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第五話 そして彼らは帰り際に見えないところで蹴り合った
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後日アシュに迎え入れられて、アシュの持っていた屋敷のひとつに住まいを移した。
式が行われるまではこの豪邸で暮らして欲しいとのことで。
アシュは住まいに必要なものを何だって用意してくれた。本当に出し惜しみされない資金だったの。
自身の体験が資料代わりにならないからなのか、それともアシュの趣味なのか用意された使用人も格好いい人ばかりで、とてもアイデアがどんどんわいてくる。
屋敷に身を移して一週間くらいに、アシュが訪れてきた。
アシュは婚約者らしい振る舞いとして、キスのように見えてキスでないスキンシップをしてから、にこやかにただいまと笑った。
「不自由してないかね」
「アイデアや暮らしも満ち足りておりますとも」
「ならいい、街でチェリーパイを買ってきたんだ。さあ、たっぷり話そうじゃないか」
「ふふ、妾も待ちきれないですわ」
妾とアシュは抱きしめあって、耳元で会話する。
「貴方自身の話は興味ないですけど、騎士団の話は興味あります」
「おやおや、そんなこと言わずに恋バナにも付き合ってくれよ」
「あら、お相手いるの? その人に妾妬かれない?」
「大丈夫だ、私の片思いだからね」
身を離して扇を口元にあて、にこにこと微笑む。
じっと妾の格好を見たアシュは目を細めた。
「それと。今の薄着のほうが、パーティより君に似合っている」
「……そんな言葉をかけてくれたのは、貴方で二人目よ」
「一人目は誰だろう」
「薬師よ。万屋のサリス。知らない?」
「ああ、あの胡散臭い男か。あんな無愛想な男が?」
「そうよお、あの人妾が贔屓にしてる客だから依怙贔屓してくださるの」
「……ふむ、それも含めて二階で話そうか」
それもそうね、と妾はアシュと一緒に二階へあがり。二階でお茶を淹れて貰いながら、席に着く。
ふわふわのソファーは猫足で可愛らしい趣味だ。可愛さの中に品の良さもある。応接室はそういった調度品に満ちていて、どれもが蒼と白を模していた。
「まずは、聖女抜擢おめでとう」
「待って、あれは。不幸な事故なの」
「不幸? 聖女に選ばれるのは名誉ではないのかね?」
「原因が純粋に選ばれたんじゃないならね。貴方には見えないだろうけど、妾にはロス様が見えているの」
「正真正銘聖女だね」
「でも、どうして気に入られたと思う? ロス様は、妾の頭の中を見て気に入って聖女にしたんですって」
「それって……っふふ、っはははははは!! いいな、君といると飽きないな! イイ人を妻に選んだよ、私は」
「もう、笑い事じゃないの。癒やすときにアイデアがわかないと、癒やしてくれないのよ」
「貴腐人としてのアイデアか、なるほど、大変そうだ」
「そうよとっても大変。だから貴方の体験談も興味なかったけど、参考にするから教えて頂戴」
「いいよ、教えてあげよう。私のいる騎士団は隊長が四人、団長が一人、副団長が一人なんだ。私はそのなかでの四人のうちの一人だ」
「出世頭なのねえ」
「私の好きな人はこれが、妻子持ちの団長でね。どうだい、不憫だろう。最初から敵うわけない相手なんだ」
「夜這いよ夜這い。夜這いするのよ、野営で」
「相手の地位がしたならそれもやぶさかではなかったのだがね。諦めるしかないな」
「ときめくような話ないの? これまでのお二人のお話に」
「あるよ勿論。あれは私が入ったばかりのころ……」
アシュが話し始めた頃合いに、とんとんとノック音がして妾たちは姿勢を正した。
執事長が咳払いをして困惑している様子だったけど、妾たちに困惑している様子ではない。
「お客様がきております」
「誰だ? 今日は予定はないはずだ」
「それが奥様のお客様だとか……」
「ええ?」
「サリス・アーロックと仰ってます」
「ああ、サリス。注文した品を持ってきたのかしら」
「……君のイイ人か?」
「違うわ。誰にでもいい顔するから」
「あの無愛想な男が、ねえ」
アシュが瞬いてから、ふっと笑って悪戯を思いついたような顔をした。
執事長に取り次ぎ、ここへ呼ぶようにと命じれば、アシュは紅茶を一口飲んだ。
「ローズ、私はね。君の保護者にもあるような気持ちだ。並の男じゃ、君の婚姻を許さないからな」
「どうしたの急に」
「それが、私が親友として君に出来る護衛だ」
っふ、とアシュは笑ってからチェリーパイを手に取って私の口元に運ばせる。
「さぁほらお食べ」
「はしたないわ、こんなの」
「いいんだよ、こうして食べた方がうまい」
妾にチェリーパイをあずけると、指先についたチェリーのべっとりといた果汁を、アシュは舐めて笑った。
もう、ともそもそ食べていればサリスが入ってきた。
「お嬢、大丈夫ですかっ」
「なによサリス。危険なことなんて何一つないわ」
「だって陰険真面目コークスに嫁ぐなんて! きっといじめられてるとおもって!」
「やあやあ、サリス。君のそんな朗らかな声、初めて聞くよ」
「コークス様! どうです、ここは商談といきませんかっ」
「商談? 君は私に何を買って欲しい」
「お嬢……ローズ様のお気に召すもの持ってきます! 絶対一つは必ず気に入るものを持ってきます! だからお抱え商人にしませんか!」
商売の話をしにきたのかしら。それだとしても、随分射貫き殺しそうな瞳をするものだから、商人の目じゃないのよね。
だというのにコークスは妾とサリスをにやにやと見比べて、ふふっと小さく笑った。
「新しい性癖に目覚めてしまいそうだ。まあ、いいだろう。契約金はまけてくれるんだろうな?」
「贔屓にしてくだされば一割は値引きします!」
「一割?」
「に、二割でもいいです!」
「二割でも?」
「さ、三割はどうでしょう! これ以上は無理です!」
「そうか、君にとってローズへの愛はその程度だったか……」
「ふざけんな、四割してやるよ四割!!! 俺のお嬢への愛を舐めるなよ!!!」
「ふむ、たかが四割でそう言われてもなあ」
「くっっそ、もってけ泥棒半額だ! この鬼ッ、悪魔ッ!!」
「まだ物足りないなあ」
「ころしてやるーー!!!!!!!」
きっと泣きそうな睨み方をするのだから、可愛らしい。はっ、サリスみたいなちゃらいタイプと、アシュみたいな生真面目タイプの組み合わせもいいじゃない!?
今度の本のネタが出来てしまいそう!
そうとなれば、アシュとサリスの接点を持って貰うべく、契約してもらわないと!
「アシュ、契約しましょう」
「ははは、いいぞ。面白いものを見られそうだから、サリスの店の品半額になるおまけもついてくる」
「お嬢!!! 流石お嬢、お嬢は俺の天使だー!! 女神さまああ! 抱いて!! すきにして!!」
「サリス、それはアシュにお願いして!」
「ぜってえいやっす!!!!!」
「ははは、サリス・アーロック。覚えておけ、お前の雇用主は私だ。いいな、私が雇用主だ、ご主人様だよ」
「うるへえ、ありがとうございます!!」
睨み付けながら頭をさげるなんて器用な真似、よくできるなあと思いつつサリスにチェリーパイをそっと出した。
サリスは大泣きしながら食べてくれたので、サリスが通うようになってくれたら妾も話し相手ができるし、少しだけ嬉しくなった。
式が行われるまではこの豪邸で暮らして欲しいとのことで。
アシュは住まいに必要なものを何だって用意してくれた。本当に出し惜しみされない資金だったの。
自身の体験が資料代わりにならないからなのか、それともアシュの趣味なのか用意された使用人も格好いい人ばかりで、とてもアイデアがどんどんわいてくる。
屋敷に身を移して一週間くらいに、アシュが訪れてきた。
アシュは婚約者らしい振る舞いとして、キスのように見えてキスでないスキンシップをしてから、にこやかにただいまと笑った。
「不自由してないかね」
「アイデアや暮らしも満ち足りておりますとも」
「ならいい、街でチェリーパイを買ってきたんだ。さあ、たっぷり話そうじゃないか」
「ふふ、妾も待ちきれないですわ」
妾とアシュは抱きしめあって、耳元で会話する。
「貴方自身の話は興味ないですけど、騎士団の話は興味あります」
「おやおや、そんなこと言わずに恋バナにも付き合ってくれよ」
「あら、お相手いるの? その人に妾妬かれない?」
「大丈夫だ、私の片思いだからね」
身を離して扇を口元にあて、にこにこと微笑む。
じっと妾の格好を見たアシュは目を細めた。
「それと。今の薄着のほうが、パーティより君に似合っている」
「……そんな言葉をかけてくれたのは、貴方で二人目よ」
「一人目は誰だろう」
「薬師よ。万屋のサリス。知らない?」
「ああ、あの胡散臭い男か。あんな無愛想な男が?」
「そうよお、あの人妾が贔屓にしてる客だから依怙贔屓してくださるの」
「……ふむ、それも含めて二階で話そうか」
それもそうね、と妾はアシュと一緒に二階へあがり。二階でお茶を淹れて貰いながら、席に着く。
ふわふわのソファーは猫足で可愛らしい趣味だ。可愛さの中に品の良さもある。応接室はそういった調度品に満ちていて、どれもが蒼と白を模していた。
「まずは、聖女抜擢おめでとう」
「待って、あれは。不幸な事故なの」
「不幸? 聖女に選ばれるのは名誉ではないのかね?」
「原因が純粋に選ばれたんじゃないならね。貴方には見えないだろうけど、妾にはロス様が見えているの」
「正真正銘聖女だね」
「でも、どうして気に入られたと思う? ロス様は、妾の頭の中を見て気に入って聖女にしたんですって」
「それって……っふふ、っはははははは!! いいな、君といると飽きないな! イイ人を妻に選んだよ、私は」
「もう、笑い事じゃないの。癒やすときにアイデアがわかないと、癒やしてくれないのよ」
「貴腐人としてのアイデアか、なるほど、大変そうだ」
「そうよとっても大変。だから貴方の体験談も興味なかったけど、参考にするから教えて頂戴」
「いいよ、教えてあげよう。私のいる騎士団は隊長が四人、団長が一人、副団長が一人なんだ。私はそのなかでの四人のうちの一人だ」
「出世頭なのねえ」
「私の好きな人はこれが、妻子持ちの団長でね。どうだい、不憫だろう。最初から敵うわけない相手なんだ」
「夜這いよ夜這い。夜這いするのよ、野営で」
「相手の地位がしたならそれもやぶさかではなかったのだがね。諦めるしかないな」
「ときめくような話ないの? これまでのお二人のお話に」
「あるよ勿論。あれは私が入ったばかりのころ……」
アシュが話し始めた頃合いに、とんとんとノック音がして妾たちは姿勢を正した。
執事長が咳払いをして困惑している様子だったけど、妾たちに困惑している様子ではない。
「お客様がきております」
「誰だ? 今日は予定はないはずだ」
「それが奥様のお客様だとか……」
「ええ?」
「サリス・アーロックと仰ってます」
「ああ、サリス。注文した品を持ってきたのかしら」
「……君のイイ人か?」
「違うわ。誰にでもいい顔するから」
「あの無愛想な男が、ねえ」
アシュが瞬いてから、ふっと笑って悪戯を思いついたような顔をした。
執事長に取り次ぎ、ここへ呼ぶようにと命じれば、アシュは紅茶を一口飲んだ。
「ローズ、私はね。君の保護者にもあるような気持ちだ。並の男じゃ、君の婚姻を許さないからな」
「どうしたの急に」
「それが、私が親友として君に出来る護衛だ」
っふ、とアシュは笑ってからチェリーパイを手に取って私の口元に運ばせる。
「さぁほらお食べ」
「はしたないわ、こんなの」
「いいんだよ、こうして食べた方がうまい」
妾にチェリーパイをあずけると、指先についたチェリーのべっとりといた果汁を、アシュは舐めて笑った。
もう、ともそもそ食べていればサリスが入ってきた。
「お嬢、大丈夫ですかっ」
「なによサリス。危険なことなんて何一つないわ」
「だって陰険真面目コークスに嫁ぐなんて! きっといじめられてるとおもって!」
「やあやあ、サリス。君のそんな朗らかな声、初めて聞くよ」
「コークス様! どうです、ここは商談といきませんかっ」
「商談? 君は私に何を買って欲しい」
「お嬢……ローズ様のお気に召すもの持ってきます! 絶対一つは必ず気に入るものを持ってきます! だからお抱え商人にしませんか!」
商売の話をしにきたのかしら。それだとしても、随分射貫き殺しそうな瞳をするものだから、商人の目じゃないのよね。
だというのにコークスは妾とサリスをにやにやと見比べて、ふふっと小さく笑った。
「新しい性癖に目覚めてしまいそうだ。まあ、いいだろう。契約金はまけてくれるんだろうな?」
「贔屓にしてくだされば一割は値引きします!」
「一割?」
「に、二割でもいいです!」
「二割でも?」
「さ、三割はどうでしょう! これ以上は無理です!」
「そうか、君にとってローズへの愛はその程度だったか……」
「ふざけんな、四割してやるよ四割!!! 俺のお嬢への愛を舐めるなよ!!!」
「ふむ、たかが四割でそう言われてもなあ」
「くっっそ、もってけ泥棒半額だ! この鬼ッ、悪魔ッ!!」
「まだ物足りないなあ」
「ころしてやるーー!!!!!!!」
きっと泣きそうな睨み方をするのだから、可愛らしい。はっ、サリスみたいなちゃらいタイプと、アシュみたいな生真面目タイプの組み合わせもいいじゃない!?
今度の本のネタが出来てしまいそう!
そうとなれば、アシュとサリスの接点を持って貰うべく、契約してもらわないと!
「アシュ、契約しましょう」
「ははは、いいぞ。面白いものを見られそうだから、サリスの店の品半額になるおまけもついてくる」
「お嬢!!! 流石お嬢、お嬢は俺の天使だー!! 女神さまああ! 抱いて!! すきにして!!」
「サリス、それはアシュにお願いして!」
「ぜってえいやっす!!!!!」
「ははは、サリス・アーロック。覚えておけ、お前の雇用主は私だ。いいな、私が雇用主だ、ご主人様だよ」
「うるへえ、ありがとうございます!!」
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