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第二十話 世界一の可愛い人なのかもね、貴方はきっと
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邸宅に今度こそ帰宅すれば何処か暗い我が家。
アシュの様子を見に部屋を覗き込めば寝ている姿。
起こしては悪いかと思って出て行こうとすれば声をかけられる。
「ふられたよ」
「いいえ、ふられてはいないわ。ルルはきっと、貴方が強引にいけばくっつくわ」
「どうしたってそんなことがわかるのだ」
皮肉じみた言葉。妾に八つ当たりなんて珍しいと思い、そのまま扉に背中を預けて、中へ入る。
アシュは妾を寂しそうに見つめる。
「私が君のような身体であれば愛されただろうか。柔らかな胸に尻があれば……」
「違うわ、彼は今の貴方を愛している。判っているでしょう、彼の敵は貴方じゃないって」
「……そうだな、彼の敵は彼自身だ。ルルがルルを退けない限り、駄目なのだろう」
「ルルを退かせて、ルルをいたわれるのも貴方よ。貴方は諦めるだけでいいの?
駄目よと言われて簡単に頷けるのなら、それは諦めて正解ね」
「……君は慰めることもできないのかね」
「慰めて貴方が喜ぶのならやぶさかじゃないけれど。貴方が望んでるのは激励でしょう? 優しい言葉は後で好きなだけかけてあげる。今は頑張って見てもいいのではなくて?」
「……君は。もし、もしも。サリスが君を諦めると言ったらどうする」
「そうね、瞳を見るわ。瞳を見て、本当を語っているならその通りにするのも愛なのかも。でも、嘘を語るのなら。妾はあの人を望むかも知れない」
「……ふふふ、少しだけ嬉しいな。君にも恋が訪れそうか」
「妾をからかう余裕があるなら大丈夫よ。ここは夜這いでもして、背中おしてきなさい。それで君しかいないんだ、とでも告げて最後にキスのひとつでもしてあげればいいわ」
「まったく、君はほんとに恋愛未経験者なのかな。少しばかり頑張らねばという気にさせるのだから、すごいね。ねえ、ローズ」
「なあに」
「約束しよう、君がサリスと結ばれる手伝いをいつか是非させてくれ」
「……ばか。あの人じゃないかもしれなくてよ?」
「いいや、それはないね。たった今、君の瞳が嘘を言った」
アシュは笑うと起き上がり、妾の頬を撫でてから頭をわしゃりと撫で。
上着を手にしたまま部屋を出て行った。
アシュの部屋から窓を眺めれば分かるわ、これから馬を走らせてルルの元に会いにいったのだって。
頑張ってね、旦那様。
*
サリスは数日ほど妾に声をかけるのをそわそわとしていた。
手が重なれば大げさに離れるし。流石に妾も傷付くのだけれど。
「そういえば。コークスの旦那、やったんですね。ルルが一部で不埒だと言及されていると、聞きました。それでもルルは笑っていると」
「アシュは囲ってやるから放っておけと笑っていたわ」
「旦那らしい強気ですね。……ねえ、お嬢はそのままでいいんですか。好きな奴出来ても誤解されるかもしれないですよ。今のままだと結ばれない確率高くないですか」
「……妾はね、好かれるの怖いからいいの。自分に好意が向けられるのは何よりも怖い」
妾を好いてくる人の理由はたかがしれるもの。
家柄、見た目、それだけでしょう。妾の性格をみて好きだというひとはいないもの。
サリスがそっと何処か別の方向を見ながら手を繋いでくる。
妾は服を見ていたから生地を握っていた手を重ねられて。先ほど払われた手を重ねられて目を丸くする。
「お嬢。じゃ、じゃあ。俺が貴方を本気で好きだと、言ったら。どどどどうするんですか」
――少なくとも。こんなどもったり、真っ赤な顔でかっこつけきれない人なら。
家柄と見た目だけじゃない気がした妾は少しだけ笑って。
「貴方次第よ」
悪女っぽく耳元で囁いてあげる。
甘く可愛らしいのを意識した声で囁けば、貴方の顔が蕩ける。
蕩けた顔の貴方が可愛らしくて、妾は思わず微笑んでしまった。
微笑んだ妾にサリスは顔を近づけようとする。
なあに? キス?
貴方なら、いいかもしれない。
目を閉じても一向にふってこない。
ゆっくり目をあければ、サリスは顔を真っ赤にして恥じらって俯いてる。
あんなに口説いていたのにシャイだなんて。
(好きな相手にこれだけ一喜一憂する人なら、悪い企みなんてできないものね?)
本当になんて可愛らしい、受けにぴったりの人なのかしら、と貴方でちょっと妄想してしまう、
ごめんなさいね、この癖だけは抜けそうにない。
アシュの様子を見に部屋を覗き込めば寝ている姿。
起こしては悪いかと思って出て行こうとすれば声をかけられる。
「ふられたよ」
「いいえ、ふられてはいないわ。ルルはきっと、貴方が強引にいけばくっつくわ」
「どうしたってそんなことがわかるのだ」
皮肉じみた言葉。妾に八つ当たりなんて珍しいと思い、そのまま扉に背中を預けて、中へ入る。
アシュは妾を寂しそうに見つめる。
「私が君のような身体であれば愛されただろうか。柔らかな胸に尻があれば……」
「違うわ、彼は今の貴方を愛している。判っているでしょう、彼の敵は貴方じゃないって」
「……そうだな、彼の敵は彼自身だ。ルルがルルを退けない限り、駄目なのだろう」
「ルルを退かせて、ルルをいたわれるのも貴方よ。貴方は諦めるだけでいいの?
駄目よと言われて簡単に頷けるのなら、それは諦めて正解ね」
「……君は慰めることもできないのかね」
「慰めて貴方が喜ぶのならやぶさかじゃないけれど。貴方が望んでるのは激励でしょう? 優しい言葉は後で好きなだけかけてあげる。今は頑張って見てもいいのではなくて?」
「……君は。もし、もしも。サリスが君を諦めると言ったらどうする」
「そうね、瞳を見るわ。瞳を見て、本当を語っているならその通りにするのも愛なのかも。でも、嘘を語るのなら。妾はあの人を望むかも知れない」
「……ふふふ、少しだけ嬉しいな。君にも恋が訪れそうか」
「妾をからかう余裕があるなら大丈夫よ。ここは夜這いでもして、背中おしてきなさい。それで君しかいないんだ、とでも告げて最後にキスのひとつでもしてあげればいいわ」
「まったく、君はほんとに恋愛未経験者なのかな。少しばかり頑張らねばという気にさせるのだから、すごいね。ねえ、ローズ」
「なあに」
「約束しよう、君がサリスと結ばれる手伝いをいつか是非させてくれ」
「……ばか。あの人じゃないかもしれなくてよ?」
「いいや、それはないね。たった今、君の瞳が嘘を言った」
アシュは笑うと起き上がり、妾の頬を撫でてから頭をわしゃりと撫で。
上着を手にしたまま部屋を出て行った。
アシュの部屋から窓を眺めれば分かるわ、これから馬を走らせてルルの元に会いにいったのだって。
頑張ってね、旦那様。
*
サリスは数日ほど妾に声をかけるのをそわそわとしていた。
手が重なれば大げさに離れるし。流石に妾も傷付くのだけれど。
「そういえば。コークスの旦那、やったんですね。ルルが一部で不埒だと言及されていると、聞きました。それでもルルは笑っていると」
「アシュは囲ってやるから放っておけと笑っていたわ」
「旦那らしい強気ですね。……ねえ、お嬢はそのままでいいんですか。好きな奴出来ても誤解されるかもしれないですよ。今のままだと結ばれない確率高くないですか」
「……妾はね、好かれるの怖いからいいの。自分に好意が向けられるのは何よりも怖い」
妾を好いてくる人の理由はたかがしれるもの。
家柄、見た目、それだけでしょう。妾の性格をみて好きだというひとはいないもの。
サリスがそっと何処か別の方向を見ながら手を繋いでくる。
妾は服を見ていたから生地を握っていた手を重ねられて。先ほど払われた手を重ねられて目を丸くする。
「お嬢。じゃ、じゃあ。俺が貴方を本気で好きだと、言ったら。どどどどうするんですか」
――少なくとも。こんなどもったり、真っ赤な顔でかっこつけきれない人なら。
家柄と見た目だけじゃない気がした妾は少しだけ笑って。
「貴方次第よ」
悪女っぽく耳元で囁いてあげる。
甘く可愛らしいのを意識した声で囁けば、貴方の顔が蕩ける。
蕩けた顔の貴方が可愛らしくて、妾は思わず微笑んでしまった。
微笑んだ妾にサリスは顔を近づけようとする。
なあに? キス?
貴方なら、いいかもしれない。
目を閉じても一向にふってこない。
ゆっくり目をあければ、サリスは顔を真っ赤にして恥じらって俯いてる。
あんなに口説いていたのにシャイだなんて。
(好きな相手にこれだけ一喜一憂する人なら、悪い企みなんてできないものね?)
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