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しおりを挟む「マサキ様?」
俯いたまま動かない俺に不思議そうに声を掛けるロキに取り繕う余裕はない。
何かに導かれるように止まっていた足をもう一度人混みの方へ向けて進み始めてしまう。
強引に人混みの中央へ押し入ると、奴隷商とゴブル男爵の使いの男が揉めていた。
「ですから奴隷はお売りすることは出来ません」
「ゴブル男爵は金貨1万枚だそうと仰ってくださっているのだぞ。それだけで庶民ならば遊んで暮らせる額だろう。だと言うのにまだ足りないとはなんと強欲な」
男の非難に奴隷商のみならず周囲も眉を寄せる。
「どうせ後からつき返して返金させるつもりのくせによく言うぜ」とどこからか囁かれる。
ちらほらと同意の声は聞こえるが、誰も奴隷商を正面から庇おうとする者は居ない。
奴隷商は真っ青な顔で首を横に振る。
「そうではなく、こちらの奴隷は観賞用であり非売品です。当店の目玉にしようとかなりの額の借入をして仕入れた物なのです。どうぞご容赦ください」
深々と頭を下げる奴隷商に男は馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「ゴブル男爵に逆らおうと言うのだな。よほど商業ギルドの発行する営業権をはく奪されたいらしい」
「そんな…営業権が無くては商売が出来ません。借金が返せず破産してしまいます!」
「だったら貴様自身が奴隷にでも堕ちればよかろう! もっともみすぼらしい中年では二束三文だろうがな」
男の下卑た笑いが響く中、俺は俯く奴隷商の前にたどり着く。
「お、お、俺も」
突如現れた不審人物である俺に対して訝しげな視線が刺さりまくる。
思わず回れ右をしたくなったが、ここは我慢だとグッと踏ん張る。
「俺も、そ、そのど、奴隷、欲しいです。う、う、売ってください」
よし、言い切ったぞ。
達成感に満足しているが、気づくと周囲の視線は呆れかえったものに変化していた。
「今大切な話をしているところだ。阿呆に構っている暇は無い。居ね」
男が薄汚い野良犬を追い払うような仕草でシッシと手を振るが、それを無視して奴隷商へと目を向ける。
「お、俺は本気です。本気で、そのど、奴隷を買いたい」
「いや、だから非売品ですって」
奴隷商は困惑の表情を浮かべているが、それでも俺にもきちんと対応をする気があるらしい。
「お、俺なら、き、金貨10万枚払います」
俺の言葉に周囲からどよめきが起こる。
「ふん、どうせハッタリだろう」
「即金で!は、払えます。ぜ、絶対返却もしない! け、契約書に、か、か、書いてもらっても、か、構わない」
心底馬鹿にしきった男の言葉に被せるように声を張る。
更にどよめく周囲の中で、今まで沈黙を保っていたゴブル男爵の乗った馬車がギシギシと音を立てた。
重そうに馬車の入口の扉が開くとそこから大きな肉塊、もといゴブル男爵が現れた。
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