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第三話 状況の把握
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斬の腕の中で、檜風呂の中。
斬が処理をした身体は綺麗で不思議な疲労感とふわふわした心地だけが身体に残る。
「何が切っ掛けかわからないが、お前ほんとに記憶ないみたいだねえ」
「だから言っている、だろ。あんなになるまで……」
「気持ちいいのお前好きだからいいじゃあないか」
「そうだけどあんな形で知りたくなかった! 人間には何のために会話ってものがあるとおもう!?」
「知らんなあ、僕は蜘蛛だから」
「蜘蛛?」
「そう、好きになった人は食べちゃう蜘蛛なんだ」
怖いだろう、とどや顔で斬が威張れば、手で水鉄砲の形を作る久遠。飛沫を斬に浴びせまくると、斬は嫌がった。
「子供みたいな真似するなよ、随分精神年齢が退行したな」
「うるっせばーか、ばーか! ……記憶無くす前の俺ってどんなやつだったの」
「聞き分けの良いお人形だったよ。ビスクドールを弄っているみたいな感覚なのに、えろいから不思議だった。いまはいまで面白い……が、だめだな」
「なにがだめなんだ」
「お客様の前にお出しできない状態だ。とくにお得意様は。だから、ここ数日間みっちり教育を受け直ししてもらうぞ」
「……あんた以外ともヤるの?」
「そういうことになる」
逃げてやろうかなと思案していれば、じっと冷たい目は眇めてきて呆れている。
「逃げようなんて思うなよ、この遊郭は蜘蛛の巣の輪郭をなぞるように、迷路じみた作りになっている。僕の案内なしでは出て行けやしない」
久遠を引き寄せ抱きしめて唸る声に偽りは含まれていないと感じる。
久遠は抱きしめられれば謎の鼓動に慌てて、斬から離れようとした。
広い浴槽なのだから密着する必要もないだろうに、斬はスキンシップが好きな様子だった。
「客を何人取れば逃がしてくれる?」
「駄目だ、ずっとだ。ずーっと、お前はそばにいるんだ。わかるね? ……記憶をなくしても。ずっとだよ」
「わかんねえよ、そもそもなんでここにいるのかも知らない」
「……いいじゃないか、ずっとここにいたまえよ。不自由はさせない。対価にお前は気持ちよくなるだけ」
「気持ちいいのはよかったけど、さあ。ここで何かいやなことあったんじゃないの、俺ってやつは」
「それはそうかもしれないな。ここんとこサボり癖がついていた。仕込みもあるんだから、しっかり働いてもらうぞ」
有無を言わさない言葉に久遠は湯船からざばっと出て行き、気恥ずかしさを隠していく。
いったいなにがどうなっているか判らない。
あんな男に仕込まれていくのを悦びに感じていくなんて。人間にうまく化けているとはいえ、人ではない気配もする。牙は若干見える。
ときめく要素など何一つないはずだ。
それでも、――あの男の大きな手はがっしりとしていてとても全てを預けたくなるほど好かった。
「こんなときに何を考えているんだ、俺は」
頬を撫で摩りながら風呂上がりの鏡台へ近づく。
銀色の髪に、紫の目。童顔は年齢をいくつか思い出させない効果を増させる。
頭のもやもやをかき消そうと久遠はバスタオルで頭をわしわしと拭いていく。
後ろから同じくあがった斬がバスタオルに手を重ねて、タオルドライをしていく。ゆっくりとバスタオルで雫を丁寧に拭き取るとドライヤーで髪の毛の手入れまでしてくれる上に、肌の手入れもわざわざしてくれる。
斬の目の怖さとは裏腹に、甲斐甲斐しい。
瞬いて驚いていると、斬は指先にマニュキアを塗っていく。選んだ色は斬の髪と目の色。
「飼われている事実は、お忘れ無きよう」
「丁寧な飼い主っぷりだな」
「飼い犬はかわいいものじゃないかね」
「あんたの価値観はわかったよ、俺は金を運ぶ犬ってことなんだな」
「さてね、あとの話は自分で思い出していけ。僕は何も言わない」
面倒くさくなったのか斬はマニキュアを足先にまで塗っていく。
足先に塗っている姿を見ていくのは変な気分になっていく。
じくり、と背筋に淡い悦が立つ。
まだ塗られていない片方の足の親指を、斬に向ける。
飼い犬の反乱めいた行動に動じるわけもなく、斬は親指を口腔に含むと唾液たっぷりに指フェラのような淫らな動きを見せた。
行為自体気持ちいいわけじゃないのに、腰が甘く痺れる。
「ふふ、あんたこうやって傅くほうが似合うじゃないか」
「僕のサービス精神を揶揄しないでくれたまえよ」
かり、と甘噛みしてから足から口を離した斬は、久遠を引き寄せ足に齧り付き、押し倒した。
「風呂入った意味がなくなるよ」
「それもそうだな。次の時、たーっぷり仕置きしてやるから覚悟するんだねえ、せいぜい気持ちよくしてくれよ」
斬は唾液を着物の袖で拭うと、親指に押し倒した姿勢で、足を抱えて塗り直した。
斬が処理をした身体は綺麗で不思議な疲労感とふわふわした心地だけが身体に残る。
「何が切っ掛けかわからないが、お前ほんとに記憶ないみたいだねえ」
「だから言っている、だろ。あんなになるまで……」
「気持ちいいのお前好きだからいいじゃあないか」
「そうだけどあんな形で知りたくなかった! 人間には何のために会話ってものがあるとおもう!?」
「知らんなあ、僕は蜘蛛だから」
「蜘蛛?」
「そう、好きになった人は食べちゃう蜘蛛なんだ」
怖いだろう、とどや顔で斬が威張れば、手で水鉄砲の形を作る久遠。飛沫を斬に浴びせまくると、斬は嫌がった。
「子供みたいな真似するなよ、随分精神年齢が退行したな」
「うるっせばーか、ばーか! ……記憶無くす前の俺ってどんなやつだったの」
「聞き分けの良いお人形だったよ。ビスクドールを弄っているみたいな感覚なのに、えろいから不思議だった。いまはいまで面白い……が、だめだな」
「なにがだめなんだ」
「お客様の前にお出しできない状態だ。とくにお得意様は。だから、ここ数日間みっちり教育を受け直ししてもらうぞ」
「……あんた以外ともヤるの?」
「そういうことになる」
逃げてやろうかなと思案していれば、じっと冷たい目は眇めてきて呆れている。
「逃げようなんて思うなよ、この遊郭は蜘蛛の巣の輪郭をなぞるように、迷路じみた作りになっている。僕の案内なしでは出て行けやしない」
久遠を引き寄せ抱きしめて唸る声に偽りは含まれていないと感じる。
久遠は抱きしめられれば謎の鼓動に慌てて、斬から離れようとした。
広い浴槽なのだから密着する必要もないだろうに、斬はスキンシップが好きな様子だった。
「客を何人取れば逃がしてくれる?」
「駄目だ、ずっとだ。ずーっと、お前はそばにいるんだ。わかるね? ……記憶をなくしても。ずっとだよ」
「わかんねえよ、そもそもなんでここにいるのかも知らない」
「……いいじゃないか、ずっとここにいたまえよ。不自由はさせない。対価にお前は気持ちよくなるだけ」
「気持ちいいのはよかったけど、さあ。ここで何かいやなことあったんじゃないの、俺ってやつは」
「それはそうかもしれないな。ここんとこサボり癖がついていた。仕込みもあるんだから、しっかり働いてもらうぞ」
有無を言わさない言葉に久遠は湯船からざばっと出て行き、気恥ずかしさを隠していく。
いったいなにがどうなっているか判らない。
あんな男に仕込まれていくのを悦びに感じていくなんて。人間にうまく化けているとはいえ、人ではない気配もする。牙は若干見える。
ときめく要素など何一つないはずだ。
それでも、――あの男の大きな手はがっしりとしていてとても全てを預けたくなるほど好かった。
「こんなときに何を考えているんだ、俺は」
頬を撫で摩りながら風呂上がりの鏡台へ近づく。
銀色の髪に、紫の目。童顔は年齢をいくつか思い出させない効果を増させる。
頭のもやもやをかき消そうと久遠はバスタオルで頭をわしわしと拭いていく。
後ろから同じくあがった斬がバスタオルに手を重ねて、タオルドライをしていく。ゆっくりとバスタオルで雫を丁寧に拭き取るとドライヤーで髪の毛の手入れまでしてくれる上に、肌の手入れもわざわざしてくれる。
斬の目の怖さとは裏腹に、甲斐甲斐しい。
瞬いて驚いていると、斬は指先にマニュキアを塗っていく。選んだ色は斬の髪と目の色。
「飼われている事実は、お忘れ無きよう」
「丁寧な飼い主っぷりだな」
「飼い犬はかわいいものじゃないかね」
「あんたの価値観はわかったよ、俺は金を運ぶ犬ってことなんだな」
「さてね、あとの話は自分で思い出していけ。僕は何も言わない」
面倒くさくなったのか斬はマニキュアを足先にまで塗っていく。
足先に塗っている姿を見ていくのは変な気分になっていく。
じくり、と背筋に淡い悦が立つ。
まだ塗られていない片方の足の親指を、斬に向ける。
飼い犬の反乱めいた行動に動じるわけもなく、斬は親指を口腔に含むと唾液たっぷりに指フェラのような淫らな動きを見せた。
行為自体気持ちいいわけじゃないのに、腰が甘く痺れる。
「ふふ、あんたこうやって傅くほうが似合うじゃないか」
「僕のサービス精神を揶揄しないでくれたまえよ」
かり、と甘噛みしてから足から口を離した斬は、久遠を引き寄せ足に齧り付き、押し倒した。
「風呂入った意味がなくなるよ」
「それもそうだな。次の時、たーっぷり仕置きしてやるから覚悟するんだねえ、せいぜい気持ちよくしてくれよ」
斬は唾液を着物の袖で拭うと、親指に押し倒した姿勢で、足を抱えて塗り直した。
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