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第十二話 推されるはめに!? 旦那様のせいよ!

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 ガニメデという少年は水色の髪に碧目の、背丈が妾と同じくらいの王子様。
 街で聞く噂は、冷血なのにうっとうしいだの、冷たくてあっさりしてるのに元気がいいだの、ちぐはぐな印象。
 間違いないのは、この国の第四王子ということ。

 ガニメデ殿下は妾とオズを王室のパーティに招き、堂々と発表した。
 国民に発表し豪華絢爛な馬車でパレードしたのちに、ガニメデ殿下のエスコートで聖女のローブをかけていただいた。


「イデアローズはこの国の立派な聖女だ、ボクがしっかりと認めよう!」

 陛下に宣言すれば、陛下は確かに頷き。皇后は嬉しそうにはにかんで、呪いから解放されたことに改めて感謝をされた。

「イデアローズ、ガニメデの呪いを解いた報償を与えましょう、聖女任命とは別の褒美です」
「いえ、お気持ちだけで結構です。試練の一つだったのですから」
「まあなんと慎み深い。でもいいのよ、何でも申してみて」

 皇后様はこのまま引くつもりもない様子だった。
 欲しい物は本当にないから、アシュに押しつけよう。

「それでしたら、旦那様に――アシュタルテへ報償を与えてください」
「なるほど、妻の働きは夫の働きですね、判りました。コークス卿に願いを聞いてみます」
「はい、是非に」
「うまく逃げられちゃった」

 皇后様は茶化すように穏やかに笑い、口元を隠した。
 あまりに楽しそうな笑顔だったからつられて、笑顔になる。

「君がコークス卿の姫でなかったら、ボクの奥さんにするという報償でもよかったんだがね!」
「それは別の方に譲りますわ」
「うまく逃げられちゃった」

 親子で同じこと言うあたり、仲が良いんだなあってのが伝わって少しだけ暖かくなる。
 ガニメデ殿下は改めてパーティを仕切り直し、その後は談笑が広がる。
 控えていたアシュがやってくると、妾はほっとする。

「私におしつけないでくれたまえよ」
「困っちゃう、妾はほしいものないもの。アッ、イケメン達の水浴び会合とかにすればよかったかしら……」
「ほしいものあるじゃないか、サリスが怒るぞきっと」
「サリスに怒られても何も怖くないわ? どうしてサリスが怒るの」
「鈍感というか、君は恋の概念が壊れているね。とても男同士の恋は妄想するのに」
「それロス様にも言われたわ」

 アシュと話し込んでいれば、オズが妾のそばによってきた。
 オズのドレス姿は華やかながらどこか上品さを込められているカクテルドレスだった。
 オズは妾と顔を合わせると、ぱちっと目を見開く。

「イデアローズ様、先日は有難う御座いましたッ。自分はイデアローズ様のお心の深さに救われましたッ」
「いいえ、とんでもない。妾、貴方には期待してるの」

 くる、と指先にお団子からはぐれたオズの髪の毛を絡めて、ね、と笑いかければオズは真っ赤になり目をぐるぐるとさせた。

「ご威光が神様より強い~~」
「あら、オズ? オズ? どうなさったの」
「ローズ駄目だよ。オズはシャイだってうちの隊でも有名なんだ」
「お知り合い?」
「オズはうちのセレイズ女騎士団っていう四人しかいない女性騎士隊長のうちの一人だよ」
「じゃあオズとアシュは同僚なの?」
「そう、オズの方が遅れて入ってきたけれどね。オズは兎に角、美形に免疫がないよ」
「美形?」
「君のような極上な美女に、色気をふりまかれたら貢いでしまうよ」
「そ、れは」

 貢がれそうになったのすでに何回もある、なんて言い出せず。
 妾はオズを支えるとオズはしっかりと抱きしめて、妾の匂いを嗅いでる気がしたけどきのせいかしら?

「オズ、ステイ。離れるんだ、私の奥さんだよ」
「はっ、すみません、つい……イデアローズ様とは婚姻されたのですね」
「いや、まだ婚約者だけどね。うちの妻はハードルが高い」
「ふふ、障害がたくさんあるほうが滾るでしょう?」

 色々含めて明言を避ければ、オズはふぐうっとまた胸元を押さえている。本当にどうしたのかしら?

「イデアローズ様、コークス様。自分、イデアローズ様を推してもいいですかっ」
「構わないよ」
「アシュ! いやよ妾、オズとはお友達になりたいもの」
「可愛い、可愛いイデアローズ様……有難いですが、自分は友情より尊さを感じるんです……」
「っふ、はっはっは、これは愉快だ。本当に君は面白い人選ばかりしてくるなあ! オズがこんなに愉快な人だと思わなかったよ」
「コークス卿とは今度から仲良くしましょうね。それでは失礼します、またのちのち」

 オズはドレス姿だというのに、びっと敬礼し、そのまま去って行った。
 アシュはひたすら笑い転げている。
 その光景を遠くからガニメデ殿下が楽しそうに眺めているなんて、妾は知らなかった。
 
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