾げて、絵を描き直していればお父様が続ける言葉に妾は思わず紙をやぶいた。

「アシュタルテ・コークス様が。是非お前を娶りたいと。相手は公爵家だぞ、なにをしでかしたお前! 勇者様も手こずらせる魔獣をも仕留めるコークス様だぞ!」
「あの方が!? いやだあ、お父様、妾はなあんにもしてません!」
「お前のその奇っ怪な趣味がばれてないなら、これはイイ話なのだろうけれど」
「お父様ったら。でもそうね、あの方でしたら面白い話ができそうです」
「まあ縁談ゼロだったお前が公爵家と縁を繋いでくれたのは、よくやってくれた……今まで第二夫人の申し込みばかりだったおまえが……。初めてお家のために役立ってくれたな。あとはその男同士のえっちな趣味を必死に隠して、嫁いでしまえばあとからばれようがこっちのものだ!! しとめてしまえ!」
「まあ、立派な趣味ですのに。でも、判りました、妾も貴族の出です。立派な家に嫁ぐのがお家のためですものね」
「いいか、そのお前の下品な服と趣味はばれないようにな!」
「結婚したあとでしたら、ばらしてもよろしい?」
「よろしくてよ!!!」
「わあい、お父様のそういう計算高い寛容さ、だあいすき」

 妾はアシュタルテ様の顔を思い描こうにも、もうこの頃には脳裏から消えていて。
 それくらいにあまり自分事として興味の無い方だったの。
 属性とかモデルにした人物像として、絵なら書けるのに。
 ご本人自体はどうでもよかったの。
 お父様は泣いて悦んで、その日は豪勢な料理でした。

 *

 後日、馬車に乗ってアシュタルテ様が我が家にやってきて正式に縁談の話を勧めてきた。
 お父様は既に承諾を返事として送っていたから、今日は顔合わせと婚約指輪を作ろうと、お誘いにきてくださったみたい。
 アシュタルテ様が部屋に入り、お父様と縁談について詰めていって。妾とは瞳が合えば、ふ、と楽しげに笑っている。
 何か意味深に感じるので二人きりにお父様が気遣った時を見計らって、アシュタルテ様をじっと見つめた。

「いったいどういうおつもりですか」
「なにが」
「貴方は妾に興味などないでしょう。妾にもないのはご存じでしょう?」
「いいや、多分君は私に興味津々だよ、イデアローズ」

 にこやかに笑う姿は何処かすこうしだけ、威圧感と何かを含んでいて少しだけ怯えてしまった。
 警戒心を解くように妾の手を繋いでおきながら、瞳は眇めている。理想通りだから手放さないぞ、と言っている目が。
 でもきっと恋愛的な意味ではないのは、判ってしまう。

「しゅるしゅる姫王子~完全にメス落ちしちゃってこまっちゃうのお~、の、本を知っているかね」
 
 妾がマダムレイティの出資のもと出した本だ。背筋に脂汗がどっとくる。

「いや、実に素晴らしい春画だったね。久しぶりに楽しんだよ」
「どどどどど、どうしましたのその本が……」
「君が作ったのだろう?」

 そこまでばれている。だめだこれ、お父様ごめんなさい、結婚までもっていけなさそうです……と悔しくて目を閉じたら、笑い声がおりてくる。

「誤解しないでくれ、君を咎めたいわけじゃない」
「いったい、どういう……」
「イデアローズ、私はね、ゲイなんだよ」
「……! え、じゃあこの縁談は……」
「君なら。私の良い理解者になってくれると思ったからだ。君を愛せない、君を選べない。それでもネタになる話をさしあげるし、生活の保障も。家の後ろ盾もしてあげよう。これは契約結婚だ。君に好きな人が出来るまで、世界一仲の良い夫婦を演じようじゃないか」
貴腐人わたし男色趣味あなたの二人で?」
「そう。悪い話かな。だとしたら断っていいんだ」
「……ネタになる話はしなくていいわ、妾は現実と趣味は弁えているの。でも……でも……それ、とっっっっっっっっっっっっっても素敵な提案ね!!!!」
「そうだろうそうだろう、すぐにぴんときた。君があの本の作者と判ってからは、私は気が楽になったんだ。君なら理解してくれるかもしれないと。君に好きな人ができるまででいい。どうだろう。君も私も家の人に色々言われるけど、そのあとで離婚をする結果になるならば。誰も何も言えないだろう?」
「アシュタルテ様、貴方なんって素晴らしい方なの!! 世界でたった一人の親友に出会ったような気持ちよ!」
「そうだろう、それならアシュと呼んでくれ。君と私で世の中を騙していこう」
「ふふ、それなら。貴方も妾のことローズでよろしくてよ」

 妾はアシュに抱きしめて感謝を告げると、アシュはにこにことしていた。
 こうして世界一誠実な離婚を想定した婚姻が始まった。

 
 
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