エンド後勇者、奴隷たちに振られまくる総受け生活

極寒の日々

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8ゴブル男爵

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ゴブル男爵は予想通りの巨漢であった。
それもみっちり肉が詰まった感じではなく、ぜい肉の脂身がプルンプルンしている柔らかい感じのフォルムである。
暑くもないのに全身には汗が浮かんでおり、独特な酸っぱい匂いが風に乗って辺りを舞っている。
馬車から登場して数歩歩いただけで疲れたかのように激しく口呼吸が繰り返される。
男爵のインパクトに誰もが圧倒されるなか、彼の視線は肉で押し上げられた細い目をさらに細めて俺を捉える。

「薄汚い野良犬が何を吠えるか」

この従者にしてこの主あり。
悪臭をまき散らしているのは男爵だと言うのに、まるで俺が臭いかのように鼻に皺を寄せている。
俺は意外とこういう悪意に満ちた相手への対応は苦手ではない。
好意を持っていない相手、それどころかすでに嫌われている相手ならばどんなに俺のダメな面を見せたところで現状変化はないのだから気楽なものだ。

「庶民風情が戯言を抜かしおって。このワシが誰だか知っての狼藉か」
「ゴブ、ゴル、ゴブル男爵だろ」
「知っていてその対応とは…。知能が低いとはこうも救われ難く嘆かわしいことなのか。この愚かな野良犬を捕らえよ」

背後に待機していた屈強な護衛2名がゴブル男爵の命により動き始める。
それに対応しようと身構えたが、俺の前にロキが庇うように立った。

「動くな。この人に無礼を働くつもりならばこちらも応戦する」

腰にある剣に手をかけて固い声色で忠告するロキ。
カッコいい…惚れてまうやろ…。
い、いやいかん。惚れ直してどうするんだ俺。ロキのことは忘れるんだろ。
うっかりときめいてしまった己を叱咤してたくましいロキの背中からゴブル男爵に視線を移す。

「護衛だとぉ? 貴様庶民ではないのか? まさかそのなり変装か? どこの家の者だ」

ロキの立派な体躯を目にして、今まで不遜だったゴブル男爵の顔色が少し変わる。
景気は良さそうだが男爵という地位は決して高い爵位ではない。


「おい、あれって勇者様じゃねぇか?」
「言われてみればそうだ。あの独特な喋り方、勇者様だ」
「あれが噂の勇者様か…なんか地味だな」

そうさ俺が地味勇者さ。
モブ顔過ぎて魔王討伐の記念パレードの時に「勇者様居なかったね」って言われたけど、めちゃくちゃ中央に居て頑張って手を振っていたというエピソードを持つ勇者様さ。

「勇者!? そんなはずあるわけなかろう!」
「ゴブル様、本物かもしれません。この街に勇者が居を構えているという噂を聞いたことがございます」

叫ぶゴブル男爵に従者が慌てた様子で耳元にささやく。
先程までのこちらを見下しまくった表情はなりを潜め、二人とも顔色が悪い。
勇者という地位は周囲の心情はどうあれ一応王族と同等という事にはなっている。
男爵では到底太刀打ちできないだろう。
この地位を重いと感じる事ばかりだが、こうして話の通じ無さそうな相手を押さえつけられるのはメリットなのだろう。

「こ、こんなちんけな男が勇者のはずがない!! この男の虚言だ!」

あ、開き直った。
従者の方はゴブル男爵を止めようとパツンパツンのジャケットを引っ張って泣きそうな顔で首を横に振っている。

「何をしておる! 早く偽物の存在を衛兵に通報せんか!!」
「はい! ただいま!!」

唾をまき散らしながら血走った目で命令を下し、パツンパツンジャケットから手を離した従者はこの場から離れられるのがありがたいとばかりに素早く走った。


「お前らはこの偽物を捕縛いたせ!」
「し、しかし…」「……」


一方、護衛二人は戸惑いを見せてこちらに向かって来ようとはしない。
それに対してゴブル男爵は怒りで顔を真っ赤にしてプルプルと顎の肉を揺らしている。

「ワシの命令に逆らうのか貴様らぁぁぁ!!! このままでは家族諸共命はないものと思え!!!」

叫んだ口から唾がさらに飛び、怒りで噴き出た汗と共に乾いた地面に吸われていく。
ゴブル男爵の脅しに押された護衛二人がこちらに剣を構えた。
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