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エピローグ
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休業日の札がかかった喫茶店『カフェ・ボヌール』には、三匹の動物がいた。
「この前行ったカフェの玄関に鉢植えがあったんだけど、うちもどうかな?」
キツネが口を開くと、ネコは身を乗り出して同意した。タヌキも、いいと思いますとうなずいている。
――彼らの正体は妖怪。
カフェ・ボヌールは、妖怪の住む幽世と人間の住む現世の狭間にある。ここは、人に化けられる妖怪しか通ることはできない。
だから、基本的には妖怪がお客様なのだが、ごくまれに人間が迷い込んでしまうことがあった。その者たちはみな心が不安定で、そのまま精神的負荷がかかると、幽世に引きずり込まれる危険がある。
この喫茶店は、できる限り人間と会話をして心を安定させてあげることで、現世に返す役割を与えられたのだ。
安藤帆夏も懸田翔も雪崎正志も、迷い込んできた人間たちである。
現世に無事戻ると、狭間での記憶はなくなるため、彼らはマスターたちのことを覚えていない。
◇
「はいはい! オムライスとかカレーとか出しましょうよ!」
ネコの姿をした萌花が、前足をあげて主張した。彼女は現世でもネコでいることが多く、店に訪れた人間の様子をこっそり見に行くこともある。
「うーん」
キツネ姿のマスターは、萌花の提案に腕を組んで悩む。
「キッチンのスペースが足りないと思うよ?」
タヌキ姿の静哉も会話に加わった。
「静哉さんの本を撤去して、お店をもっと広くしましょうよ~」
「萌花ちゃんだって、こっそり雑誌とか置いてるでしょ」
ギクッとした萌花は目をそらし、本棚の前に移動する。前足を合わせると周りに白い煙があがり、ネコの姿だった萌花が人間になった。整然と並べられた本の中から一冊を取り出しパラパラとめくる。
「だって静哉さんの本って難しいやつばっかりじゃないですか。純文学だけじゃなくてエンタメ系も読みたいです」
「好きな本は家に置いているから、あまり読まない純文学が必然的に多いだけだよ」
「ほらほら二人とも、話がそれていっちゃうよ」
二人が言い合っていると、すかさずマスターが注意する。萌花は本を棚に戻し、店内の椅子によいしょと腰をおろした。
「じゃあとりあえず、玄関に置く花を探しに行こうか」
マスターの声かけで、早速ホームセンターに向かうことになった三人。現世に行くので、マスターと静哉もすぐに人間の姿になり、白い煙が店内に充満した。
――人のいない空間に三人の足音だけが響き渡る。石畳の敷かれた神楽坂の路地裏を進んだ。やがて見えた神社の鳥居。ここが、現世と繋がる場所だ。
三人はゆっくりとその鳥居をくぐった。
さて、明日はどんなお客様に出会えるだろうか。
「この前行ったカフェの玄関に鉢植えがあったんだけど、うちもどうかな?」
キツネが口を開くと、ネコは身を乗り出して同意した。タヌキも、いいと思いますとうなずいている。
――彼らの正体は妖怪。
カフェ・ボヌールは、妖怪の住む幽世と人間の住む現世の狭間にある。ここは、人に化けられる妖怪しか通ることはできない。
だから、基本的には妖怪がお客様なのだが、ごくまれに人間が迷い込んでしまうことがあった。その者たちはみな心が不安定で、そのまま精神的負荷がかかると、幽世に引きずり込まれる危険がある。
この喫茶店は、できる限り人間と会話をして心を安定させてあげることで、現世に返す役割を与えられたのだ。
安藤帆夏も懸田翔も雪崎正志も、迷い込んできた人間たちである。
現世に無事戻ると、狭間での記憶はなくなるため、彼らはマスターたちのことを覚えていない。
◇
「はいはい! オムライスとかカレーとか出しましょうよ!」
ネコの姿をした萌花が、前足をあげて主張した。彼女は現世でもネコでいることが多く、店に訪れた人間の様子をこっそり見に行くこともある。
「うーん」
キツネ姿のマスターは、萌花の提案に腕を組んで悩む。
「キッチンのスペースが足りないと思うよ?」
タヌキ姿の静哉も会話に加わった。
「静哉さんの本を撤去して、お店をもっと広くしましょうよ~」
「萌花ちゃんだって、こっそり雑誌とか置いてるでしょ」
ギクッとした萌花は目をそらし、本棚の前に移動する。前足を合わせると周りに白い煙があがり、ネコの姿だった萌花が人間になった。整然と並べられた本の中から一冊を取り出しパラパラとめくる。
「だって静哉さんの本って難しいやつばっかりじゃないですか。純文学だけじゃなくてエンタメ系も読みたいです」
「好きな本は家に置いているから、あまり読まない純文学が必然的に多いだけだよ」
「ほらほら二人とも、話がそれていっちゃうよ」
二人が言い合っていると、すかさずマスターが注意する。萌花は本を棚に戻し、店内の椅子によいしょと腰をおろした。
「じゃあとりあえず、玄関に置く花を探しに行こうか」
マスターの声かけで、早速ホームセンターに向かうことになった三人。現世に行くので、マスターと静哉もすぐに人間の姿になり、白い煙が店内に充満した。
――人のいない空間に三人の足音だけが響き渡る。石畳の敷かれた神楽坂の路地裏を進んだ。やがて見えた神社の鳥居。ここが、現世と繋がる場所だ。
三人はゆっくりとその鳥居をくぐった。
さて、明日はどんなお客様に出会えるだろうか。
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